novel

□気づかない
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「その呼び方やめろ」

いつもは大嫌いなはずの呼び方なのに、月島に言われると強く言い返せない。

「なに?いつもの強気はどこにいったの?」

月島がクスクスと笑う。

「うるせぇ」

俺は気恥ずかしさを晴らすように、もう一度サーブを打つ。
今度はネットに引っかかる。

「どうした?本気に調子わるいのか?」

その本気の態度に気分が少し明るくなる。

だが、たしかに今日の俺は不調かもしれない。
頭がボーとするし、体には力が入らない。
いつもは部活前に買い置きしといたパンを食べるのに、今日は食欲がわかなかった。

風邪でもひいたのだろうか。

とりあえずこんな調子で練習する気にもなれず、体育館の隅に腰をおろす。

それを見兼ねた月島がドリンクを渡してくれる。

「月島は彼女いるのか?」

「は?」

しまった!気が緩んだ。

聞くつもりなど毛頭無かったのに、つい口を滑らせる。

「く、クラスの女子に頼まれたんだよ。聞いといてくれって」

「ふ〜ん」

咄嗟にフォローをいれたが、不審に思われなかっただろうか。

「君はどっちがいい?」

「なにが?」

「僕に彼女がいるかいないか、どっちがいい?」

不覚にもいない方がいいなんておもってしまった。

「…俺には関係ねぇ」

「そうだね。関係ない」

胸がキュッと苦しくなる。
喉を締め付けられて、呼吸ができなくなる。

関係ない…

自分で言っといて切なくなる。
目頭がカッと熱くなり、俺は隠すように俯いた。
やばいやばい。
泣きそう…。

「彼女はいないよ」

月島の言葉にパッと顔をあげる。

「でも好きなひとはいる」

その言葉に再び俯く。
胸のモヤモヤが最高潮に達して、喉の奥が痛む。
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