魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十五話「墓前の再会」(中編2)
2ページ/3ページ

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ぶぁっと広がった煙幕は一気に視界を覆う。近くのなのは達もヘイルズ達も全く差別無くにだ。
 一瞬にして視界を奪われて、アルテムが苛立ちの声を上げた。

「くそ……! 煙幕なんてセコい真似しやがるじゃねぇですか!」
「だが効果的だ」

 隣からぽつりと漏れる声はヘイルズか。もう一度くそっと毒づいて周囲をアルテムは警戒した。
 この煙に紛れて奇襲を掛けて来るとも限らない。確かに魔法が使え無い状況ならば、これも一つの手段と言える。暫く時間が立つと、漸く煙幕が晴れた。だがそこに居たのは、もろに煙を浴びてけほけほと咳込むなのは達だけであった。タカトの姿がどこにも無い。

「ちぃ……! どこに!」

 周囲を目に内蔵してある各種光学レーダで探る。しかし、タカトの姿は何処にも無かった。
 逃げたか? そう思った、直後。

「まず誤解その1。俺は魔法技術をそれ程信用も信頼もしていない」

 な――――!?

 声は、真後ろから響いた。アルテムの真後ろから!

    −弾!−

 そして、悲鳴も振り向く事すらも許さずに、アルテムの四肢を何かが砕いた。

「あ、ああ、あぁあああああぁああああああ!?」

 今度こそは悲鳴を上げて、アルテムは倒れ込む。その後ろに、彼は居た。伊織タカトが。
 冷然とアルテムを見下ろしながら、右手で”何か”を弄ぶ。

「……誤解されがちだが、俺は魔法を使った戦闘より使わない戦闘の方が経験が多くてな。魔法を使え無いと言うのは、あまりハンデにならない」
「ぐっ……うぅ……!」

 呻きながら首だけをタカトに向ける。その目は何処に居た、そして何をしたかと彼に問うていた。だからと言う訳でもあるまいが、タカトは気前良く教える。

「気殺と指弾と言っても分からんか」
「……なん、だ。そりゃ……?」
「最初のは隠形術の一種だ。対象の六感全てから外れる事で身を隠す術でな。その気になれば、貴様のIS程度以上の真似も出来る。ちなみに、ただの”体術”だ。……忍術とも言うがな」

 事も無げに告げる。同時に右方に視線を向けた。そこには、今まさに襲い掛からんとするゲイルが居て。

「そして、これが指弾だ」

    −弾!−

 直後、右手で弄んでいた物を親指で弾き飛ばす。ゲイルは直感的に自身のIS、ポイント・アクションで前方の空間を遮断した。

 −弾!・弾!・弾!・弾!・弾!・弾!−

 同時に響くは、”着弾”の音。ゲイルが遮断した空間に、弾が浮かんでいた。丸い、鉄の球が。これは――?

「単なるパチンコ玉だ。……もっとも貴様達が、それを知ってるかどうかは知らんがな。だが」

 呆然としているゲイルに、タカトは無表情に告げる。パチンコ玉を装填した右手をひょいと近くの墓に向けると、親指で弾き飛ばした。

    −弾!−

 右手から放たれたパチンコ玉は、墓のど真ん中に命中し、”貫通”して向こう側へと突き抜けた。石の固まりである墓石を貫通して、である。並大抵の威力では無い。愕然とする一同に、タカトは相変わらず無愛想に続ける。

「だが、達人級ならば一般の拳銃(ハンドガン)程度の破壊力は出せる。ちなみに俺だとライフル並くらいか」
「……化け、物、め……!」

 呻くようにアルテムがタカトへと呟くと、彼は苦笑を返した。

「よく言われる。……さて、次は貴様か? ゲイル」
「ぐっ……!」

 タカトの台詞に、ゲイルは冷や汗が額を流れて行くのを悟った。
 ……恐れているのだ。魔法が使え無い筈のタカトを。
 戦闘機人となり、超人になりえた、あまりにも有利過ぎる自分が。だが――。

 何を恐れる必要があるってんだ……!

 ゲイルは自分に言い聞かせる。今はAMF下にあるのだ。前のようにポイント・アクションを真っ正面から弾き返すなんて真似は出来ない。今、この瞬間においてタカトなど、自分の敵では無い筈だ。

「どうした? 動かないのか? なら、こちらから行こうか」

 タカトはあくまでも平然としたままに告げる。そのまま一歩を踏み出して来て――それが、限界だった。
 ゲイルは奇声を上げながら攻撃の為にポイント・アクションを”解除”。

    −弾!−

 次の瞬間、身体の至る所を指弾で撃ち抜かれた。その数、十二発。ぽつりとタカトが呟く。

「たわけ」
「がっ……!」

 崩れ落ちる巨体をゲイルはどうにか持ちこたえる。そして、タカトの右手を睨み付けた。

 いつ、撃ちやがった……!?

