届く距離に
□ 人形の心
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Х
吾僻館 撫子の部屋
「どうぞ、楽にしていて下さい」
撫子の部屋も他の部屋と同様、とても広く豪華だった。
真ん中に置かれるベッド。
洋風の椅子がついている机。
天井の照明。
『金持ち』という言葉がしっくりとくる豪華な部屋で薫は戸惑っていた。
「…撫子さんの部屋、すごく綺麗」
「ありがとうございます」
薄い笑みを浮かべ、褒められたことへのお礼をいう撫子に弥彦が近寄る。
「なぁ、なんで血まみれで倒れてたりしたんだ?」
誰もが疑問に思っていたことを口にした弥彦に笑顔を向け、撫子が話し始める。
「昨晩、吾僻館に大事なお客様が来られると松井様から聞きまして。少し席を外してほしいと言われました。
部屋にいても暇だったので夜道を散歩していたら30人あまりの男性に襲われてしまいまして」
「…よくあの傷で済んだわね」
恵が驚きつつ撫子に向かう。
「元々、私は松井様を守るために我流ではありますが剣術を取得しております。
半分あたりの意識を飛ばしたところで相手は逃げていったのですが傷の痛みでその場で私も意識を手放してしまったのです」
撫子の返答を聞き、「ふぅん」と適当な返しをした弥彦はある物を見つける。
「なんだこれ…本…?」
弥彦が手にしたものを見た瞬間、撫子の表情が変わり―
弥彦から本らしきものを取り上げた。
「…撫子さん…?」
「…?」
「ごっ、ごめんなさい。急な用事を思い出したので松井様のところへ行ってまいります。どうぞくつろいでいてくださいね」
本らしきものを机の中にしまうと撫子は自分の部屋を出て行き、松井の下へと向かった。
Х
「んじゃあ、客人との話のために嬢ちゃんを外に出したらこんなことになってたと?」
「そういうことです」
撫子が何故路地裏にいたのかを松井視点で聞いた剣心と左之助。
「あのとき自分が外に出していなかったら…」と自分を責め始める松井に剣心が冷たく言い払う。
「松井殿の話には嘘があるでござる」
話し終えた松井の耳に聞こえる剣心の声。
「嘘、ですか?何を言うのです」
「その愛想笑いが『嘘です』って言ってるようなもんだぜ」
左之助の言葉に松井の表情が曇る。
「松井殿は撫子殿は一度も人を斬っていないと申した。これは剣術を使うものでないと分からないものなのだが―」
笑顔を消す剣心に恐怖を感じた松井の額からは汗が流れる。
「撫子殿の剣からは、血の匂いと脂の曇りがあったでござる」
「そいつが大勢の人間を斬ってるっつう証拠になるんだよ」
ソファに身体を預ける左之助と話終えてもなお笑顔を消し続ける剣心。
「…くくっ」
突然、松井が笑い出す。
先ほどのような人形の糸が切れたかのような突然の笑い。
「まぁ、良い。お前らも一緒に殺せば良いだけだ」
「本当のことを話してやろう小僧共」