魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十六話「だから、さよなら」(後編)
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「くあっ!」

 振り落とされた一撃。たっぷりと魔力が乗り、加速がついた一撃を、シオンは翻した刀で斜めに斬り流す。

    −閃−

 カリバーンが軌跡を変えた。更にシオンはアルトスの斬撃を利用し、身体ごと横にスピンしながら刀を放つ。だが、既にアルトスはそこには居なかった。消えたアルトスに、一瞬だけシオンは呆然となり、直後、ぞくりと言う悪寒が再びシオンを突き抜けた。確認もせずに前へと身を倒す……衝撃は、直後に来た。

    −轟!−

 寸前までシオンが立っていた岩盤が砕け散る! 頭上から降って来たアルトスの一撃でだ。

 ……いつの間に!?

 それを苦々しく思いながらシオンは自問する。答えは一つしかなかった。シオンがカリバーンの一撃を斬り流した瞬間に、アルトスはその場を離脱してのけたのだ。
 ”斬撃を斬り流され、体勢を崩された状態で”。
 凄まじい加速力と言える。殆ど死に体からそんな離脱なぞできるものでは無い。アルトスが自分で砕いた岩盤から出て来るのを見ながら、シオンは呻いた。
 考えて見れば初めてだったから。彼が剣を握っている姿を見るのは……戦っている姿を見るのは。
 つまり、シオンは初めて、もうアルトス・ペンドラゴンへと名を変えた彼の実力を知る――!

    −轟!−

 三度、アルトスが魔力を噴出させて突っ込んで来る!
 アルトスの戦闘スタイルはひどく単純であった。その突破力を生かした正面突破。騎士としての定石戦術と言える。
 しかし、アルトスのそれは普通の騎士とは比べものにならなかった。異常なまでの加速と力に支えられた戦術であったからだ。その突破力は、シオンが知る内でも異母兄、叶トウヤとほぼ同等。あるいは、凌駕しかねないものであった。

 ――だが。

    −撃!−

 再び突っ込んで来たアルトスの斬撃を斬り流す。再度、軌道を変えられたアルトスを見て、シオンは刀を握る手に力を込めた。

 ……いける!

 それを強く確信する。アルトスの斬撃に反応出来る。斬り流せている。それはつまり、自分の技が通用していると言う事であった。故にこそシオンは確信する。

 このままいけば――。

    −轟−

 再度突っ込んで来るアルトス。横から放たれたカリバーンを下段から刀を振り放ち、上へと斬り流す。それでもあまりあまった斬撃の勢いはシオンを回転させた。シオンはその勢いを利用して、刀を振り――!

 俺は、勝てる! イクスを”斬って”……!?

 ――放て、無かった。
 刀はアルトスの首元で止まっている。シオンは愕然とした。自分が、やろうとした事に。

 斬る……? 俺が? イクスを!?

 有り得ない。そんな事、出来る筈が無い。今さら気付いたように自失したシオンをアルトスは静かに見据えた。カリバーンを振る――。

【……馬鹿者が】

 呟きと共に軽く振られたカリバーンは、刀を軽く弾くいた。シオンはハッと我に返り、次の瞬間、アルトスから渾身の一撃が放たれる!

    −轟!−

「がっあ!」

 一撃は刀の上からシオンを叩き、その身を盛大に吹き飛ばした。悲鳴と共に、シオンが数百m単位で飛んで行く。くっと呻き、シオンは足場を形成して止まろうとして。

【漸く、元の自分に慣れて来た】
「っ!?」

 声を真横から聞いた。愕然としながら、横を見る。そこには飛ぶシオンに追従し、”追い付いて並走する”アルトスが居た。

【そろそろ、”本気で行くぞ”】

    −撃−

 悲鳴は上げられなかった。横合いから放たれた斬撃は、シオンの吹き飛ぶ角度を変更。今度は真横に弾き飛ばされる。シオンに出来たのは、刀で斬撃を受ける事だけだった。

    −撃!−

「かはっ!」

 飛んだ方向にあった岩盤に背中から激突して突き抜ける。だが、それで勢いが若干死んだ。シオンは今度こそは足場を形成して、空中に踏み止まった。
 すぐに前を見る。アルトスは真っ直ぐにこちらへと飛び掛かっている所だった。シオンは迎撃せんと、刀を腰溜めに構える。
 引き出すは、自身の最速斬撃。あの紫苑でさえも斬り伏せた一撃!

「神覇、壱ノ太刀――」

 捻るように抜刀術の応用で構える。突っ込んで来るアルトスが、シオンの射程に入った――放つ!

「絶影っ!」

    −閃!−

 叫びと共に放たれた一閃は、視認すら許さぬ速度で駆ける! 刹那にアルトスへとひた走り、それは、起きた。
 つぅんっと言う鋼が絡み合うような音が響く。その音を聞きながら、シオンは呆然と”それ”を見た。
 シオンが放った一閃。刀の上を、”カリバーンを当てながら回転する”アルトスを。それはいつか、嘱託魔導師試験時にシグナムとの模擬戦の時に、シオン自身が使った技である。
 合気。放たれた一撃の威力を全て受け流し利用する技法。実戦では、まだ一度も成功していないその技を、アルトスはこともなげに使って見せていた。

    −撃!−

「がっ!?」

 ならばその結果もまた同じ。シオンは自身の絶影の威力と、アルトスの斬撃を合わせて喰らう羽目となる。冗談のような速度で――それこそ音速にも匹敵しかねない速度で吹き飛ばされた。
 そこで終わらない。アルトスはシオンを吹き飛ばした体勢から即座に追撃に走る。魔力を先の倍は噴き出し加速に用いて、爆発的な速度を生む。初速からそれは、空気の壁をブチ破った。つまりは音速超過。一気に先に吹き飛んだシオンへと追走し、すぐに追い付いた。
 カリバーンを大上段に持ち上げる。狙いは当然、吹き飛んだままのシオン! ……シオンは刀を持ち上げる事しか出来なかった。カリバーンが振り落とされる――!

    −撃!−

 轟撃一閃!刀越しとは言え、その一撃をもろに喰らってしまったシオンは、それこそ先の速度を遥かに上回る速度で地面に叩き落とされた。

    −轟!−

 そして、砕かれたカムランの丘を更に砕け散らし、巨大なクレーターを生んで、地面の中へと埋没した。

 
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