detective conan

□涙雨
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〜ai〜

逃げ出したい。
工藤くんから。あの人から。自分の運命から。
私が工藤新一を殺したという事実から。
でもそれは許されない。
私は生きて、自分の罪を償わなくちゃいけない。

今朝、蘭さんと会った。
笑っていたけど、本当に幸せなのだろうか。
工藤くんも彼女がほかの男と結婚して幸せそうな姿なんて見たくないはず。
蘭さんと工藤くんが居合わせたとき、
私は2人の顔を見ることができなかった。


学校について、いつもの退屈な授業を受ける。
授業中、頭の中から工藤くんと蘭さんのことが頭から離れなかった。
工藤くんは彼女の結婚を知ったとき、どんな気持ちだったのだろう。
今朝、彼女に会ったとき、どんなに辛かっただろう。

そんなことを考えていたらいつの間にか四時間目の授業が終わっていた。
クラス委員の号令に合わせて礼をする。
そして、吉田さんが自分の弁当箱をもってこっちに来た。

「哀ちゃん。もうお昼休みだよ?どうしたの?今日ずっとぼーっとしてるけど」

「ちょっと寝不足なだけよ。心配ないわ」

「ほんとに?むちゃしたらだめだよ」

「えぇ。ありがとう」

「うん!それじゃあお弁当たべよっか。いただきまーす」
吉田さんは嬉しそうに弁当箱のふたを開ける。
すると色鮮やかなお弁当が顔をのぞかせた。
中には吉田さんの好きなものが入っていたようで、吉田さんの顔はさらに明るくなる。
そんな些細なことで喜べるなんて本当に自分とは正反対だ。

自分で作った弁当を食べ終えた頃、私たちの隣で昼食を食べていた女の子二人が
携帯電話の画面を除きこんでいた。

「あっ、この人有名な小説家の………名前なんだっけ?」

「工藤優作。その横の綺麗な奥さんが藤峰有希子でしょ」

吉田さんは知っている名前が彼女たちの口から出たので
自分も携帯を取り出してテレビの画面に切り替えた。
携帯の画面に映るのは工藤くんの両親が空港で報道陣に囲まれているところ。
ロスから帰国したらしく、有名人の2人は日本に降り立ったというだけでニュースになる。
だが、今回はそれだけではない。
工藤新一の命日が近いということもあって、それに関する質問が報道陣の口から次々に発せられる。

「へー、新一お兄さんのお父さんとお母さん、今日本にいるんだ。
………そっか、もうすぐ新一お兄さんの命日だもんね」

「そうね」

隣の子達が私たちも同じ番組を観ていることに気付き、声をかけてくる。

「歩美ちゃんたちって工藤新一のこと知ってるの?」

「うん。何回かしか会ったことないけどね。
新一お兄さん、いろんな事件を解決してて、私たちの憧れだったの。
新一お兄さんが帰ってきたら事件の話いっぱい聞かせてもらおうって思ってたのに。
帰ってくることなく亡くなっちゃったの」

吉田さんはさっきとはうってかわって悲しい表情になる。
吉田さんの話を聞いていた女の子の1人がポツリと話し出した。

「私のおじいちゃんもね、一回、工藤新一に事件を解決してもらったことがあるらしくて、すごく悲しんでたよ。
どうしてあの子が死ななくちゃいけなかったのか、って。」

本当にそうだ。
どうして工藤くんが・・・


それは私のせい。
工藤新一が死んだら悲しむ人はたくさんいる。
なのにどうして工藤新一は死んだの?


---------私が殺したから。

私のせい………

わたしの………

頭の中でみんなの悲しむ顔が浮かんでくる。
今までに何度も見てきた光景。

自然と目に涙がたまってきた。
まずい。早く涙を止めないと。

どうして私が泣くのよ。
私には泣く権利なんてないじゃない。

そう思いながらも涙が目にたまり続ける。

泣きそうな顔を吉田さんたちに見られないように顔を下に向ける。

「哀ちゃん?」

顔を見られないように下を向いたが、逆効果だった。
下を向いた瞬間涙がこぼれた。

「ごめんなさい。ちょっと気分が悪いから保健室に行ってくるわ」

これだけ言うのが精一杯だった。
吉田さんがついていこうか?と言ってくれたが、断った。

教室を出て、一気に階段を駆け下り、外に出た。
途中、誰かに名前を呼ばれた気がしたが、振り返らなかった。
外は雨が降っているため、ここでなら泣いても雨にぬれたと言えば誰もわからないだろう。
そのとき、後ろから名前を呼ばれた。

「灰原さん」

いつも聞く声。振り返らなくたって誰だかわかる。

「何?」

「どうしたんですか?そんなところにいたら風邪引きますよ」

「………」

せっかく、誰にも気付かれず泣けるところだったのに、
円谷くんが来たら意味ないじゃない。
私は雨にうたれながら必死で涙がこぼれそうなのをこらえた。

「灰原さん、とにかく中に入りましょう」

「………」

「灰原さん!!」

パシッ、と強い力で腕をつかまれた。
そして円谷くんと目が合ってしまった。
円谷くんは一瞬驚いた様子だったが、すぐに優しい顔になった。

「灰原さん、泣きたいときはないていいんですよ」

「………」

「我慢する必要なんてないです。悲しいときや辛いときは泣いていいんです。」

「別に、悲しくもないし、辛くもないわ。
 それにあなたがいちゃ泣きたくても泣けないわよ」


そう言いつつも目から涙が零れ落ちた。
必死で堪えようとしたけど、間に合わなかった。

「誰にも見られたくなかっ、」

その瞬間、私の体は円谷くんの腕に包まれた。



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