ロストセイバー
□第一話「ただ一刀の元に……斬り伏せる」
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再び飛びかかろうとしてきた黒い毛玉。しかし、その間に時継の身体には変化が起こる。今まで、半そでに長ズボンという全体的に黒っぽいラフな格好をしていたのだが、全体的に白を基調とした色合いに変わり、上はノースリーブの上にゆったりとした服を羽織り、下は膝くらいの長さの“スカート”に変わった。
「――って! はあぁぁぁっっっ!? なんでスカートなんか着て?! どういうことだ!!」
〈だって前のマスターから何も変えてないし〉
「前のマスター……?」
〈来るよ、マスター〉
その一言に考えを中断させられる。再び黒い毛玉が襲いかかってきたのだ。
時継はいろんなものを飲み込み、すべてをこの黒い毛玉に集中させる。飛びかかってきた黒い毛玉の横をすり抜け躱した時継は、微妙な違和感を覚えた。
(身体が……軽い……?)
そんな違和感を覚えた時継は、これならあいつの攻撃も躱しきれる、とどこか確信めいたことを思う。
だが、躱しているだけではどうにもならない。どうすれば……、と考えた瞬間――
「お願い! 少しだけ時間を稼いで!」
時継は大いに驚き後ろを振り返る。確かに後ろから声が聞こえた。それも男の声っぽかった。だとすれば、未だに腰が引けている少女ではないだろう。ならば誰だ。いるとしたら、あのフェレットのような動物しかいないが、動物が喋るわけはないし……。
と考えたところで――
〈マスター! 前!〉
再びの機械音声からの危険情報。時継は振り向くのも煩わしく、感覚のみで左に跳ぶ。
すると、時継が元いた位置に黒い毛玉が弾丸のごとく飛んできて、地面に穴を開けた。
(ちっ……もうごちゃごちゃ考えんのはやめだ。こいつに集中する……!)
決意を固めた時継は、黒い毛玉と正面から対峙する。再び突っ込んできた毛玉の攻撃を避けつつ、更に思考する。
このまま避けててもじり貧だ。こいつの動きを止めないと……何かないのか……?
と思った時継に再びあの機械音声が話しかけてきた。
〈ねぇ、マスター、もしかして、戦い方を知らないの?〉
「当たり前だ!」
あまりに当然のことを機械音声なのに、どこか生意気な口調で言われ、苛立たしげに返す。すると機械音声は若干思案するように黙った後、再び話し出した。
〈だったらボクが全力でフォローするから、マスターは背中の剣を取って〉
「背中の……? ほんとだ……」
背中に剣があることなどわからなかった時継は、背中に手を回して少し驚く。だが、その思考は埒外に置き、この場を退けられるであろう機械音声の言うことを聞くことに集中する。
とりあえず、背中の巨剣――幅広で鍔の中心には翠色の宝石のある銀色の大剣――を取り、正眼に構える。黒い毛玉は雰囲気の変わった時継を見て、たじろぎながら警戒心を全開にして毛を逆立て始めた。
そんな黒い毛玉を注視しつつ、集中力を高めていく。あの黒い毛玉の初動を見切るために。どこにどう動くか。
――来る……!
黒い毛玉が動き地面を這った。しかし、向かってきていない。回り込むようにザザザと音を立て動き、時継をかく乱しようとするが、時継は焦らない。黒い毛玉を視界に捉えつつ、足運びで十分な距離を保つ。やがて、黒い毛玉は気が急いたか、ブルブル震えバッと時継の方へ飛びかかってきた。
時継はそれがわかっていたように動き、黒い毛玉の迫ってくるギリギリ当たらない位置に移動。そのまま、黒い毛玉の突っ込んでくるコースに剣を置くようにして、タイミングを合わせて振り抜いた。
黒い毛玉の短い悲鳴のようなものが響き、時継は確かな手応えを感じる。それにさっきよりも更に動きやすくなっている。これなら……!
〈今だよ、マスター!〉
機械音声が好機を告げる。そんなことはわかってる。今を逃す手はない。