魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十六話「だから、さよなら」(中編)
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「「おまたせや〜〜♪」」

 神庭家道場。女性陣が、みもりとアサギ以外ことごとくいなくなり、寂しげに男同士で酌をしていた連中に二つの関西弁が響く。はやてと獅童楓である。
 二人を先頭に、何故か『いい仕事をした』風な感じの女性陣がぞろぞろて出て来た。一様に笑顔でぞろぞろと現れた面々に、急降下していた男共のテンションが上がり始める。

《長らくお待たせしました!》
「……ほんっとに長かったな……」

 何故かまたもや司会と化してマイクを握るシャーリーに、寿司をかっ喰らいながら出雲ハヤトがツッコミを入れる。
 シオンをバインドで縛り上げて、ぞろぞろと女性陣が出ていったのが、何と一時間と半分程前。その間中、男連中は一列にならんでにこにこ笑うアサギに酌をしたり、男同士でたわいない話しをしながら飲んだりしていたのである。……テンションも下がろうと言うものであった。
 そんなハヤトを中心とした男共の視線とツッコミを軽く『そぉいっ!』とばかりに無視してシャーリーは続ける。

《これより、女性陣一同の一発芸! 《JKしおんちゃん》を出したいと思います!》
『『お〜〜〜〜〜』』

 ついに出るか。シャーリーの宣言に、男連中は声を上げる。しかし、その声にはハリが無い。何故なら、大体結末は読めていたのだから。
 女装した男の辿る道は二つ。
 爆笑出来るレベルの似合わない女装か。
 女装がそこそこ見れるレベルで似合っているか。
 それしか無い。故に男共のテンションも中々上がりにくいのであった。
 そもそも、女装した男なんぞ見て何が面白いのか。似合わなければ笑いを取った後は気持ち悪いだけだろうし、似合っていればそれはそれで腹が立つ。
 そんな思いを男共は一人残らず抱いていた――”その時までは”。
 男共のテンションに、シャーリーがくすりと笑った。

《では、ティアナ♪ スバル♪ しおんちゃんを連れて来て〜〜♪》
「「は〜〜い!」」

 唯一まだ入って来なかったティアナとスバルが道場の前で元気良く返事をする。何故かどたばたとごたつく音が鳴り、それは現れた。
 女性にしてはやや高い背。それに腰まで届く銀の髪が映える。薄く化粧をされた顔は羞恥からか赤く染まり。おそらくはパッドか、やたらと膨らんだ胸。それに反比例するように、冬服の制服からも分かるほどに細い腰つき。止めとばかりに、細い足を包むニーソックスとミニスカートが生み出す絶対領域から見える太腿の肌の白さが眩しかった。
 もじもじと顔を赤らめて出て来た”彼女”に、男共は唖然となる。
 
《……女として、ここまで敗北感を覚えた事はそうそうありません! JKしおんちゃん! 略して『しーちゃん』と御呼び下さい! では、しーちゃん! 一言、どうぞ〜〜!》
「あ、う……!」

 素早く隣のティアナからマイクを差し出されて、彼女は慌てる。注目を集めているのが恥ずかしいのか、目を伏せて。

《……み、見ないで……!》
『『っ―――――――――――――!?』』

 その場に居る一同へと衝撃が駆け巡る!
 その声を聞いて、唖然としたままの男共から一人の男が立ち上がった。先の一発芸で天に召された筈の彼、叶トウヤだ。
 生きていたのかと言う疑問を当然のごとく無視して、懐から何やら取り出す。それはオーケストラの指揮者が使うタクトであった。
 それを手に持ち、男達の前へと来る。そして、音頭を取るようにタクトを大きく振った。

 さん、はい!

『『男の娘最っ高ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――――――――っ!』』

 道場を文字通りに揺るがす咆哮が男共より放たれ、響き渡る!
 ……しーちゃんはそれを聞いて、グノーシスと言うのは変人集団では無く変態集団が正しいと理解した。
 絶叫する! 口笛を吹く! 踊り出す!
 まあ、なんにしろここまでやる連中は正しく変態であるのは間違い無い。
 しーちゃんは真剣にストラに寝返る事を検討しようとして――。

「しーちゃん!」
「ぬぉ!」

 いきなり眼前に現れた涅槃に旅立った筈の馬鹿野郎ことウィルに、しーちゃんは驚きの声を上げた。そんな、しーちゃんの手をウィルは優しく掴んだ。

「シオン、いや、しーちゃん! ワイらは幼なじみで親友や!」
「あ、ああ。まぁ、親友かどうかはさておいて、幼なじみではあるな……でも、しーちゃんはやめろ」
「いや! あえてそう呼ばせてもらうで!」

