魔法少女 リリカルなのは StS,EXV
□第四十四話「それでも、知りたくて」(前編)
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「……すごかったわね〜〜」
病室で、初めてティアナが口を開く。その横で、シオンはプルプル小鹿のように震えながら、聞いたその台詞にギロリと横を睨んだ。
「……なにが、ずごいっでんだ……!」
しゃがれ声で、苦悶の喘ぎを漏らしながらシオンがティアナに声を発する。声は、一撃必倒シチューのあまりの威力――そうとしか表現のしようが無い――で、しゃがれ声ではあるが、復活していた。
そんなシオンに、ティアナはため息を吐く。
「まさか白目剥いて倒れるとは思わ無かったわね。すぐに復活した後も、部屋を二十周は駆け回ったでしょ?」
「……あまりの威力にな……スバルは何処行った!?」
「あんたがベッドで痙攣した段階で長い用になるとか言って足早に出て行ったわよ」
「ぢ、ぢぐしょう……!」
一言文句を言おうと、少なくとも嘘を吐くよりかはいい。まぁ、言おうとしたのだが、早々に逃げたらしい。シオンはため息を吐いて、ベッドに突っ伏す。
ティアナはそんなシオンを見下ろしてぽつりと呟いた。
「ちなみに明日は全力全”壊”ミートローフだそうよ?」
「いらんわ!」
シオン、魂の叫びであった。そのままぐったりとベッドに寝そべるシオンに、相変わらず冷たい視線をティアナは送り、次にその横の”空”となった寸胴鍋へと視線を移した。
……文句言うくらいなら全部食べなきゃいいのに。
ぽつりと胸中、そう思う。残すよりかは大分マシなのだが、そこら辺はシオンの性格故だろう。
きっぱりと正直に味に対して文句はつけるだろうが、残さず食べるのは。
そんな風にティアナに見られるシオンは、もう一度ため息を吐くと、頬に張られた湿布をぺりぺり剥がす。そして自分をじっと見遣るティアナに視線を向けた。
「……何か、聞きたいって顔だな?」
「そうね。あんたの昔話とか、あの紫苑の事だとか聞きたいけど……今はもっと聞きたい事があるわね」
さらりと告げた台詞に、思わずシオンはきょとんと疑問符を浮かべる。
てっきり紫苑の事もあったので、昔の事を聞きたいと思っていたのだ。ティアナや、スバル。エリオ、キャロも気にしていた筈だ。それが、何故――?
そうシオンが思っていると、ティアナは一つだけ大きく息を吐いた。
何かを言おうとして、でも、やめる。
聞きたい。けど、聞きたくない。そんな矛盾した感覚をシオンはティアナに覚えた。
そして、もう一つだけ息を吸うと、ティアナは、ゆっくりと爆弾を落とす。
聞きたかった事を、シオンを真っ直ぐに見据えて、告げた。
「あんた、みもりに何て返事するの?」
――空気が、先程とは全く違う意味で凍った。
目を大きく見開いて硬直するシオンが、我を取り戻す前に、ティアナは目を伏せて続きを話す。
「……ごめん。盗み聞きするつもりなんて無かったけど、あの時、みもりの告白聞いちゃったわ」
「…………」
「あんたと、みもりのキスも見た」
沈黙し続けるシオンに、ティアナは続けざまに言い放つ。暫く二人は見つめ合ったまま固まり、やがてシオンが息を大きく吐いた。
「お前が見たって事は、スバルもか?」
「……うん」
ティアナの消え入りそうな小さな答えに、そうかと一つだけ答え、シオンはベッドに身を再び倒した。
これで漸く、シオンも合点がいった。二人がおかしかった理由が分かったのだ。
くしゃりと頭をかいて、天井を見る。そのままシオンはティアナへと口を開いた。
「……ん。俺は、みもりとキスした。告白も、された」
「…………」
事実を確かめるようにシオンが告げると、ティアナの顔が歪む。彼自身が言った事に少なからずショックを受けたのだ。
そんなティアナを静かに見据えて、シオンは苦笑した。
「まさか、好かれてるなんて思わんかった」
「……あんた、それ本気で言ってんの?」
シオンの台詞に思わずティアナは呆れた声を出した。シオンは、さも心外そうな顔となる。
「恨まれこそすれ、好かれてるなんて思わなかったんだよ。それ相応の真似をしたんでな……仲良くしてくれてるのも、純粋に善意だと思ってたんだ」
「……まぁ、あんたが何したのかはあえて聞かないけど。純粋な善意だけで、あそこまで慕うとか本気で思ってたの、あんた……?」
「ま、まぁな……」
じと目で睨まれて、シオンはバツが悪そうに明後日の方向に視線を送る。そんなシオンにティアナは再びため息を吐いた。
あそこまで想われておいて、全く気付かないなんてどれだけ鈍感なのかと。
この分じゃあ、直接言わない限り絶対気付かないわね、こいつ……。
いっそここで自分の気持ちを突き付けたくなる思いに捕われるが、頭を振ってそんな想いを追い出す。こんな勢いで告白したく無い。ちゃんと、考えて想いを伝えたい――そう、思ったから。
でも……シオンはどうみもりに応えるのか、それが気になって気になって仕方無かった。
……シオンの想いが、気になって仕方が無かった。
だから、ティアナは再び問う。それが卑怯だと分かっていながら。
「シオン、さっきの答えてくれる?」
「俺はまだ、みもりに自分の答えを言って無いんだぞ?」
「……それも、分かってる。自分がどんな事聞いてるのか、知ってる。――でも……」
――聞きたい、の。
それがたった一つの答え。ティアナの違う事が無い想い。
だから、彼女は真っ直ぐにシオンを見つめて、それを告げた。シオンは、ティアナの言葉に暫く黙り込む。
そのまま数分程、時間が経ち、そして――。
「俺は、俺のみもりへの、答えは――」
シオンも真っ直ぐにティアナを見つめて、自分の答えを、ティアナに告げる。
その答えに、ティアナの瞳が震えた。