魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十二話「懐かしき我が家」(後編)
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 日本、島根県、出雲市。
 ビルが立ち並ぶ都市部から外れた、緑豊かなのどかな郊外部にその家はあった。
 神庭家。そう描かれた”門”を見て、アースラ一同は口をほえ〜〜と開き、唖然としていた。
 さもありなん。ずっと向こうの道まで続く塀。そしてドンっと立った門。それらを見るだけで分かる巨大な屋敷が、そこに在ったからである。
 一同の反応にシオンはため息を、みもりは苦笑していた。

「シオン家って、すごいね」
「まさか、ここまでとは思わなかったわ……」

 門を見上げながら呟くスバルとティアナにシオンは同じように門を見上げた。自分が育ち、暮らして来た家を。
 こうして久しぶりに帰ると、自分の家ながら大きいと言う事がよく分かる。昔はあまり分からなかったものだが。

 ……懐かしいのかな?

 門を見上げるシオンは胸中自問する。胸を締め付けるような、いたたまれないような、そんな気持ちになり、シオンは苦笑した。
 自分の家に帰るのに、なんでそんな気持ちになっているのかと。
 ……こんな、罪悪感を覚えるような気持ちになっているのだろうと。

「シオン……?」
「ん? どした?」

 暫くそうして見上げていると、スバルから声を掛けられる。それに出来るだけ笑って答えると、心配そうな顔が返って来た。横のティアナも声にこそ出さないものの、表情に出ている。
 そんなに俺は顔に出やすいのかと自嘲しながら、シオンは前に出た。これ以上、ここに居ても仕方あるまい。門に手を当てて、力を入れて押す。
 ……相変わらず重い門に、またもや泣きたくなるような気持ちとなり、苦笑でごまかしながら開いて行く。……そして、開いた門からいきなり眼前に木刀の先端が現れた。

 ……は?

 あまりに唐突に現れたソレに訳が分からず呆けるシオン。そんなシオンに構わず木刀は突き進み、顔面へと放たれる!

「て! どおっ!?」
「「「シオン!?/シン君!?」」」

    −閃!−

 顔面直撃まで、後数ミリで我に返ったシオンは、全力で顔を背ける事で木刀を回避した。後ろから響くスバル、ティアナ、みもりの悲鳴にも今は構っていられ無い。
 避けた体勢から後退しつつ、イクスを起動。後退したシオンを追って現れた小柄な影に向かい、横薙ぎにイクスを放つ!

    −閃!−

 空気を引き裂いて放たれた斬撃。だが、イクスが斬り払ったのはただその空気だけであった。なら、木刀を持った影は――!?
 直後、ぞくりと背中を走る悪寒にシオンは戦慄。直感の赴くままに頭を下げる。

    −閃!−

 下げたと同時に、頭上を何かが通り過ぎた。シオンはそれを確かめ無いままにイクスを上に振り上げる。が、やはりイクスは空を斬るのみ。
 前を向いたままのシオンの視界には誰もおらず、振り上げたイクスも空を斬った。ならば!

 後ろだろ!

「弐ノ太刀! 剣牙ぁ!」
『『シオン!?/シオン君!?』』

    −撃!−

 魔力斬撃を放ったシオンに、アースラの面々が悲鳴のような叫びを上げる。
 ……当然である。未だ姿さえ捉えさせない襲撃者は、魔法を使っていないのだから。
 そんな相手に魔法を。やり過ぎ以前の問題だ。例え非殺傷設定だろうと、相手によっては最悪の事態にすら成り兼ね無い。
 ……そう。それが、素人ならば。

「……やっ♪」

    −閃−

 軽快に響く高い声と共に、襲撃者は剣牙に対して前に踏み込む。同時に真ん中へ木刀を突き立て、捩るような動作で木刀を回転。それだけ。それだけで、剣牙はあっさりと霧散した。

「ッ!?」
『『へ……?』』

 その結果にシオンは悔し気に歯を食いしばり、他の面子は唖然とする。
 それはそうだろう。目の前の襲撃者は魔法を使っていないのだ。
 一切、である。にも関わらず、どうやったら魔力斬撃を霧散出来ると言うのか。
 襲撃者は剣牙を無効化しながら、まだ止まらない。シオンへと走る。
 剣牙を放った直後で動けぬシオンは、刹那に迫った襲撃者に簡単に懐へと踏み込まれ――。

「絶影っ!!」

    −閃!−

 その直前に、居合の要領でイクスを横薙ぎへと放つ。

 このタイミングでなら――!

 必勝を期した一撃にシオンは勝利を確信して。だが、イクスは再び空を斬るだけで終わった。躱された!

「な……! うぉ!?」

    −閃!−

 再び襲撃者を見失った事に驚く暇無く、シオンは足元を払われて空へと舞う。そして、シオンが見たものは自分の額へと降って来る木刀!

    −撃!−

「あだっ!?」

 宙を舞うシオンの額に打ち降ろされた一撃は問答無用に地面へと、シオンを叩き落とす。
 額と後頭部、背中を痛打し、悲鳴を上げるシオンにポカンとしてしまう一同。そして、そんなシオンの前に襲撃者が立つ。
 そこで初めて襲撃者の姿を、シオンを含めて皆が認識した。襲撃者は小柄な体躯であった。おそらく、はやてよりも背が低い。そして腰まで伸びた長い銀髪。柔らかそうに微笑む笑顔に紅眼が印象的である。
 どこかしら――否、シオンを女の子にしてみたら、こんな感じであろう。一見”少女のような”彼女は、微笑し続けながらシオンを見下ろす。

「ほら、変に抵抗するから余計に痛い目に合うんだよ? 大人しく一発殴られていればよかったのに」
「……木刀でブン殴られそうになったら誰でも避けるに決まってんだろ!?」

 まだジンジンと痛む額を右手で押さえながら、シオンが上半身を起こすと、木刀を持ったまま微笑む彼女を睨みつけた。……変わらぬその姿を見て、泣きそうになったのは痛みのせいだと己に言い聞かせて叫ぶ。

「母さん!」
『『……はい?』』

 シオンの叫びにアースラ一同が同時に疑問符を浮かべ、その”母さん”をマジマジと見る。
 彼女は、そんなシオンの台詞に微笑を続け、一同を振り返るとぺこりと頭を下げた。

「シオン君の母の神庭アサギです。ウチのシオン君がお世話になってます」
『『え、嘘?』』
「いや、マジ」

 アサギの挨拶に間髪入れず、異口同音に疑問の声をアースラ一同は上げるが、シオンが即座に否定する。
 アースラ一同の疑問は当たり前であった。見た目、完全に十代の少女。下手をすれば、ティアナやスバルよりも幼く見えるのだ。信じられ無いのも無理は無い。
 ……彼女と初めて会う人は必ず通る道なので、シオンとしては慣れっこである。……この後の展開も。
 シオンはため息交じりに、みもりも苦笑しながら耳を押さえた。そして。

『『えええええええええええええええええええええええええええええ――――――っ!?』』

 直後にアースラ一同から、大きな大きな叫び声が迸った。
 こうして、シオンは懐かしの我が家に帰って来た。額と後頭部、背中と――そして、胸に痛みを覚えながら。

 彼は帰って来た。

 
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