 やたらと熱苦しく語り掛けて来るウィルに、しーちゃんは一歩下がるが、ウィルはずいっと進み出た。

「でや、しーちゃん。一つお願いがあるんやけど」
「……何だよ?」

 その台詞に怪訝な顔となるしーちゃんに、ウィルはさらに顔を寄せる。そして――。

「ワイらの友情の為に、ちょ――っと、”モロッコ”に行って。肉体改造して来てくれへん?」
「…………」

 しーちゃんは無言。ただ少しだけ腰を落とし、次の瞬間、落とした分の腰を使って一気に跳躍する! 同時に膝を跳ね上げた。

    −撃!−

「おっふぅ……!」

 跳ね上げた膝は迷う事無くウィルの股間を蹴り上げる。そのまま崩れ落ちたウィルを、取り敢えずしーちゃんは踏ん付けた。

「……ぐ、ぐぬ! や、やけど! このアングルならスカートの中が――」

 −撃!・撃!・撃!・撃!・撃!・撃!・撃!−

 更に言い募る変態を迷う事無くしーちゃんは無言でスタンピングを連打。馬鹿の意識を完全に断ち切った。

「う、ウィル! スカートの中は!? スカートの中はどうだったんだ!?」
「男物か!? 女物か!? それだけでも――!」
「やかましい!」

    −撃!−

 更に出て来た変態をアッパーカットで床に沈める。そんなしーちゃんを満足気に見ながら、トウヤはひとしきり頷いた。

「我が弟ながら恐ろしい才能だね……! お見それしたよ!」
「いやー。素質はあると思ってたんやけどな。ここまでとは思わんかったわー」

 はやての台詞に、女性陣は皆一様に苦笑する。……正直に言うと、やり過ぎた感が実は彼女達にもあったのだ。
 まさかここまで似合うとは思わなかったのだから。悪ノリで本格的にやったのが効を奏したのか、シオンならぬしーちゃんは、モデルもかくやと言う絶世の美女と化してしまったのである……いや、胸は詰め物だが。
 とにもかくにも、その出来映えは女性陣を納得させるものであり、同時に微妙な敗北感を味あわせるものとなったのであった。
 はやての台詞にトウヤはひとしきり頷くと、まだ怒りのスタンピングをかますしーちゃんの横に立ち、マイクを手に取った。

《諸君! 私は間違っていた事をここに告げなければならない!》

 いきなりマイクに向かい、並ぶ男共に演説を開始する。視線がトウヤへと向いた。

《私は常々こう思っていた……可愛い女性は正義! 可愛い女性は最強! 可愛い女性は何でもあり! 愛などいらぬ! 可愛い女性が欲しいと! つまり可愛い女性は国宝だと! ――君達もそうだった筈だ》

 腕を上げながら、熱く! 熱く! トウヤは語る。
 ここだけでも十分に変態であると認識するに足る台詞である。しかし、ほとんどの男共が即座に頷いているのを見て、しーちゃんは泣きたくなった。色んな意味で情けなくなって。

《だが、ここに一つ歴史は是正された……可愛い女性は国宝。それは今でも変わらない。だが、しかしっ! あえてここに一つ加えよう! 可愛い女性は国宝! だが可愛い男の娘は――》

 しゅぴっとしーちゃんに掲げた手を振り下ろす。それはまるで、紳士が貴婦人をダンスに誘うかのような手つきで。

《世界遺産だと……!》
『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

 スタンディング・オベーション……! トウヤの宣言に、変態共が一斉に立ち上がりながら拍手を打ち、声を上げる。
 しーちゃんは鳥肌が全身に立った事を自覚した。
 そんなしーちゃんに熱き視線を送りながら、トウヤはマイクに吠える!

《我々はこの素晴らしさに気付けなかった……! 何故だ!?》
『『坊やだからさぁ――――――――――!』』

 全く異口同音にヤバすぎる台詞を吐いた一同を、どう殺っちゃおうかとしーちゃんは思案する。だが、取り敢えずは。

《故に私は宣言する! 今この場において、男の娘の価値を! ある意味において希少価値は可愛い女性よりも遥かに高いしね! だからしーちゃん! 君には、『名誉男の娘賞』を与え――》

「ちぇ――――すとぉ――――!」

    −撃!−

 引き返しようが無い程に場を盛り上げようとする変態長兄を盛大にビール瓶で殴り飛ばしておく事にした。

 
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