魔法少女 リリカルなのは StS,EXU

□第二十九話「一つの出会い、一つの別れ」(前編)
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 検査が終わり、シオンは本局内を歩く。目指すのは本局のピロティ(休憩所)である。
 少し検査に時間がかかった事もあり、喉が渇いていたのだ。てくてくと歩きつつ、シオンは思いを馳せる。つい、昨日の事に。

 ……色々あったよな。

 おっちゃんことアルセイオとの邂逅、そして戦い。
 聖域に落ちて、風邪でぶっ倒れて。
 真実を知って、感染者化して。
 知った事、知らなきゃいけなかった事、本当に色々あった――そして。

 タカ兄ぃ……。

 異母兄の事を。
 その目的を、そして何故あんな事をしたのかを知った。
 ただ一人で、世界に喧嘩を売った異母兄の事を。

 ……止める、か。

 出来るか? それを、それだけをシオンは思う。
 実力が離れているとかそんな事では無い。シオン自身。タカトに負い目を感じているのだ――止めていいのか、迷っているのだ。
 自分達を取り戻す。そんな、優しいエゴの為に全てを無くして、全てを手放した、異母兄の事を。

「シオン〜〜〜〜」
「ん?」

 呼ばれる声にシオンは顔をあげる。考え事をしている間にピロティに着いていたらしい。そして、先客に声をかけられたのだ。
 シオンを呼んだのはスバルであった。ティアナも横に居て、エリオやキャロ、そして管制官兼ヘリパイロットのアルトもそこに居た。

「シオン、検査終わったの?」
「まぁな」
「そっか、結果は?」
「問題ナシ。……ま、あったらあったで問題だけどな」
「そりゃあ、ね」

 シオンの返答にティアナが苦笑する。そのままシオンは自販機の前に移動し、ドリンクを選ぶ。

「おしるこドリンク、おしるこドリンク、と」
「あんた、それ甘すぎない?」
「そっか?」
「そうよ。スバル、どう思う?」
「うーん、私は気分次第かな?」
「あ、私、大丈夫です」
「あー、流石に僕はちょっと」
「アルトさんは?」
「私もスバルと同じかな……?」

 ボタンを押し、カップが下に落ちる。おしるこドリンクがカップに入る間にシオンはティアナに振り返った。

「ほうれ見ろ。結構好評じゃんか」
「なんっか、納得いかない」

 憮然とするティアナにはっはっはとシオンは笑う。
 おしるこドリンクが入り終わったカップを取り出すと、皆が座るテーブルについた。

「はぁー、甘くて上手い」
「でも意外だね? シオン、甘いの結構大丈夫なんだ?」

 ほのぼのとおしるこドリンクを飲むシオンに、スバルが意外だと聞いてくる。それに、シオンは、あーと苦笑した。

「なんっつうかだな。ぶっちゃけると、タカ兄ぃの影響だよ」
「あ、ごめん……」
「謝る事じゃねぇよ」

 即座に謝って来たスバルに、シオンは苦笑を強めて、そして続けた。

「あの人、ああ見えて家事好きでな? 特に料理やら菓子作りが大好きなんだよ」
『『……ゑ?』』

 シオンの言葉に一同目を見開く。何と言うか、あまりにも意外過ぎる答えであるからだ。皆の反応にシオンは苦笑しながら続ける。

「もう食事時とか、3時のおやつ時とかタカ兄ぃのオン・ステージだったぞ? ……よく、みもりやカスミやらがタカ兄ぃ謹製のおやつ食べてはショックに膝を着いてたっけな」

 懐かしそうにシオンは昔に思いを馳せる。母、アサギでさえも屈服させ、数々の料理やら菓子作り対決を制したタカトを。
 特にグノーシス時代の同僚、黒鋼ヤイバとの菓子対決は歓声と悲鳴を上げさせた程だ。
 ……主に歓声はそのお味に、後者は翌日の体重計に乗ったグノーシス女性陣の悲鳴と言われる――いや、実際シオンはルシアとアサギ、お隣りさんのみもりの悲鳴を聞いているのだが。

「「じ〜〜〜〜」」
「ん? どしたよ、お前等?」

 ふと気付くとスバルとティアナがじーとシオンを見ていた。
 二人は全く同じタイミングで口を開く。

「「その二人、誰?」」
「へ? あ、ああ、みもりとカスミな。幼なじみ、だけど?」

 やたらとプレッシャーを感じてシオンはのけ反りながら答える。
 二人は『幼なじみ、ねぇ』だとか、『シオンだしなー』とか、呟いていた。
 いきなり非っ常に居心地が悪くなってしまいシオンの頬に汗が一筋流れる。

