lovely★complex

□One's Way Home
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あいつはわかってへんのやろうな。
オレのこんな気持ち。



夏まっさかりの八月。
朝、せっかくの休みにオレの目を覚まさせたのは「目覚まし時計」という
そのまんまの名前を持つ時計ではではなく、なつの風物詩とも言われる「蝉」やった。

そのせいでオレの気分は朝から最悪。
しかも最近、考えることもあって肉体的にも精神的にも少々疲れ気味。
こんな日が何日も続くとなるとイライラが募る。

そんなオレの前にはこれまた見ていてイライラするほどさっきからいちゃついている中尾バカップル。

「だから、大谷くんがちゃんとせんとリサ、よその男にとられんで」

「小泉さん、最近めっちゃきれいやもんなー」

うるさい。わかってんねん。
オレが今考えてんのもそのことやねん。

というか、こいつら

オレの中ではのぶちゃんが一番やでー
あたしも一番はダーリンやでー

なんて、聞いていて痒くなるような台詞をオレの前で言わんでくれ。
しかもここは昼時でちょうど客がめっちゃおるファミレスやぞ。
となりの席の中学生くらいの女の子の視線が痛いわ。


なんでこんなことになっているのかというと
話は三十分前にさかのぼる。

クーラーの効いたリビングでテレビを観ていると、
人使いの荒いオカンがオレに千円札を差し出し、

あっちゃん、洗剤なくなったから買うてきて

と一言。

それにおとなしく従うオレもオレやけど
このオカンになんか文句言うたら十倍にして小言が返ってくるのなんて
二十数年も生きてたらわかりきったことや。

小さくため息をつきながら千円札を受け取り、家を出た。
これが第一の間違いやったことに気づくのがこれから十五分後。

家のすぐ近くの店でオカンに頼まれた洗剤を買い、店を出ると
見るからに暑苦しいカップルがおった。
これが第二の間違い。
お互いに目があってしまい、しまったと気づいたときにはもうこのファミレスの中やった。

一番端の窓側の席に案内されてドリンクバーを三つ注文し、いろいろと話しているうちに
いつの間にか話題は小泉のことに。
そして今に至る。

この二人がオレらのことを心配してくれてんのはわかる。
こいつらには高校のときからいろいろしてもらってたから。

けど、こうも暑くてイライラしているときに
しかもちょうど悩んでいることを言われるのは
はっきり言って疲れる。

小泉は高校卒業してからかなり変わった。
見た目はまぁ、そういう専門に行ってたから中尾の言うようにきれいになったっゆーのはオレもわかるけど
それだけとちゃう。

こないだ小泉んちに行ったときはびっくりしたわ。
あいつが普通にアイロンがけしてんねんから。
あれはアシスタントになるために父親のワイシャツで練習してたらしい。

さらにびっくりしたのが
出てきたお菓子が小泉の手作りやったってことや。
仕事の先輩に教えてもらったとかで、味も見た目もちゃんと出来てた。
あのレモンをみりんでつけとった小泉がやで?
ありえへん。

そんで極めつけがのぶちゃんが言うたことや。

小泉が最近、というか専門に行ってたときから
何回か告られてたという。

「オレ、そんなん聞いてへんで」

「それ言うてもしかしたら大谷が心配するかもしらんし
 それにちゃんとお断りしてるからええの。
 今、大谷は先生になるためにがんばってるんやから
 そんなことで心配かけたらアカン、って言うとったで」

小泉の真似?をしながらのぶちゃんが言う。

あんのアホ……
ほんまアホやで。


ふと、窓の外を見る。
アカン。
絶対外あついやん。
道路からなんやもやもや出てるやん。
店の中は涼しくても外見たら店の中まで暑い気がしてくる。
こんな中外歩いたら煮干になってまうわ。

「はぁ……」

思わず出てしまったため息。
そら、ため息くらいでるわな。

なーんでこんな暑い日に悩んで、説教みたいなことされなアカンねん。

あいつはわかってへんねやろーな。
オレはまだ学生で、なのにあいつは朝も昼もバイトして
ほんで空いた時間は夢叶えるために努力して。
ほんまにこんなオレでええんかとか、
オレよりもっとちゃんとした男の方がええんやないかとか、
そうやって最近不安になっていること。

でも、だんだん女っぽくなっていく小泉が
他の男の目に映ったり、
小泉の目に他の男が映んのは嫌やっていう独占欲もそらあるわけで。

そこでこれ以上考えるのはやめた。
何回考えてもアホなオレの頭では毎回堂々巡りやねん。

そんなとき、のぶちゃんが店の出入り口の方に向かって手を振った。

「もう来た!早かったなぁ」

「大谷が大変や、って送ったからな」

え?

「おい!なんやねん。誰にそんなん送ってん」

そんなん言うてる間にそいつはオレたちの席に来た。

「大谷?大丈夫なん?」



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