lovely★complex

□輝く夜
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「天国から地獄」と同じ設定で、オリキャラメインです。
それでもよろしければどうぞ。



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赤、白、黄色-------

学校からの帰り道、最近は毎日この光景が俺の目に嫌でも入ってくる。

右を見れば光っているサンタクロース。
左を見れば同じように光るトナカイ。
こっちには星の形、こっちはよーわからんとにかくキラキラしたやつ。

何がクリスマスや。一緒にクリスマスを過ごす女もおらん俺からしたら嫌味にしか思えへんわ。

高校生になって初めてのクリスマス。
去年の今頃は必死に受験勉強しとった。
ほんで、もう勉強なんかいややーってなったときは友達と
来年の今頃はめっちゃかわいい彼女連れてクリスマスデート中やで。
イルミネーション一緒に見て、彼女が「キレイ………」なんて言うたら「お前の方がキレイやで」とか言うねん。
アホや。今時そんなん言うやつおらんって、とか言うて笑っとったのに。

現実はそんな甘くない。


俺の前を歩くカップル。
手を繋いで、それを男の服のポケットに入れる。
寒いなら二人とも手袋するとかしーや。
アホやろ。
今はカイロいうすばらしい商品があちこちで売ってんねんで。

斜め前のカップルもそうや。意味もなくべたべたしやがって。

わざわざ振り向かなくてもわかる。
俺の後ろにもいる。
わざとかわいコぶってるような女の声と、ちょっと他の人よりも知識があるのか、それを披露する男の声。

こんなアホみたいな奴らに囲まれたこの空間から抜け出そうと、取り合えず隣のショッピングセンターの中に入った。
中にもカップルは多かったが、こちらは外ほど密集していない。
こんなことならさっさとこうしておくべきだったと今更後悔する。

このショッピングセンターはいくつか出口があったはず。
裏口のような小さな出入り口から出れば人も少ないだろう、と考え
暖房の効いた店の中を進む。

かばん店や、靴屋、メンズ用の服屋の前を通り過ぎる。
そんな中、ふと目についたアクセサリーショップ。
普段ならこんなところ、身近に女の子がいない俺は見向きもしないところだが
今日は違った。
ピンクのかわいらしいハートのついたブレスレット。
俺はそれを一目見て、あの人に似合いそうだと思った。
自分の想い人がこれをつけているところを想像する。
うん。似合う。

しかし、俺ができるのはここまでで。
実際にプレゼントなんてできるわけがないのだ。
数ヶ月前にこの恋は終わったのだから。

手に取ったブレスレットを元の場所に返す。
店員がこちらに歩いてくるのがわかった。
声をかけられる前に店を出ようと店員に背中を向けたが遅かったようだ。

「何かお探しですか?」

「あ、「あ……いや、まぁ」

俺が答えようとすると、それはいとも簡単に遮られた。

なんだ、別のやつか。
にしてもあいつ中学生か?
店員にアドバイスをもらっている男の客をちらりと見る。
顔はこの距離からじゃ見えないが、服装や髪型は、まぁそれなりにイケテル男だ。
こんな店に男一人ということは彼女へのプレゼント選びだろう。
マセガキめ。

このまま何も買わずに店を出たら俺は中学生にも負けるような気がして
もう一度店の商品を眺める。

隣で店員からのアドバイスをもらいながら選んでいる中学生の手をちらりと盗み見るとウサギのチャームのついたブレスレットを持っていた。
こんな店に来るなんてよっぽどませたガキだと思ったがやはり中身はれっきとした中学生だ。

「じゃ、これで」

「プレゼント用でよろしいですか?」

「あ、はい」

「かしこまりました」

店員は男から商品を受け取り、包装を始めた。
もう一人の店員は会計係のようで、慣れた手付きでレジを打つ。

そこでようやく男の横顔が見えた。

(ん?)

あの顔、どこかで見たような………

真正面からではないためよくわからないが、横顔は誰かに似ていると思う。

ちらちら見ていたのが、いつの間にか観察するように見てしまっていた。

そんな俺の視線に気づいたのか男がこちらを向く。

「「あ」」

ここでようやく目が合って、そろって同じ反応。

男は中学生なんかじゃなかった。
以前会ったのは友人の家だった。
忘れるはずがない。

「どうも」

一応礼儀として頭を下げておく。
すると相手も戸惑ったように頭を下げる。

男は支払いをし、店員から買ったものを受け取った。

お互い、なんとなくその場を簡単に離れることができず、少し近づいて話しかける。

「………それ、彼女さんにですか?」

「あー、うん」

「クリスマスの」

「そう」

男の手にある袋を見て言う。
ずいぶんとかわいらしい袋だ。

「仲ええんすね」

「喧嘩ばっかやけど」

「喧嘩するほど仲がええ、言いますし」

「せやな」

そう言って男は小さく笑った。

初めて喋ったのに随分と話しやすい人だと思った。
あの小泉(弟)が慕うくらいだから相当いい人なのだろう。

店員のありがとうございましたー、という声を背中で聞きながら、俺らは店を出た。

「今、学校帰り?」

「はい。担任に色々雑用頼まれて遅なってしまいました」

「ゴリ?」

「あ、知ってます?」

「前の俺らの担任。俺もよう雑用させられとった」

話を聞いていると、それが三年も続いたらしく散々な目にあったという。
その役目をどうやら俺が引き継いでしまったようだ。
それがあと二年ちょっとも続くのかと思うとぞっとする。

「えっと……大谷さん、でしたっけ?」

「うん」

「大谷さんは今、大学生ですか?」

「うん。近くの教育大」

「教育大学?」

「あ、俺教師になりたいねん。小学校の」

「へー」

それを聞いてあの時のことを思い出す。

『お、俺…あ、僕、将来は教師になりたいんすよ。
 小学校の先生に』

『小学校の先生かぁ。めっちゃええ職業やと思うで』

あの時の俺は浮かれてて気付かへんかったけど、
今思うとあの人のあの言葉はきっと大谷さんを想いながら言ったんや。

あの人の心の中は大谷さんでいっぱいなんや。
ほんで大谷さんも-------
俺が入る隙なんてどこにもない。

「大谷さんならなれますよ。小学校の先生」

すぐ側で応援してくれる人がいるのだから。

大谷さんは小さく笑みを浮かべて、ありがとう、と言った。





クリスマスが終わり、やっといつもの帰り道の人通りも少なくなった。
イルミネーションも光るサンタやトナカイははずされ、無意味な光がところどころに残っているくらい。

少し前まではにぎやかだったこの道が、今では嘘のように静まりかえっている。

そんな中聞こえてきた声。

「あーあ、もうほとんど終わってるわ」

「そらクリスマスも終わったからな」

「一気に正月モードやな」

「一年って早いな」

「年寄りみたいなこと言わんといてよ」

振り返ってみると、大谷さんとその彼女がベンチに座っていた。
二人ともホットココアの缶を持って。

声をかけようかかけまいか迷ったが、そのまま俺は通り過ぎることにした。

そのとき彼女の手首にあるものが一瞬見えた。
ウサギのチャームのついたブレスレット。
あんな小さなブレスレットがものすごい存在感を醸し出している。

雪が降ってきた。

早く帰ろう、と足を速める。
少し歩いたところでもう一度振り返る。

(やっぱり、似合ってる………)

そして、俺はまた足を進めた。




〜End〜




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