魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十四話「それでも、知りたくて」(中編)
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 喫茶、翠屋。
 高町なのはの両親である高町士郎と高町桃子が経営する町内で大人気の喫茶店である。そのケーキの味は、パティシェの桃子の腕もあってか絶品であり、今日も今日とて近場の婦女子の舌を満たしていく。
 そんな翠屋で月村すずかは、呆れたような目を正面に居る青年に向けていた。すずかにとって最も許せない青年、伊織タカトに。だが、その視線は何故か妙に暖かみのあるものだった。
 その理由はいくつかある。まず一つは、タカトの前に置かれたケーキの量だろう。恐らくは翠屋のケーキ全種類がそこに並べられていた。彼は、それを全部食べていたのである――食べる度に、ひどく”幸せそうな”顔をして。二つ目の理由は、まさにそれである。
 やたらと美味しそうに食べるのだ、これが。
 見るだけで幸せになるような顔で食べるので、ついつられてしまいそうになる。
 だが、ここで一つの疑問点が生まれる。
 タカトは、あくまでも幸せを感じる事は出来ない。既にそういうものになってしまっているのだ。
 それは、例え美味しい料理を食べようとも当然感じる事は出来ない。世界一美味しい料理だろうが、何だろうがそれに例外は存在しない。つまり、この反応そのものがおかしいのだ。
 なのに、すずかの前に居るタカトは幸せそうにケーキを頬張る。
 見る人が見れば、自分の目を疑いそうな光景が繰り広げられ、やがて。

「美味しかった〜〜。一度やってみたかった”のよね”。翠屋のケーキ全制覇。残すの勿体ないからやれなかったけど。”男の身体”ってこう言う時便利”よね”」
「そ、そうだね……」

 タカトの違和感バリバリの台詞に、すずかは苦笑しながら答えた。それもそうだろう。今、タカトは完全に女言葉で話したのだ。苦笑の一つも出て、当然と言える。
 そんなタカトの台詞や仕草に、”たった一ヶ月しか見なくなった”のに、酷く懐かしい想いをすずかは抱く。
 それは、いつもすずかの隣に居た存在の仕草だったから。それをタカトがしているのに凄まじい違和感があるが、すずかはそれを振払った。そして、タカトに――”タカトの姿をした彼女”に微笑む。そう、彼女は。

「”アリサちゃん”、次はどこ行こうか?」

 アリサ・バニングス。タカトの身体を借り受けた彼女は、そんなすずかの問いに、にっこりと微笑んだ。
 ――何故、こうなったのか。話しはタカトの月村家襲撃まで遡る。

 
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