魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十一話「舞い降りる王」(後編)
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

    −斬!−

 空間を、次元を、万物全てを断ち斬りながら斬界刀が通り過ぎる!
 アルセイオは、最後まで斬界刀を振り切った。だが、その顔は苦渋に歪む。

 手応えが、ねぇ……!

 振り切った斬界刀に、トウヤを断ち斬った手応えがどこにも無かったのだ。それは、つまり――。

《……いや。恐ろしい、一撃だね? 下手をすれば概念破壊攻撃、EXに届くよ、貴方のその技は》
《っ――!?》

 念話は、後ろから聞こえた。アルセイオは首だけを背後へと向ける。そこには、雷を”身体”に纏うトウヤが居た。アルセイオを変わらぬ笑いで見据える。
 そのトウヤの様子に、アルセイオは彼がどうしてあのタイミングで斬界刀を避けたられたかを悟った。それは、カラバ式における秘奥。己が魂を一時的に、ある存在と融合させる事により絶大な戦闘能力を得る方法であった。その名を。

《精霊……融合……!?》
《誇っていいよ? アルセイオ・ハーデン。貴方を含めてたった三人しかいないからね。私が精霊融合を行ったのは》

 バカな……!

 アルセイオは、トウヤの台詞に戦慄する。精霊融合とは、神の端末、分化し、一つの概念存在と化した精霊と融合する魔法である。
 強力な魔法だ。何せシオンは一度、これを使ってアルセイオを追い込んでいる程なのだ。だが、当然それだけの能力には相応の反動がある。あまりに巨きな霊的存在と融合する事は、同時に自我の崩壊を招きかね無いのだ。故に、カラバ式において禁術とされているのである。
 だが、トウヤはそれをあっさりと使っていた。しかも、その言葉が確かならば。

《反動に耐え切る事が出来るって事か!?》
《何、さほど難しい事では無いさ。たかが一柱の精霊。この身に宿せずして、精霊王の二つ名は名乗れぬのでね?》

    −斬!−

 アルセイオは、最後までトウヤの台詞を聞かない。斬界刀を横薙ぎに振り放つ!
 その一撃は、トウヤの上半身と下半身を苦もなく分かち――あっさりとその身体は紫電へと変わり、消えた。

《こちらだ》
《!? ちぃ!》

 再び念話は背後から聞こえる。今斬ったのはただの残像であったか。雷の精霊、ヴォルトとの融合で得られる特化能力は雷に等しき超速度である。それ故に、アルセイオを持ってしてもコレに追い付くのは難しい。斬界刀とはいえ、当たらなければ意味は無いのだ。……だが。

 とはいえ、流石だね?

 アルセイオが振り放ち続ける一刀を躱し続けながら、トウヤは苦笑する。
 精霊融合で、斬界刀を回避出来ているが、それとて完全では無い。
 ――余波だ。斬界刀からの一撃が放たれる度に、空間、次元が容赦無く斬り裂かれ、歪みが生じ、それだけで下手な攻撃より強力なモノが放たれているのである。その威力はランクにすると恐らくSSに届く。ただの余波がだ。直撃を受けた場合を想像すると、ゾッとする。
 防御は実質不可能。迎撃出来る魔法も、多くは無い。もし目が無ければ、トウヤとて迷い無く擬似EX化している。それだけの相手なのだ。このアルセイオ・ハーデンとは。

    −斬!−

    −裂!−

    −閃!−

 振るう、振るう。振り放たれた続ける!
 それをトウヤは辛くも回避し続ける。一度攻撃に転じようとしたが、その隙を逃さずアルセイオは斬界刀をトウヤに放って見せたので、トウヤは下手な攻撃を放つ事を諦めた。
 現状、どの攻撃を放ったとしても、斬界刀で斬られて無効化されるのは間違い無い。ならば、待つ。
 ピナカが発動出来る、十分の時間を。

《っおお……!》
《っ……!》

    −斬!−

 放たれる大上段からの轟撃! それ自体は回避したものの、余波でトウヤの腕が軽く斬られた。
 トウヤの顔が若干歪み、アルセイオが笑う。
 そしてその一撃はトウヤの身体をぐらつかせ、体勢を乱す!
 アルセイオは凄絶な笑みのままに、斬界刀を振りかぶった。このタイミングからの回避は不可能。アルセイオは勝利を確信し、吠える!

《捉えたぜ……! 叶!》

 叫び、斬界刀を放つ!
 それを前にして、トウヤは――。

《いや、こちらが――間に合ったさ!》

 ――笑った。

 直後、ピナカが激烈な光を放つ!
 それに、アルセイオが斬界刀を振り放ったままに目を見開いた。

 これは――!?

《ピナカ。破壊神の力を受け継ぎし神槍よ。その名を持って、力を示したまえよ!》

 トウヤは構わず、迫り来る斬界刀に向かい、ピナカを構える。技は使わない。
 そうでなければ、”この世界を破壊してしまうから”。
 ピナカはトウヤの叫びに応えるが如く、更に光り輝き、トウヤは微笑む。そのまま斬界刀に向かい、ピナカを放り投げた。

《受けたまえ……! 神鳴る破壊(ピナカ)ァ!》

    −閃!−

 トウヤより放たれたピナカ。それは迷い無く、斬界刀に真っ正面からぶつかり。

    −壊!−

 次の瞬間、斬界刀を容赦無く木っ端微塵へと変えた。
 先程は斬界刀だけで済んだが、今回はそれだけで終わらない。
 斬界刀の中心であったダインスレイフすらをもひび割れさせ、砕き。更にアルセイオの両腕すらをも巻き込む!

《ぐっ! おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!?》

 アルセイオの両腕が容赦無く破壊され、裂傷が走り。骨が砕かれる!
 それを尻目に、トウヤは微笑した。告げる、己の――。

《終わりだね》

 勝利を。
 それはこの世界。そして、長く続いた強襲戦。全ての終わりを告げていた。

 
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