魔法少女 リリカルなのは StS,EXV
□第四十三話「刀刃の後継」(中編1)
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丸い月が照らすのどかな道をシオンは歩く。考えてみると、こうやって一人で夜の道を歩く事自体久しぶりの事だった。幼少の頃に家を抜け出した、あの時以来か。
シオンは夜の町を一人歩きながら、ゆっくりと思い出していた。
刀刃の後継――最強の刀術士にして、”勇者”であった神庭アサギの刀術。神覇ノ太刀を唯一継承し、僅か十歳にして極めの段階に至り、”最強”の二文字を冠した刀術士……その唯一の欠点は、なんて事はない。
……人が殺せなかったったと言う事だった。
タカトやトウヤとて躊躇(ためら)いはするだろう。他のグノーシスメンバーだって、そうだ。好んで人殺しをする奴なんて、誰もいない。
だがいざとなった時、他者を殺す事を受け入れる事は出来た。
――シオンは、それがどうしても出来なかった。受け入れられなかった。
それでもなんとかしてしまえる技量はあったし、事実なんとかはして来た。だが欠点は、所詮欠点に過ぎない。
考えてみると、誰だって欠点はあるのだから。
だがシオンの欠点は、戦場においてはあまりにも致命的過ぎた。
そしてシオンは刀を捨てるにいたって、いよいよ落ちこぼれた。よく真藤リクがシオンを指して”弱い”と言うのはここに原因がある。
後輩の顔を思い出し、シオンはくすりと吹き出す。あいつも強情だからなぁと。
そして次に思い出したのは異母兄、タカトだった。
敵対し、そしてシオンが追う兄。彼が最強な秘密を、シオンは今では、なんとなく理解していた。
魔力でも技能にも、その理由は無い。彼には欠点が無かったのだ……いや、あくまでも戦場においてと言う意味ではあるが。
その技能を抑制するような弱さを、なに一つ持っていなかった。
タカトは、その才能を全開にしていた。
『人と戦う時には、敵を超えようなどとは思わん事だ。それでは自分よりも強い敵と出会った時にはひとたまりも無い。それよりも、敵の弱点を見付けろ』
タカトの事を思い出していると、つい彼がシオンに語ってくれた数多くの言葉から、そんな事を思い出す。
『弱点を見付けたならば、後は実行を恐れるな。それがなんであれ、たった一つでも弱点があれば打てる手は無限にある――お前なら出来るさ、シオン』
俺は――。
シオンは足を止め、苦く笑うと夜空を見上げる。夜空では、星々が瞬いていた。
まるで宝石をちりばめたようだの言うのだろうが、シオンにはそうは思え無い。ただ、綺麗だなとは思うが。
――あんたには、永遠に敵わないのかもしれないな、タカ兄ぃ。もしくは、あいつ『紫苑』なら何とかなるかも知れない。人を殺せる。つまり欠点が無い俺ならば……俺が奴を憎いと思っているのは。恐れているのはその事実だ。まるで、俺が欠陥品だと客観的に証明されたみたいで、ね。
苦笑しながら、空を見上げるシオンの周囲は静まり返っている。
雲一つない、満天の星空の下。風が涼やかに流れた。
そして、シオンは前を向く。そこに、”それ”はあった。
私立秋尊学園、中等部。シオンがかつて通った学校だ。
門の向こうにはあからさまに分かりやす過ぎるように結界が張ってあった。強装結界だ。紫苑が張ったのだろう。
シオンは門を一足で飛び越えると、同時に結界に入った。
多分、自分以外には出入りは出来ない仕様だろう。つくづく、手が込んでいる。
門を越えて見上げる校舎に、シオンは一人、拳を固めて呟いた。
自分に、言い聞かせるように。
「俺は欠陥品かもしれねぇが……同時に未完成品でもあるんだ。こいつは過去への挑戦だぜ、紫苑」
そしてシオンは、また歩き出した。その中に居るであろう紫苑と、みもりへと向けて。
助ける為に。
……戦う、為に。