闇夜のセレナーデ

□月夜の招待状
1ページ/9ページ


 何処にでもある、普通の高校の風景。友達とふざけて、勉強して、ときには恋なんかしたりして。私も、例外なくその風景に入っていた。


「莉都(りと)、もう進路決めた?」


 とある公立高校の、昼休み。私、日下部莉都は目の前の友人、奈津とお喋りしながら昼食を食べていた。
 今日のお弁当は、力作、ハンバーグ弁当なのだ。


「いや、どうせ就職だからさ。あ、奈津、今ご飯粒こぼした」


「あ、ありがと」


「はいティッシュ。これで取りなさいな」


「さっすが莉都。頼れるわぁ」


「それはどーも」


 私の人生は何処にでもありふれているようなもので、価値観だっていわゆる“普通”。
 もしも、“普通”でない所があるのなら。


「そういえばさ、莉都が好きな森田君とは進展あった?」


「あー、別にもう好きじゃないや」


「へ?」


「なんかさ、3年に進級してクラスが離れたでしょ。そしたら別に何とも思わなくなっちゃって」


「じゃ、莉都は森田君に恋してた訳じゃなかったって事?」


「結果的にそうなるね」


 もしも私に普通ではない所があるならば、それはきっと、誰かを好きになれない所かもしれない。好きな人がいなくてはいけない、なんて決まりがあるわけではないから、困る訳ではないけれど。
 けれど、誰かを心から愛して愛される友人――奈津を見ると、羨ましく思うのも本当。


「さて奈津。あと2、3分で昼休み終わるよ。5時間目の準備した方が良いんじゃない?」


 会話をあえて切るように話しかける。仲の良い奈津といえど、あまり知って欲しくない感情だから。


「じゃあ、私は席に戻るね」


 奈津が授業の準備を終えた直後、先生が教室に入って来て退屈な5時間目が始まる。
 こんな普通の毎日を、私はそれなりに気に入っている。つまらなくないと言えば嘘になるけど、衣食住に困らず暮らせるだけ幸せ者だ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