「……何なんだ」
「「別に」」

 二人はプイと顔を背ける。そんな二人に、こんな所まで息が合わなくてもいいだろうよ、とシオンは嘆息した。

「ま、まぁ、そういう理由でだな。甘いの、結構好きなんだよ。俺」
「へー、そうなんだ」
「そんなに美味しいなら一度食べてみたいね、エリオ君」
「うん、そうだね」
「……そうだな」

 一度、食べてみたい。キャロの言葉にシオンは苦笑する――苦笑しながら必死に隠した。
 もう一度、食べたい。そう思ってしまったから。
 迷いが深くなる。それを自覚した。

「……シオン」
「ん? どした?」

 先程から顔を背けていたスバルから声が来た。それにシオンは視線を向けて、同時に驚いた。
 スバルはシオンの顔を心配そうに見ていたから。気付けばティアナも同様の顔を自分に向けている。

「どうしたんだ? 二人共」
「うん、えっと、その、シオン……」

 シオンの言葉を受けて、スバルがあたふたとする。どうにも上手く言葉に出来ないらしい。
 そんなスバルにティアナがハァっと嘆息。そのままシオンをきろりと睨んだ。

「あんた、また何抱えこんでんのよ」
「……何の事だ?」

 ティアナの言葉にギクリとなる。しかし、必死に抑え込んだ。何の事か分からないと言いごまかす……だが。

「シオン、……あの時みたいな顔になってるよ……?」
「――」

 スバルの言葉に目を見開き、シオンは絶句した。ティアナは相変わらずの視線のままだ。
 エリオやキャロ、アルトは何の事か分からない事もあり不思議そうな顔のままだが。
 シオンはそんな二人に敵わないと思い、苦笑した。

「……俺、そんなに顔に出やすいか?」
「さぁ、ね」

 ティアナが曖昧に答える。スバルは珍しく苦笑していた。シオンもやれやれと息を一つ吐く。

「ちょっと、迷ってる」
「何を?」
「タカ兄ぃを止めていいもんか、どうか」

 その言葉に一同、目を見開く。シオンは椅子にもたれ掛かり、天井を見上げた。
 そんなシオンにティアナは睨むように視線をきつくする。

「……あの時は止めるって言ってたじゃない」
「ああ、今でもその気持ちは変わらねぇよ。タカ兄ぃがやろうとしてんのは最悪だ。……今の世界を否定して、消して、二年前に戻そうってしてんだからな。止めなきゃならない――理屈じゃ、分かってんだよ」

 だけど、と続ける。苦笑が強まったのを自覚した。

「でも、それを。タカ兄ぃがああなった原因の俺が止める権利なんてあるのかな、とも思うんだよ」
「それは――」
「違うよ、シオン」

 突如としてスバルから声が来た。真っ直ぐにシオンに視線向け、射抜く。

「それ、違うと思う」
「……何でた?」

 スバルの答えにシオンが問い直す。苦笑は消えていた。スバルは頷くと、そのまま答える。

「シオン。それは、ただ逃げてるだけだよ」
「スバルさん!?」
「…………」

 流石にエリオが声をあげる。しかし、スバルは構わない。シオンもまた沈黙を保ったままだ

「止める権利だとか、そんなの関係ないよ。大事なのは止めたいと思うかかどうかだけだと思う。シオンはどうしたいの?」
「…………」

 シオンはその言葉に黙り込む。
 そう、その通りだ。
 どんなに言葉を重ねても、どんなに理由を、言い訳を重ねても、結局の所はそれが全て。
 この迷いすらも、ただの甘えに過ぎない。
 シオンはスバルを見据え、口を開く――。

《呼び出しです。セイヴァー、神庭シオン嘱託魔導師。スターズ3、スバル・ナカジマ一等陸士。スターズ4、ティアナ・ランスター執務官補佐。アースラ艦長オフィスに集合して下さい。繰り返します――》

 直前に、局内放送が響いた。間を外された形となったシオンは苦笑し、立ち上がる。

「呼び出しだ。行こうぜ」
「あ、と。うん」
「そうね」

 二人は若干迷いつつも頷く。シオンは苦笑して、二人の頭に手を乗せた。

「ありがとよ……ちょっと、気分がスッとした」

 そしてと呟く。そのままシオンは笑った。

「俺はタカ兄ぃを止めたい。これが全てで、それでいいんだよな」
「シオン……」
「ほれ、行こうぜ。ああ、エリオ、キャロ、クラエッタ。悪ぃな。なんか場、暗くして」
「あ、いえ……」
「そんな。気にしないで下さい」
「そうだよ。それにいろいろ聞けたし」
「そっか、ありがとう」

 微笑み、礼を言いながらシオンは二人から手を放すと、歩き出した。

「スバル、ティアナ、置いてくぞー」
「あ、と!」
「て、こら! 一人で行かないで待ちなさい!」
「だから待ってるだろうがよ……」

 シオンの言葉に我に帰り、スバルとティアナもシオンの元に駆けた。そして、慌ただしく三人はアースラに向かったのだった。

 
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