届く距離に

□ 人形の心
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「とりあえず、何からお話いたしましょう」

吾僻館は洋風の綺麗な屋敷だった。
松井が一つ一つ丁寧に紹介していった部屋はどれも広く、綺麗なもので剣心組は息を呑んだ。

薫、恵、弥彦は後で剣心達から話を聞くことにし今は撫子の部屋にいる。


残った剣心、左之助の二人を客室に通し松井は話しを進めようとした。


「んじゃ、まずさっきの続きといこうじゃねぇか。なんでアンタらは被害を受けなかったんでぃ」

左之助の問いかけに松井は「あぁ、そのお話からですね」と言い、静かに語り始める。


「私達は、撫子に守られているのですよ」

薄い表情で信じられない言葉を紡いだ松井に剣心が口を開く。


「撫子殿が帯刀していたことと関係があるのでござるか?」

「えぇ、その通りです。撫子は武力で世間を渡ってきた加賀見家の一人娘でした。ですがあの娘の家族はあの娘を産んですぐに盗賊によって殺されてしまったのです」


松井は表情を変えることなく、左之助と剣心を見比べる。
静かに自分の話を聞いていることを確認し、言葉を紡ぎ続ける。

「私はあの娘の両親と親しい関係にあったので彼女を―撫子を自分の娘のように育てました。ただ、盗賊は加賀見家の生き残りを許さないでしょう。
私も権力があるだけのただの人間、殺しの心得がある盗賊には勝てまい。
そう思い加賀見家の生き残りなら武力も高いだろうと撫子に殺しの心得を教えました」


「成る程、だから撫子殿は帯刀し仕込み銃をも持っていたのでござるか」


「殺しの心得ねぇ…」


松井は呟く左之助に「どうかされましたか?」と伺うがなんでもないことを聞くと話を続けた。


「すると最近、権力者ばかりを狙う人斬りが現れた。撫子は怯えた私に『私が貴方様を守ります』と言ったのです」


「…つまりあの嬢ちゃんのおかげで被害を受けねぇで済んだ、つうことか」


「えぇ、そのとおりです」


にっこりと笑顔を顔面に貼り付ける松井。


「撫子殿に人斬りの経験は?」


剣心が核心をつくような問いかけをすると松井は糸が切れた人形のように笑い始める。


「緋村さん、何をいうのです。撫子には邪魔な蟲を追い払ってもらっているだけですよ。
大事な娘の手を汚すようなことをさせるわけがないじゃあないですか」




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