届く距離に
□ 人斬り事件
1ページ/6ページ
「なっ、なんだ貴様は!」
先ほど警告したはず。
なんなのだろうこの男。
私の姿を見た瞬間に声をあげるなんて失礼。
「その刀…貴様人斬りだな!?」
成る程、私がいけなかった。
確かに血がべったりとついた刀を見れば誰でも声をあげるね。
失礼しました。
「わ、私も殺す気なのか!」
「大丈夫ですよ」
私の言葉に男は希望に満ちた顔をした。
「大丈夫です」
男の表情が固まる。
私の顔はきっと笑みに満ちているのだろう。
私の手はきっと刀を振り下ろそうとしているのだろう。
「痛みは感じないように人思いに斬りますから」
この男だって、人斬りの―討伐の『リスト』に入っているんだから。
私の仕事は絶対。
絶対に成功させなければあの御方に捨てられてしまう。
男の悲鳴が私の耳を劈く。
嗚呼―耳障りだ。
これだから人斬りはめんどくさい。
━─━─━─━─━─
別の男の悲鳴が聞こえてきた。
あの男の仲間かなにかなのだろうか。
ごめんなさい。
貴方達に私的な恨みはないのです。
ただ、あの御方の命令なので仕方ない。
あの御方の敵は―私の敵。
空を見上げると無数の星。
星を見れば、全てを忘れられる。
さきほど斬った男の容姿、髪型、声、立ち姿。
嗚呼、なんて綺麗な月だろう。
・