魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十三話「刀刃の後継」(後編)
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

    −戟!−

 風が吹く。

    −閃!−

 剣風と言う名の風が。それと共に合唱するは、鋼の音色。

    −裂!−

 そして生まれるは、引き裂かれ、震える音。世界が痛みと、歓喜と悲哀の絶叫を、確かな軋みとして生み出す叫び!

    −破!−

 そんな合唱を鳴り響かせながら、シオンと紫苑は廊下を駆ける!
 ただし廊下の床を、では無い。
 彼達は重力を無視して、壁を、窓を走っていたのだ。飛行魔法の応用である。
 重力、慣性をある程度制御出来るならば、この程度の真似はたやすい。
 当然、二人はただ走っている訳では無い。走りながら、”頭上”へと刀を振り翳していたのだ。

    −裂!−

    −閃!−

    −戟!−

 駆けながら放たれる刃は、しかし互いに互いを斬り流し続ける。
 鋼が絡み合うような音がそれを証明していた。
 やがて互いに窓に足を叩き付け、踏み止まる。
 震脚だ。
 だが、そこで奇妙な事が起きた。窓は当然、ガラスである。こんな風に足を叩きつければ――否、窓の上を走っているだけでも普通は窓は割れている筈である。しかも、二人は斬り合いながら走っていたのだ。なのに、激烈に窓へと足裏を叩きつけた筈なのに!
 割れない。ただ、たわみ、反響するような音をたてただけで、廊下側の窓も教室側の窓も、二人の震脚に耐えてみせた。

「「――壱ノ太刀」」

 響くは、やはり同じ名称。同じ名を持つ二人は、同じ技を同時に放つ――!

「「絶影っ!!」」

    −斬!−

 互いに放たれた技は、やはり互いの刃で、それを受けた。直後、世界が絶叫を上げる!

    −破!−

 まるで爆発したかのような音が、ぶつかり合い、互い剣先で起きた。
 いや、違う。”実際に爆発したのだ”。
 互いの技がぶつかり合った余剰エネルギーで!
 その衝撃で割れていなかった、二人が駆けた窓が残らず割れた。
 足場が消えた事を悟るなり、二人はその場から飛びすさる。床と、天井へと飛び、何とそこからも止まらなかった。
 床を、天井を蹴りながら、互いへと飛び掛かる!

    −裂!−

    −撃!−

 一瞬の交錯。刃が交え、互いに至近へと己達を捉えながら、その体勢で二人は斬撃を放つ!

    −破!−

 割れるような音が響くと同時、交差した二人は互いの居た場所を入れ替え、そこからも止まらない。
 床や天井と言う概念を無視して、互いの足場を蹴り、飛び、交差する。
 二つの刀は、その数だけぶつかり合い、互いを斬り流し続けた。
 この戦いを第三者が見た場合、上下の感覚を忘れたかのように錯覚したかもしれない。
 二人はまるで壁を蹴って三角飛びをするように、互いへと飛びかかっていたのだから。

「おおぉおお――!」
「はぁあああ――!」

    −斬!−

    −裂!−

 幾度も重なる交差。
 無限に続くと思われた程の、それを両者は重ねる。だが――。

    −斬!−

「うぐ……っ!」

 紫苑の口から苦悶の叫びが上がる。見れば、肩口が浅く斬られていた。

 まただ……! また速くなった……!

 苦々しくそう思いながら、紫苑は天井へと足を着地させたシオンを睨む。
 シオンはぐるりと、身体を翻してこちらへと向かおうとしている所であった。
 ――先の交錯。
 またシオンの速度が上がり、紫苑の刀を斬り流してシオンの刀が肩口を斬ったのである。

 何故、まだ速度が上がる……!

 かつての刀術を取り戻したとしても、これは異常だった。何せ、本来二人は互角の筈である。
 シオンは紫苑から、かつての刀術を取り返したのだ。ならば、自分と互角でなければおかしい。

 なのに、何故……!

 胸中叫びながら、幾度も行われて来た交錯を繰り返そうとして――目の前に、シオンが着地した。

「な、ん――!?」

 思わず、斬撃を放つ事すらも忘れて、降って来たシオンに呆然とする。そんな紫苑を、シオンは静かに見据えた。

「遅ぇ」

    −斬!−

 ぽつりと呟くと同時に、胴を一刀両断にした。
 壱ノ太刀、絶影。
 それが紫苑の認識速度を超えて、紫苑を真っ二つにしたのだった。最初に斬り伏せられた時と、同じように!
 呆然とする紫苑。胴はすぐに因子で再生する。だが、紫苑はそれにさえ構わずに戦慄していた。

 まさか……。

 呆然とする紫苑に、シオンの瞳が捉える。その目は、ただ静かな殺意を湛えていた。

    −斬!−

 返しの刃が、更に紫苑を袈裟に斬り裂いた。苦悶の喘ぎを上げながら紫苑は漸く確信する!
 シオンは強くなっているのだ。
 自分と刀を重ねるだけでかつての刀術を取り戻したように、その刀術に五年の、命懸けの戦いで手に入れた実戦での経験が漸く結び付き始めたのだ。
 血みどろの戦いを生き抜いて来た、紫苑が馬鹿にした五年の経験が。今、紫苑を再び追い詰める――!

「あの時の台詞を、そっくり返すぜ……!」
「っ――!?」

 言われ、思い出すのは強襲戦での最初の戦い。ハーフ・アヴェンジャーとなったシオンに、紫苑はこう言ったのである。それは。

「感染者だからといって絶対不死と言う訳じゃ無ぇだろ……! お前は何回殺せば死ぬ……!」
「うぅ! あぁあああああ……!?」」

    −斬!−

 声と共に、大上段から放たれる絶影! それが紫苑を頭頂から唐竹割りに斬り断つ!
 瞬時に三回も殺された紫苑が目も口も開いた形で固まった。

 どうだ……!

 そんな紫苑の状態に、シオンは手応えを感じる。紫苑と似た存在である因子兵は、五回殺せば滅びた。
 つまり従来の感染者と同様、再生、復活回数には限りがあったのだ。
 ならば、紫苑も……!
 そう思い、刀を引き戻しながら紫苑を見遣る。
 唐竹割りにされた紫苑は、傷が治る様子も無く、ただ呆然と固まり――。

「は。はは、あははははハハハハハハハハ!!」

 いきなり、大声で笑い出した。
 まだか……! と、シオンは胸中叫び、更に紫苑へ斬り付けんと刀を翻した所で、再びぎょろりと紫苑が目を剥いた。その、眼球が”漆黒”に染まる!

「っ――!?」
「ボクヲナメルナトイッタダロ……?」

    −撃!−

 直後、紫苑の身体の至る所から溢れた因子が、触手のように形を取って走り、シオンへと迷う事無く叩きつけられた。

 
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