魔法少女 リリカルなのは StS,EXU
□第二十八話「少年の願い、青年の決意」(後編)
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−ここが終点さ−
暫く歩き、アンラマンユが立ち止まる。
そこにはただ一本の刀が地面に突き立っていた。古ぼけた、刀が。だが。
「終点って……」
「シオン、どこにもいないじゃない」
呆然と二人共辺りを見渡す。だが、シオンの姿は影も形も無かった。
−ふ、ククク、ははは、カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!−
その言葉を聞いた途端、アンラマンユは突如として大笑いし始めた。何がそんなに愉しいと言うのか。
−いやぁ、兄弟。お前はとことん不幸だなぁ。あの二人に気付いて貰え無いらしいぜ−
「「……え?」」
その言葉に憮然となっていた二人が目を丸くする。その言い方ではまるで――。
−此処に居るぜ。兄弟は−
そのアンラマンユの言葉に二人は絶句する事となった。何故、自分達には見えずにアレには見えるのか。
−解らないかなぁ? 存外鈍い。じゃあ大ヒント。もし、お前達が兄弟の立場なら、お前達に兄弟が会いたがると思うか?−
「「――――っ!」」
その言葉に、否応なしに二人は理解させられた。シオン自身が拒否しているのだ、二人に会う事を。
「……シオン」
スバルがぽつりと呟き、辺りを見渡す。それでもシオンの姿は何処にも見当たらなかった。
そしてティアナはアンラマンユを睨みつける。
「一つだけ聞きたい事があるわ」
−いいぜ? 何でも答えてやるよ−
ティアナのきつい視線を愉しそうに見遣りながらアンラマンユは首肯する。それに少し顔を歪めながらも、ティアナは口を開いた。
「あんた、さっきからやけに協力的だけど、それはなんで?」
そう、アンラマンユは先程からやけに協力的なのだ。
シオンの過去を見せたり、シオンの元に案内したり、果てはシオンが自分達に見えない原因までもを教える。
ここまでくれば嫌でも疑うと言うものだろう。だが、アンラマンユはティアナの疑問にただ笑った。
−そんなの決まってるだろう? その方が兄弟が感情を得るからさ−
「感、情……?」
スバルが訝しみながら聞き直す。アンラマンユは笑いを止めない。
−ああ。お前達が兄弟に近付けば近付く程、その過去や真実を暴く程、兄弟は絶望を味わう。悲しむ。気付いてないのか? お前達は、今−
−兄弟の傷を晒そうとしてるんだぜ?−
「「――っ!」」
その言葉に、スバル、ティアナは、自分達がどれ程の事をしているのかを漸く理解した。
勝手に人の過去を見て、勝手に人のココロに踏み込む。それは、どう言い訳しようと、プライベートを侵す行為だ。
二人は何故、アンラマンユがこうも協力するのかを理解した。
こいつは喰らっているのだ。自分達が、シオンのココロに近付くにつれ、おこるシオンの負の感情を。
二人共、唇を噛み締めて俯く。自分達の行為が酷く恥ずかしいものに思えて、醜い事をしているように思えて。……だが。
−ん? やれやれ、やり過ぎたか−
いきなりアンラマンユがそんな事を言い出した。
それに疑問符を浮かべて、スバル、ティアナは顔を上げ、そして同時に目を見開いた。二人の視線の先、そこには。
「シオン……」
虚な目で、体育座りをしたまま呆けるシオンが居た。