闇夜のセレナーデ
□月夜の招待状
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何処にでもある、普通の高校の風景。友達とふざけて、勉強して、ときには恋なんかしたりして。私も、例外なくその風景に入っていた。
「莉都(りと)、もう進路決めた?」
とある公立高校の、昼休み。私、日下部莉都は目の前の友人、奈津とお喋りしながら昼食を食べていた。
今日のお弁当は、力作、ハンバーグ弁当なのだ。
「いや、どうせ就職だからさ。あ、奈津、今ご飯粒こぼした」
「あ、ありがと」
「はいティッシュ。これで取りなさいな」
「さっすが莉都。頼れるわぁ」
「それはどーも」
私の人生は何処にでもありふれているようなもので、価値観だっていわゆる“普通”。
もしも、“普通”でない所があるのなら。
「そういえばさ、莉都が好きな森田君とは進展あった?」
「あー、別にもう好きじゃないや」
「へ?」
「なんかさ、3年に進級してクラスが離れたでしょ。そしたら別に何とも思わなくなっちゃって」
「じゃ、莉都は森田君に恋してた訳じゃなかったって事?」
「結果的にそうなるね」
もしも私に普通ではない所があるならば、それはきっと、誰かを好きになれない所かもしれない。好きな人がいなくてはいけない、なんて決まりがあるわけではないから、困る訳ではないけれど。
けれど、誰かを心から愛して愛される友人――奈津を見ると、羨ましく思うのも本当。
「さて奈津。あと2、3分で昼休み終わるよ。5時間目の準備した方が良いんじゃない?」
会話をあえて切るように話しかける。仲の良い奈津といえど、あまり知って欲しくない感情だから。
「じゃあ、私は席に戻るね」
奈津が授業の準備を終えた直後、先生が教室に入って来て退屈な5時間目が始まる。
こんな普通の毎日を、私はそれなりに気に入っている。つまらなくないと言えば嘘になるけど、衣食住に困らず暮らせるだけ幸せ者だ。