魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十九話「約束は、儚く散って」(後編1)
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 なのはに宣告が届く、数分前の軌道拘置所。そこで、すすり泣きが響く。
 指を押さえてしくしく泣くのは当然と言うべきか、最近イジメられっ子にクラスチェンジしたクアットロであった。

「う、うぅ……」
「泣くな。指が反対向いたぐらいで」
「いや十分泣くだろ、それは」

 やれやれと嘆息するタカトに、すかさずトーレがツッコミを裏手で入れるが、当然ながら彼に気にした様子は無い。ツッコミとクアットロに構わず、タカトは扉に視線を移した。
 そこでは、未だに爆音――つまりは戦闘音が鳴り響いていた。心無しか、こちらに近付いているような気すらする。
 普通なら、ここで次元転移を行う所だ。元より戦闘を行っていた所で関係無い。管理局局員を助ける義理も無ければ、襲撃者を助ける義理も無い。むしろこの期に乗じて、さっさと逃げ出すべきである。……その筈、だったのだが。

「……例によって次元封鎖か。鬱陶しい事だ」

 忌ま忌まし気に嘆息しながら、そう言う。今、この軌道拘置所内は次元封鎖されていたのであった。なのはとナルガに逃げ込んだ時と同じ状況である。彼等がここに来た直後に次元封鎖を敷かれたのだ。自分が殊更幸運に見放されているのはいつもの事ではあるが。

 ……こうも毎度だといい加減飽き飽きだな。

 タカトはそう思いながら嘆息した。やり方からすると、ストラの連中か。何にしても次元封鎖を解く必要がある。次元封鎖を直接破壊するのもありと言えばありなのだが、余波等を考えると、中の連中がどうなるか解ったものではない。なら、どうするのかと言うと。

「やはり、こうするのが一番か」
「ああ、やっぱりそうなるのですね……」

 扉に近付くタカトを見て、ウーノが盛大にため息を吐いた。次元封鎖を破壊は却下、しかし次元封鎖を解かない限りは次元転移は出来ない。そうなると、残る手段は一つだけであった。つまりは襲撃して来たストラの連中を叩き潰す事。

    −撃!−

 ウーノの監獄内と同じように、しかし中から叩き込まれるタカトの蹴撃。それは、当然の如く扉を真ん中からへし折り盛大に空を舞って飛んで行った。タカトはそれを眺めながら、監獄から出て行く。

「貴様達はここに居ろ。武装も何も無い奴らが居た所で足手まといだ」
「……了解だ」
「はい」

 ここに居る中でタカト以外で戦闘が出来る者。つまりは、トーレとセッテが頷く。彼女達も理解しているのだろう。現状では、自分達が戦える状態では無い事を。それを確認して、タカトは視線を元に戻し――その足が止まった。

「……? 伊織?」
「どうかしたのですか?」
 
 突如として止まったタカトに、ウーノとトーレが怪訝そうな顔となり尋ねる。だが、それにタカトは答えなかった。変わりに、感情が失せた瞳で前を見る。
 そこには、地獄が広がっていた。




 世にそれを、屍山血河と呼ぶ。目の前の光景は、そう呼ぶのに何ら違和感が無かった。おそらくは、管理局局員”だったのだろう”死体が山とそこかしこにある。彼等から流れる血が周囲に溢れ返っていた。
 よくよく見ると殺害されているのは局員だけでは無い。おそらく、ここに拘留されていたとおぼしき者達も例外なく殺されていた。
 その光景に、タカトはふと自分が懐かしい気分になっている事を自覚する。この光景には、覚えがあった。
 彼が、ずっと居た所――地獄。あそこもまた、こんな場所であった。
 違うのは、あそこは人、化け物、問わずに死体があったのに比べ、こちらは人間の死体しか無いくらい。周りが死に包まれていると言う点については何ら変わりが無い。
 だからか、タカトは全く躊躇せずに前に歩き出した。ちゃぷっと流れる血で出来た水溜まりを踏み超える。当然、足が血で汚れるが一切構わない。そのまま数歩、前へと進み――直後。

    −轟!−

 空気が渦を巻いてうねりを上げた。それは衝撃波と化し辺りを蹂躙する。
 衝撃波は、空気をぶち貫いた事によって生じたものであった。つまりソニック・ブーム。
 衝撃波は周りに散乱する死体を打ち、当然タカトにも襲い掛かる。だが、タカトは向かい来る衝撃波に対して拳の一打で応えて見せた。

    −撃!−

 渦を巻いた衝撃波が、一撃で潰される。周囲を蹂躙していた衝撃波も例外無く吹き飛ばされた。そうして、ようやく風が止むと、”彼等”が、そこに立っていた。
 最初に目を引くのは、顔をすっぽり覆った仮面だろう。やたらと細長く白い仮面が、彼等の顔を隠している。唯一、口元のみ隠れてはいない。
 その口は誰も彼もが嘲るような、不敵な笑みを浮かべている。そして下も、また特異なものだった。全身を覆うボディスーツ――タカトは知らない事だったが、それはかのナンバーズ達の、かつての装束にも似ていた。そして。

「なん、だと……?」

 後ろから、声が来る。監獄の中に居る筈のトーレだ。彼女は大きく目を見開き、彼等の両手足を呆然と見つめていた。そこに展開している、虫の羽を思わせる光の刃を。
 インパルス・ブレード。それは、彼女の固有武装ではなかったか?
 それを、その場に居る全員、計六人の人間”全員が”展開していた。
 それに、先のソニックブームを起こした現象もトーレには見覚えがある。と言うよりは、”身に覚え”があると言うべきか。それは、彼女のISで起きる現象であったから。
 亜音速機動を可能とするIS、ライド・インパルス。今、それを全員が使って見せたのだ。トーレならず、彼女と共に居る元ナンバーズ全員が驚愕と混乱に陥る中、一人だけ全く動揺せずタカトだけは事態を把握していた。
 第二世代戦闘機人。”量産型”の戦闘機人であるならば、同じようなスキルを有していた所で不思議でも何でも無い。つまり、彼等は。

「ツァラ・トゥ・ストラ。第二世代戦闘機人、特殊部隊『ドッペルシュナイデ』参上。――伊織タカト、我々と共に来て貰おうか」

 そう彼等は名乗り、しかしタカトは相変わらずの無表情でそれを聞いていたのだった。

 
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