居場所が欲しかったんだ。

□見透かされた様な
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「お前、暗い顔してんなぁ」











少女の心の中は闇でいっぱいだった。


少女の家庭は恵まれていた。

優しい両親。
大きな家。
有り余るほどのお金。


母親ゆずりということで容姿にも恵まれた少女に苦労という文字は存在しなかった。



笑い合える友達がたくさんいた。
話を親身に聞いてくれる教師がいた。


でも、両親は自分を見てくれはしなかった。


容姿の良い、勉強のできる、地位のある娘だけを見ていたことを知った少女は心から笑うことを止めた。
いつしか、両親以外の人間も信用できなくなっていた。







成人し、大学に通いながらも一人暮らしを決心した彼女は住むところを捜す前に家を出た。

携帯から、自分の記憶から両親の存在を消し――少女は星で輝く河川敷に降りた。





降りた河川敷にいた河童というありえない存在に冒頭の台詞を吐かれたのだ。


「お前、心ん中闇だらけだな。見りゃ分かるぞ」


笑いながら失礼な言葉を連呼する河童を見つめる少女。
――見つめる、というより珍しい存在を前に凝視することしかできないだけなのだが。


「人生って何だと思いますか?人って何だと思いますか?」


「みずしらずの河童に質問することじゃねぇな」


「みすしらずの河童だからできる質問です」



違いない、と笑い飛ばした河童は少女を見つめ、呟いた。


「…よる…」

「…?ええ、今は夜ですよ…?」

「お前の名前、今日から“夜”な」


質問とは全く関係のない答えを返され、少女は驚愕した。


「一応、神木月雫という名前があるんですけど…」

「ここじゃ関係ねぇよ」

「私ここに住むなんていってないんですけど」

「この名前なぁ…」

「人の話聞けよ!!」



いつも静かにしていた自分の声だとは思えないほどの大きな声が出た。
更に驚愕した月雫は羞恥心もあり、俯く。



「お前の中の闇がそんな風に消えるといいな」

「……」

「闇は真っ暗だけどよ、夜だと月やら星やらが出てて綺麗だろ?」

「…だから、その名前ですか…」



お前にぴったりだな、と笑う河童が輝いて見えた。
少しだけ笑みを浮かべた月雫。



「私、ここに住みたい…です…」

「んじゃあ、きまりだな!」










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