魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十五話「墓前の再会」(中編1)
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 歌が響く中で、シオンはその人物を呆然と見ていた。こちらに気付いていないかのように、全く視線を寄越さず、声も掛けて来ない、人物を。
 ……伊織タカトを、ただ見ていた。隣のみもりも、呆然と見ている。
 なんで? そんな疑問が頭を過ぎる。だが、そんなものは考えるまでも無かった。
 墓参りに来たのだ。恐らくは。
 だが、その事実が酷くシオンには信じられなかった。
 なんで? もう一度、己の中で問う。だが、答えは当然出ない。誰もが身動きしないままに、歌は流れ続け。

「シオン――――!」

 どのくらい経ったか、いきなり響いた大音声に場の硬直が解けた。……正確には、たった一人だけ、みもりの硬直が。
 シオンは相変わらず、タカトを見続け。彼は墓から一切視線を動かさない。みもりは、あたふたと背後に振り返る。
 そこには、こちらに駆けて来る彼女達。スバル・ナカジマやティアナ・ランスター、彼女達を始めとしたアースラ一同が向かって来ていた。
 みもりは彼女達を見て、隣のシオンに視線を移す。シオンは振り向きもしない。ただ、前を見続ける。
 やがて、スバルが最初にシオンの元に到着した。

「もーシオン、何処行ったかと思った……」
「どうしたの? スバ――」

 台詞の途中でスバルが硬直し、次に到着したティアナも続けて硬直する。
 エリオ、キャロ、N2Rの面々、そして隊長陣と、シオンの元に来るなり次々に固まっていく。
 正確には、その視線の先に居るタカトを見て。
 最後に高町なのはが到着するなり、ぽつりと呟いた。

「タカ、ト、君……?」

 その声は、静かな墓地において大きく響く。
 だが、タカトは全く振り向かない。振り返る事をしない。真っ直ぐに。
 ただひたすらに、ひたむきに、真っ直ぐに、墓を見続けた。父の墓を。
 水を掛けたりしない。
 お供え物もしない。
 手も合わせない。
 ただ、見つめるだけ。
 秋風に揺られながら、それだけをタカトはずっと続けて。
 やがてゆっくりと立ち上がる。そして視線だけをこちらへ寄越した。

「……お前達か。また大層な人数だな」
「あ、えっと……シオン君が朝から見えなくて、トウヤさんに聞いたら、ここだって言われたから――」

 なのはがしどろもどろに答える。だがタカトは彼女に視線を合わせる事をしなかった。シオンただ一人に、視線を合わせ続ける。彼も受けてたつように目を逸らさない。沈黙の時間だけが過ぎて。

「タカ兄ぃ」

 やがて、シオンがぽつりと呼び掛けると、一歩を踏み出して歩き出した。タカトはそれを見ながら頷く。

「なんだ?」
「聞きたい事があるんだ」

 歩く、歩く――ゆっくりと二人の距離が狭まる。同時に、場に緊張が満ち始めた。シオンもタカトも構わず続ける。

「タカ兄ぃは、紫苑の事を知っていたのか?」
「それがドッペルゲンガーの事を指しているならば、答えは是だ」

 頷く。シオンは、歩きながら続ける。場の緊張が二人の距離に比例するかのように高まっていく。

「ならこの間の、秋尊学園での戦いも?」
「ああ、近くで見ていた」

 その答えに、スバル達は仰天しそうになった。タカトが近くに居たなぞ、全く気付かなかったのだ。果たして、何処に居たと言うのか。
 タカトもシオンも周囲に構わ無い。ただ、その距離が狭まり、三mを切った。最後の問いを、シオンは告げる――。

「なら、”みもりが掠われた時も、見ていたのか?”」
『『っ!?』』

 その問いに、二人を除く全員が目を見開いた。まるで予期していなかった問いだったのである。だが、タカトは全く顔色を変えない。変えないままで、口を開いた。

「ああ、”見ていた”」

 ――堪忍袋の緒をぶち切った。

 −ブレイド・オン!−

    −閃!−

 響くは鍵となる言葉。同時に、右手から生えた刀をシオンは横薙に振るう! ――だが、タカトは少しも動かなかった。ぴくりともしないままに、刀は吸い込まれるように首へとひた走って。その首に触れる直前に止まった。
 凄まじい形相で自分を睨むシオンを、タカトは涼しい顔で見る。
 時が凍り付いたように二人は硬直して、シオンは怒りを一息に込めて吐き出した。睨んだままに叫ぶ。

「なんで……! なんでみもりを巻き込ませた!?」
「俺が助ける必要性を感じ無かったのでな」
「っ……!」

 刀が震える。押し込めた怒りが、再び表面化しそうだったからだ。タカトは、それに構わず告げる。

「勘違いするな、シオン。”あれ”は”お前”のミスだ。みもりを掠われた、お前のな」
「ンなもんは分かってるんだよ……!」

 誰が、勘違いなんかするか……!

 胸中だけで、シオンはそう叫ぶ。みもりを巻き込んだのも、掠われたのも、全部自分のせい。そんな事は、とうに分かっている。
 だからと言って、”それ”を黙って見ていたなんて言われて! ……納得出来る筈が無い。

「黙って見ている必要なんか無かっただろ……!? あんたが助ければ、みもりを巻き込むような事はせずに済んだ!」
「逆に言えば、それでお前は一つ過去を乗り越える事が出来た」

 タカトはあくまでも淡々と答える。
 至近で、刀を向け、刀を向けられながら、二人は互いを見続けた。
 ぎりっと刀を握る手に力が篭る。タカトを睨む視線が、嫌が応にもきつくなって行く。そして。

「そこまでにしておきたまえ」

    −閃−

 響く声と共に、シオンとタカトが睨む中間点に”槍”が突き刺さる!
 二人の殺気めいた緊張が、まるで槍に吸い込まれるように霧散した。
 二人は、そして場に飲まれていた一同は、ゆっくりと声が響いた方向に振り向く。

「やれやれ……父上の墓の前で、お前達は何をやっているのだね?」

 そこにはピナカを投げ放った姿勢で、ユウオを伴った礼服姿の彼が居た。
 叶トウヤ。神庭家の異母長兄が。
 昼前の墓地。静かな静かな、この場所で。異母兄弟達は、久しぶりに顔を合わせる事となった。

 
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