魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十二話「懐かしき我が家」(中編2)
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 顔を真っ青にしながら声ならぬ声で悲鳴を上げつつ崩れ落ちるトウヤの向こうから、敵である筈の彼が現れる。
 伊織タカト。シオンにとって、もう一人の異母兄が。
 ……なんで、こんな所に? と、三人が同時に思っていると、ぱたりと倒れたトウヤが涙目でタカトを見上げる。そこに。

 ――ならば、何故だね!?

 と言う明確な思考をアイコンタクトで飛ばされ、タカトはふぃと視線を逸らせた。

「いや、最初は少し”あいつ”の様子が気になっただけなんだが――なんか、兄者に”あいつ”の裸を見られると思うと凄まじくムカついてな。……大丈夫だ。多分、”潰れてはいない”と、思う」

 ――ふ、ふふ。つんでれだね……!?

「……アイコンタクトにも力が無いぞ。いいから寝ていろ」

 そこまでタカトが言い切ると同時に、トウヤは糸が切れたが如く意識を失った。それらを見遣り、タカトは長々とため息を吐くとトウヤを俵を持つようにして抱える。そして、シオン達の視線に気付き。

「とりあえず、兄者は俺が運んでおく。後は心配するな。ああ、クロノ・ハラオウン、元気そうで何よりだ。全快したようだな。……では、さらばだ」

 言いたい事だけを一方的に告げて、あっさりとその姿は消えた。恐らくは縮地であろうが――。

「……えっと。これは、どう解釈すれば……?」
「済まない。僕も許容範囲外だ。何が何やら……ここのセキュリティはどうなっているんだ」
「て、言うかよ――」

 三人が三人共頭を抱えながら周りを見る。そこに並ぶはドエライ臭いを発して意識が無い男共の群れがあった。それを見て。

「この片付け。どーすんの……?」
「「…………」」

 シオンの問い掛けに、当然二人は無言。答えの代わりにぱったりと横になる。シオンもそれを見て何やらどうでもよくなり、その場に大の字になって倒れた。
 すると、向こう側の扉――ナノ・リアクター治療室の扉が開き、ぞろぞろと人が出て来る。……確認するまでも無い、アースラ女性陣+ユウオやカスミ、みもりであった。
 その中に久しぶりに見る栗色の髪の女性をシオン達は見た。彼女達は周りの死々累々たる有様に唖然としながらシオン達に近寄る。

「これ、どうしたの? シオン……?」
「いろいろあってな。ほんっと、いろいろ」
「そ、そうなんだ……」

 尋ねてみたスバルだが、シオンの返事に何があったかは分からずとも、何かを感じたのかそれ以上聞いて来なかった。
 ユウオ達、グノーシスの面々は何があったか悟ったのだろう、深々とため息を吐いている。そして。

「え、え〜〜と。シオン君、久しぶり。げ、元気だったかな?」
「……う〜〜す。久しぶりです。今は、元気無いです」
 
 久しぶりに見るなのはから声を掛けられるが、シオンの返事はやたらと力が無い。クロノやエリオも。

「……元気だったか。そうか」
「……お久しぶりです」

 と、全然感動の再会とは程遠い挨拶をする。
 そんな三人の様子に、流石になのはは戸惑ったのか、困ったような顔となった。

「え、えっと。何か全然想像してた感じじゃないって言うか。何で、そんなにぐったりしてるの……?」
「……聞かないで下さい。ここであった事を一刻も早く忘れたいんで」
「ええ!?」

 まさかのシオンの返答にショックを受けたのか目を見開いて叫ぶなのは。
 だが、シオン達三人は全く構わず、その場で熟睡する事を選択した。
 ……結局、三人はそのまま翌日までぐっすり眠りこけたと言う。
 尚、今回の騒動を『第、数えるもバカらしいからやめた。叶トウヤ暴走事件』と呼称し、速やかにグノーシス内の人員は忘れるようにと通達があったとか無かったとか言われたそうな。

 
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