魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十一話「舞い降りる王」(後編)
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

《ちぃ!》

    −閃!−

 激突したダインスレイフと、ピナカは虚空に衝撃を撒き散らし、アルセイオとトウヤはその反動で僅かに後退。そこからアルセイオはダインスレイフを横薙ぎに一閃する――が、トウヤは構わず前に踏み込む。
 槍がぐるりと回転。ダインスレイフを柄部分で受け止めると、そこからピナカが更に回転。石突きがアルセイオの顔に向けて跳ね上がった。

《っお!?》

    −撃!−

 反射的に生み出した剣を顔の横に作りだし、アルセイオは石突きを防御しようとして、それを問答無用に破壊!
 石突きは何もなかったかのようにアルセイオの顔面を痛打した。

《がっ……!》

 横殴りに思いっきり殴り飛ばされ、アルセイオの身体が流れる。口を僅かに切り、アルセイオの口から血が流れた。アルセイオは構わず、トウヤを睨み、愕然とした。
 アルセイオが見たのは、ピナカを更に回転しながら踏み込むトウヤ! 今度差し向けられたのはピナカの風纏う穂先。

《――捻れ穿つ螺旋》

    −閃!−

 放たれる一閃!
 空間をその名の如く捻切りながら、ピナカが撃ち込まれる。アルセイオに出来たのは、身体に無尽刀のスキルを持って鎧を作り出す事だけだった。

    −轟−

 抉り込まれたピナカが鎧を容赦無く砕き、アルセイオの腹に突き込まれんとする。しかし、鎧を砕いたそれが僅かにアルセイオを後退させていた。アルセイオはそれを利用して、瞬動を発動。無理矢理後退する。
 結果、捻れ穿つ螺旋は虚空を削るだけに留まった。アルセイオは、後退し続けながら唸る。
 言うだけの事はある。
 恐らく、接近戦の技量だけを取るならば。タカトと十分に互する。はっきり言って自分では勝負にならないレベルであった。そもそも近接で、属性変化系魔法を使える時点で異常と言えるのだから。
 接近戦は勝負にならない。ならば、別の手段を取る!

《こいつなら――どうよ!?》

 そう叫んだアルセイオの周囲に大量の剣群が形成される。万を遥かに超える数である。一個人に放つ量では無い。それを一斉に放たんとして、その前に、トウヤが動いた。
 ピナカを虚空に突き刺さし、そこを中心にカラバ式魔法陣が展開する。

《震えと猛る鳴山》

 瞬間、魔法陣から大量の土砂がどこからともなく出て来た。
 召喚したのである、土砂を。それはトウヤを包み込み、巨大化する。
 アルセイオはそれを見てトウヤに指を差し向けた。剣群達に、突撃を命ずる!

《――行け!》

    −轟!−

 一斉に、剣群がトウヤへと殺到した。

 −撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃・撃−

    −撃!−

 土砂に包まれたトウヤに万を超す剣群が叩き込まれる!
 それは、突き刺さった上から更にその剣を砕いて突き立ち、暴虐の剣群はトウヤを惨殺せんと次々と撃ち込まれていく。だが、アルセイオの顔は晴れない。彼の直感は告げている――これで終わりな筈が無い、と。そして、それは事実だった。

 −アヘッド・レディ−

 −時すらも我を縛る事なぞ、出来ず−

 響くは鍵となる言葉。そして、トウヤ固有の呪文。
 同時、ぞくりと言う悪寒をアルセイオは覚え、トウヤに背中を向けて全力で後ろに下がる!
 直後、それは起きた。

《凶り歪み果てる理想》

    −軋−

 割れた――空間が捻れ、凶り、歪み、割れ尽くす!
 それは、空間に出来た裂け目であった。裂け目は万物全てを問答無用に飲み込み尽くす。
 人はそれをこう言う。重力特異点”ブラックホール”と。
 アルセイオはそれを離れた位置から見て冷や汗が止まらない事を自覚する。
 もし、あの場に留まっていたならば?
 もう少し離脱が遅かったら?
 自分は恐らく、この世にいない。
 やがて、ブラックホールは自分から勝手に蒸発し、消え去る。そこからあっさりと彼が現れた。
 当のそれを放った人物、叶トウヤが。彼は、アルセイオを見て微笑む。

《ふむ。上手く避けたようだね? 安心したよ》
《よくそんな事言えるぜ……離脱が遅れてたら死んでるぞ、俺》

 軽口に、軽口で返しながらアルセイオは跳ね上がった心臓を押さえ続けていた。軽い興奮状態である事を自覚する。
 彼に取って、強者との戦いは望む所である。それがアルセイオに取って、一つの願望であるからだ。
 気付けば、アルセイオは笑っていた。くっくっと笑い続ける。
 タカトといいこのトウヤといい、自分を越える相手によくよく出会うモノである。それも全員年下と来てる。
 笑いの一つも出ようと言うモノであった。
 何より、アルセイオは嬉しかった。彼は自分より強い相手と戦い、それを超える事に何より楽しみを覚える。趣味、と言っても過言では無い。
 彼もまた戦闘狂(バトルマニア)の一人であったのだ。

 奴にまともに通じる技は、あと……。

 恐らく巨剣や極剣は無意味だ。いくら数を作ったとしても、あのブラックホールを生み出す技には通じまい。ならば、後はアレすらも斬り得る剣しか無い。
 ――斬界刀。それしか。
 だが、最初にアレはいかな方法を持ってか破壊されている。何が起きたのか、分からない程であった。

 試して見るか……。

 何をされたか、その正体を見極める。アルセイオはそう決めると、ダインスレイフをトウヤに構えた。

 −ソードメイカー・ラハブ−

 −我は無尽の剣に意味を見出だせず。故にただ一振りの剣を鍛ち上げる−

 虚空に再び響く、二つの言葉。同時、ダインスレイフを中心にして剣が形成されていく。
 斬界刀。世界を斬り得る一刀が。
 トウヤはそれを見て苦笑した。

《思いきったね……。一度破壊されたそれを持ち出すかね?》
《おうよ……! お前さんに通じそうなのが、これしか無くてなぁ!》

 アルセイオもまた笑う。
 トウヤは苦笑しながら、自分の体内時計を確認した。

 ――あれから僅かに八分。ピナカを発動させるには後二分と言った所かね。

 凶り歪み果てる理想で時間を稼いだとは言え、”最初にピナカを発動してから”まだ八分しか経っていない。後二分。それまで、斬界刀相手にどう戦うか。

 擬似EX化は……却下だね。 

 こちらの最強の切り札を晒す事は、流石に憚られた。恐らく、向こうも見ている事だろう。
 この戦いを。
 真性のEXとは違い、凡人だった自分が成せたモノである。再現出来るとも思え無いが、万が一の可能性は否定出来ない。ならば、こちらは却下であった。

《行くぜ》
《来たまえ》

 ――なら、こちらで行こうかね!

 トウヤが胸中叫び、アルセイオが斬界刀を振り上げながら、瞬動でトウヤへと一気に突っ込む! トウヤは動かず、指を虚空に滑らせた。
 その指は雷、と虚空に一文字を描く。直後、アルセイオが大上段から斬界刀を振り放った。

    −斬!−

 斬界刀はその軌跡にあるモノ、世界そのものを断ち斬りながらトウヤに突き進み、トウヤはそれに笑って見せる!
 世界を斬り裂いて、一撃はトウヤへと振り落ちたのだった――。

 
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