捧げ物

□嫉妬
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千耶が買って来たのは大きな一輪の椿が入った黒い着物だった。
見るからに上等品なその着物を雪奈は着ていた。

ただでさえ、町の人々の目を引く容姿を持つ雪奈がそんな着物を着れば人々の目は彼女へ向く。

「おい、見ろよ
あの子、本当に綺麗だな」
「男いなかったから俺狙ったのにな……」

そんな町の人々の話を聞いて気が気でないのは、雪奈の隣に立つ千耶だった。

千耶はそんな人々に対して殺気によく似た視線を送っている。

「千耶、何故か見られてる気がするのですが何処か変でしょうか?」

鈍感な雪奈は変なのかと疑問を抱く。

「……いや、変ではない」

恋に関しては鈍感な雪奈に千耶は日頃から悩まされていた。

「……これでは、散歩にならんな」
「千耶?」
「いや、何でもない」

散歩しに来たつもりがこれでは散歩にならなかった。

「帰るぞ雪奈」
「えっ? 千耶、急にどうして……」

戸惑う雪奈を連れて宿へ戻る千耶。
雪奈はわけも分からず戸惑うばかりで宿に戻った。

「千耶、申し訳ありません」
「……何故、謝る?」
「もしかして、似合ってなかったのでしょうか?」

千耶の嫉妬を勘違いした雪奈は謝る。
あまり、女らしいものを着たことない雪奈は似合ってるかどうか気になっていた。

「そうではない……
お前が見られるのは我慢ならん」
「見られる? あれは、似合ってなかったから見てたのではないですか?」

よく似合っていたが見られるのは我慢ならん、そう言う千耶の言葉に雪奈の頭の中にある言葉が浮かぶ。

「もしかして……嫉妬です、か?」
「嫉妬……、そうだな」

大丈夫です 私は千耶が好きですから、微笑む雪奈の表情を見て安心した千耶がいた。
その翌日、二人は何処か嬉しそうな表情で散歩をしていた。

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