魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十二話「懐かしき我が家」(前編)
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 第97管理外世界。その宇宙空間に、穴が開いた。次元航行艦による次元穴である。
 穴からは、半壊した次元航行艦が出て来る。
 アースラだ。
 ツァラ・トゥ・ストラの追撃を振り切った艦は、漸くこの世界に来られたのだった。アースラの真下には、青い惑星が広がっている。地球だ。
 久しぶりに見た故郷である星をブリッジから眺めて、アースラ艦長である八神はやては、漸くホッとしたように息を吐いた。

「第97管理外世界、地球に次元航行完了しました」
「うん、了解や。で、トウヤさん。このまま地球に降下すればええんかな?」

 管制官、シャーリーからの報告に頷き、はやてはブリッジに立つ叶トウヤを見る。彼は、はやての問いにフフンと笑った。

「いや、地球には降りないよ。フィニーノ君、悪いが、これから言う座標に艦を向けるように、リリエ君に言ってくれるかね」
「了解です。ルキノ? 行ける?」
《はい。大丈夫です》

 トウヤの依頼に、シャーリーとルキノが短いやり取りを交わす。それを聞きながら、はやては疑問符を浮かべた。脇に立つグリフィスや、フェイトも同様である。
 地球に降りないで、何処に向かうと言うのか。

「えっとやな、トウヤさん。何処に行くんや?」
「ふっふっふ、見たら驚くよ? だが……そうだね、シオン?」

 ニンマリと笑いながら、トウヤはブリッジの隅に視線を送る。そこには――。

「ごめんなさいごめなさい、生まれて来てごめんなさいごめなさい」

 体育座りで、やたらと病んだ台詞をぶつぶつと呟く少年が居た。神庭シオンである。
 トウヤの言葉も聞こえていないのか、ぶつぶつと呟き続けるその姿は、かなり怖いモノがあった。トウヤはそれを見て、フウと嘆息する。

「やれやれ『シオンの恥ずかしい秘密”改”、500選。紙芝居♪』を晒された程度で、そんな有様とは……修業が足りんね?」
「て、やかましいわ!?」

 トウヤのあんまりな台詞に、いろんな意味で見てはダメな状態に陥っていたシオンが瞬間で復帰する。即座にツッコミを放ちつつ。涙をダーと流した。

「もう、毎度毎度毎度毎度……! 本人も忘れてたような事をなんで事細かに覚えやがるのさ!」
「はっはっは。私に不可能は無い」
「才野の無駄使いだよキッパリと!」

 朗らかに笑うトウヤに、シオンは本気で泣きが入る。つい先程、強襲戦にて、あまりにヘタレだったシオンに対して、もはや伝説となった罰『恥ずかしい話し大暴露、Part2♪』が行われたのだ。 ……およそ、3時間に渡って。
 シオンも泣きが入ろうと言うものであった。
 先程の、真面目なカッコイイ異母兄はどこに行ったのかとホロリと泣きつつ、シオンは立ち上がる。そして、散々精神的にいたぶってくれたトウヤを睨む。

「んで? 何さ?」
「うむ! ユウオのヒップラインだが……どの角度が、一番美しいと思うかね?」
「それは……て、ち・が・う・だ・ろ!? 何さらりと下手したら致死必死な質問してんだよ!? さっきの話しの流れと全然違うじゃんか!」

 ガ――と、吠えるシオンに、トウヤはハッハッハと再度笑う。

 こ、この兄貴は……!

 本当〜〜に、先程おっちゃんを退け、自分を立ち直らせた兄なのかと疑いたくなる。だが、これもトウヤなのだ。
 彼は、ユウオと出会うまでルシアを含めた妹弟をからかう事を生き甲斐にしていた。……当の弟として見れば厄介過ぎる性格であるが。再度の嘆息、もう一度尋ねる。

「ん・で!? な・に・を聞こうとしたのさ!?」
「うむ。胸のサイズだが――」
「な・に・を・聞・こ・う・と・し・た・の・さ・ッ!? ……次はユウオ姉さんにチクるよ?」

 流石にその名には弱いのか、トウヤは肩を竦める。そして、漸く本題に入った。

「これから向かう所を八神君達は聞きたいようでね。教しえてやってくれたまえ」
「へ? いや、俺も知らんけど?」

 その台詞に、キョトンとシオンが答える。トウヤは、シオンの答えに盛大に嘆息した。

「やれやれ。お前が居た時はまだ完成してはいなかったが、計画は知っていただろうに」
「て〜〜と、……”アレ”完成したの?」

 漸くピンと来たのか、シオンが頭に電球のマークでも浮かべそうな表情で答える。トウヤは、それに漸く頷いた。

「つい、この間ね」
「へ〜〜。たった四年でよく……」
「で? 結局、向かう所は何処なんかな?」

 兄弟の会話にはやてが割り込む形で尋ねる。それに、二人は笑った。シオンがトウヤに代わり、答える事にする。

「今は、多分グノーシス本部になってるのかな……? 月です」

 絶えず、地球の傍に寄り添う衛星の名をシオンは口にする。
 グノーシス本部、月夜(モーント・ナハト)。
 それこそが、アースラが向かう場所の名であった。

 
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