detective conan

□涙雨
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〜conan〜

いつもの通学路をいつものメンバーで歩く。

「昨日返されたテスト、今までで一番よかったんだよ!
哀ちゃんが教えてくれたから!」

「俺も灰原のおかげで赤点が一個もなかったぜ」

嬉しそうにテストのことを話す歩美と元太。
それを横で静かに聞く灰原。
俺と光彦は3人の後ろでそんな光景を眺めている。
特になにも話すことなく。

ふと灰原の足がとまった。
俺たちもそれに合わせる。
灰原は俺たちが足を止めたのも気付かず、一点を見つめている。
その先を目で追うと長い黒髪が見えた。

「あ!蘭お姉さんだ!」

歩美も見つけたらしく、大きな声で名を呼ぶ。
蘭はゆっくりと振り向き、俺たちを見た。

「おはよう、みんな」

「「「おはようございます」」」

蘭と会うのは久しぶりだった。
小学校を卒業してから俺は自分の家で暮らすことになり
会う機会も少なくなっていた。

「蘭お姉さん、結婚するんでしょ?この間ポスト見たら招待状が入っててびっくりしちゃった」

「ふふっ、結婚式きてくれる?」

「うん!蘭お姉さんのウェディングドレス姿きれいだろうなー。
 わたしも早く結婚したい!」

「でもよー、あの兄ちゃんは………」

元太のいう《あの兄ちゃん》は俺、工藤新一のことだ。

「新一はね、今でも大事な人だよ。でも、新一を引きずっててもだめだからね」

「………そっか。蘭お姉さん、絶対幸せになってね。
新一お兄さんもきっと蘭お姉さんが幸せになるのを願ってるよ」

「うん!あっ!ほら、早く行かないと、遅刻するよ」

「げっ………ほんとだ。じゃーな、姉ちゃん。」

「またね」

蘭はもう大丈夫だ、とさっきの蘭の様子を見てわかった。
けど、灰原は………
光彦も灰原を心配そうに見ている。



五年前、組織は壊滅した。
しかし、解毒剤は一年たっても二年たっても完成しなかった。

結局、解毒剤は完成できず俺は工藤新一に戻ることを諦めた。

そして俺が小学六年生になったころ、工藤新一の死亡が世の中に知れ渡った。
宮野志保も一緒に死んだ。

蘭には何も言わなかった。ただ、俺はコナンの姿で蘭の幸せを願った。
これでよかったんだと思う。

工藤新一の死を知ってからしばらくは蘭は自分の部屋に篭り、
何も口にしない日が続いた。

でも、俺は何も言わない。コナンとして一言二言言葉をかけるだけ。
蘭の幸せを願うと同時に、「あいつ」を守ってやりたいと思った。

俺の死から一年がたち、蘭に恋人ができた。
蘭は俺の死とちゃんと向き合い、幸せを手に入れた。

けど、灰原はますます暗くなる。
俺や歩美たちといるときは今までどおり振舞っているが

家に帰ると博士が話しかけても必要最低限の返事をするだけで、ほとんど会話をしなくなった、と博士に聞いた。

俺が元に戻れなくなったのも、蘭と結ばれなくなったのもきっと自分のせいだと思っている。
さっきも蘭が俺のことを話しているとき、一瞬つらそうな表情になったのを俺は見逃さなかった。

光彦もそれに気づいている。
頭のいい光彦のことだ。俺たちの秘密を知っているのかもしれない。

いつだったか、光彦にこんなことを聞かれた。

灰原のことをどう思っているのか、と。
俺は正直に「大切なやつ」「守ってやりたいやつ」と答えた。

すると光彦は「僕は負けませんから」と強い口調で言った。
あのときの光彦の真剣な目つきに、俺は一瞬怯んだ。
あんな光彦は今までに見たことがなかった。



なんとかHRの五分前に教室に着いた。
クラスのやつらはまだ教室のあちこちで散らばって騒いでいた。
朝から大きな笑い声を聞きながら自分の席に着く。

それから五分後に担任が教室に入ってきて、HRが始まる。
なんの面白みもない授業。

何年か前に同じことを勉強した俺にとってはただただ退屈な時間でしかなかった。

そんな時間も眠っていたらあっという間で、
俺は四時間目終了のチャイムで目が覚めた。

「礼!」「「ありがとうがざいました。」」

その瞬間、教室は一気に騒がしくなる。
仲のよい友達と弁当を食べる人もいれば、売店で人気のホットドッグを走って買いに行く人も。

俺は光彦や元太たちとは違うクラスなので昼休みはサッカー部のやつと過ごすことが多い。

今日は雨が降っていて外には出れないが、
晴れている日は昼食を食べてからグラウンドでサッカーをする。

最近は雨の日が続いて、なかなかサッカーができない。
連日の雨にうんざりしながら窓の外をみると、見慣れた姿が二つ。

そして見たくない光景を見てしまった。

(あいつ………)



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