枕草子
一〜五五|五六〜一〇八|一〇九〜一六〇|一六一〜二一二|二一三〜二六五|二六六〜三一八
春はあけぼの。
やうやうしろくなりゆく、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。
夏は夜。
月のころはさらなり、やみもなほ、ほたるの多く飛びちがいたる。また、ただひとつふたつなど、ほのかにうちひかりて行くもをかし。雨など降るもをかし。
秋は夕暮。
夕日のさして山のはいとちかうなりたるに、からすのねどころへ行くとて、みつよつ、ふたつみつなどとびいそぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いとちひさくみゆるはいとをかし。日入りはてて、風の音むしのねなど、はたいふべきにあらず。
冬はつとめて。
雪の降りたるはいふべきにもあらず、霜のいとしろきも、またさらでもいと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火もしろき灰がちになりてわろし。
【参考】
『枕草子』
池田亀鑑校訂
岩波文庫