 僅か一瞬で十二発もの弾丸を撃ち放った右手を見ながら胸中叫ぶ。そんな彼にタカトは嘆息した。

「あのまま空間遮断を展開していたならば、俺は攻撃を届かせられなかっただろうにな」

「な、んだと……?」

「いや。それ以前に最初からポイント・アクションを攻撃に使っていたならば、お前にも勝ち目はあったんだよ。ゲイル。今の俺に空間衝撃砲を防御する手段は無いのだから」

 身体中から血を流しながらゲイルはタカトの言葉を聞く……確かに、その通りだった。最初から衝撃砲を撃ち込んでいれば、こんな何も出来ないままに敗北はしなかっただろう。
 最初に、何故防御なぞしたのか。タカトは自問するゲイルを冷たく見ながら教えてやる。

「答えは簡単だ。貴様は俺を恐れたんだ。また自分のISを真っ正面から壊されたりしないか、とな」
「な、ん……!」
「お前は、自分の恐怖に負けた」

 その答えに、ゲイルは愕然とした。想像もしていなかった答えだったからだ。だが、どこかで納得する自分が居る。
 何故、最初に防御した?
 何故、その防御をずっと続け無かった?
 何故、何故――?
 答えは、一つだった。自分はタカトでは無く、自分の恐怖に負けた。ただ、それだけの事。

「――無様」
「っ!?」

 ぽつりとタカトから呟かれるはたった一言。それは何より、ゲイルを嘲る言葉だった。認められない言葉だった。だから!

「ふっざ、けるなぁぁぁぁぁぁ――――っ!」

 ゲイルはあらん限りの声を絞り出して吠える!
 そして渾身の一撃をタカトに叩き込もうとして。それより疾く、タカトは動いていた。何の挙動も予備動作も無く、ゲイルの懐に飛び込む。世に、それをこう呼ぶ。武道に於ける一つの到達点。無拍子、と。
 一切の予備動作無し、故に事前の行動の察知は不可能。その速度は、物理的限界を超えると一説には言われる。
 それを持ってして、タカトは懐に入りながら、右手をスッと伸ばしていた。右掌がゲイルの頭を鷲掴みにする――ずぶり、と言う異音が辺りに響いた。

「ぎ……っ!?」
「誤解その2」

 ゲイルの頭を鷲掴みにしたままに淡々とタカトは呟く。五指を広げて掴んでいる掌の内、中指だけが消えていた。それは、”左目に埋没している”!

「俺は、なのは達のように優しくは無い」
「ぎぃあぁああああああぁああああああああ―――――――っ!?!?!?!?」

 絶叫が、響き渡る。それは、左目を貫かれた激痛と違和感による恐怖により上げられた叫びであった。あまりの光景に、なのは達も絶句して立ち尽くす。しかし、なのはがいち早く立ち直った。タカトに制止を呼び掛けようとして、それより早くタカトは動いていた。
 くんっと悲鳴を上げ続けるゲイルを目に指を突っ込んだまま片手で持ち上げる。そのまま、石畳の上にゲイルの身体を半回転させながら叩き付けた。

    −裂!−

 背中から石畳に叩き付けられ、石畳が砕け散る。そこで、漸く指は目から引き抜かれた。血に塗れている中指をタカトはしばし見下ろし。

「いい加減に黙れ。欝陶しい」

    −撃−

「ぎっ!?」

 悲鳴を上げ続けるゲイルの顔を踏み砕く。ぐしゃりっと凄惨な音が辺りに響いた。
 ゲイルの悲鳴が、止まる……正確には悲鳴も上げられなくなった、だろうが。そこで漸く、なのはから声が来た。

「タカト君!」
「…………」

 タカトはちらりと、なのはの方を向いて――あっさりとそれを無視した。
 なのはの顔が悲痛に歪む。彼がまさかあんな行動に出るとは思わなかったのだ。
 ……いや。考えて見れば、この三人が来た最初っからタカトはおかしい。
 やたらと口数は多く、アルテムやゲイルを嘲るような言葉を吐いて、そして、今のような非道な真似をする。これでは、まるで。
 そこまで思い至り、なのはとフェイトは卒然と気付く。こんな彼の姿に見覚えがあった事に。

「ヴィヴィオの時と、同じ……!」
「どう事なん? なのはちゃん、フェイトちゃん」

 一人だけそれを知らないはやてが二人を見て疑問符を浮かべる。だが、なのはもフェイトもそれに答える事は出来ない。漸く理解したのだ。今のタカトは。

「……どうやら、我々は間の悪い時に来たようだ」

 ヘイルズの呻くような声が漏れる。タカトの殺気を余す事無く全身に受けて。
 今のタカトはミッド、クラナガン襲撃の際に引き起きた時のように、その目が憤怒に彩られていたのであった。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