魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十九話「約束は、儚く散って」(中編2)
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 次元転移が完了する。暗い、軌道拘置所内の監獄内に。それは先と同じ部屋であり、しかし別の部屋であった。違う無人世界にある軌道拘置所なのだから当たり前なのだが。
 そんな事を思いながら、タカトは今度こそは驚かず前を見る。そこには眼鏡をかけたおさげの少女が居た。
 こちらをぽかんと見ている彼女を見て、俺もこんな間抜けな顔をしていたのかと、自己嫌悪に陥りかけた所で、ウーノが呼び掛け。

「クアットロ、久しぶりね」
「ウーノ姉様!? それに、トーレ姉様に、セッテまで……! どうしてここに?」

 クアットロが反応し、猛烈な勢いでこちらに詰め寄った……タカトを見事に無視して。
 ちらりとウーノはタカトを見て、口端を引き攣らせつつ宥めるように手を上げた。

「ええ、Drが私達を必要としているのよ。彼の目的にDrが協力するためらしいのだけど――」

 そこまで言うと、ウーノはちらりと再びタカトへと視線を向ける。追従する形で、クアットロもタカトに目を向けた。……胡散臭いものを見るような目を。
 タカトはと言うと、何故かクアットロの方では無く、直接転移したために閉まりっぱなしの扉を注視していたが。

「彼は――」
「あ〜〜ら。あなたが私達を助けて下さったんですか〜〜? ありがとうございます〜〜♪」

 説明しようとするウーノを遮るようにして、クアットロがタカトへと話し掛ける。その声には、あからさまなまでの嘲りが込められていた。更に。

「けど、調子に乗らないで下さいね〜〜? 私達にあんまり大きな顔すると、プチッと潰しますんで〜〜♪」
「く、クアットロ!」

 さすがに毒舌が過ぎると、トーレが口を挟む。しかしクアットロは変わらず不敵な笑いでタカトを見て。漸くタカトが扉から目を離し、クアットロへと視線を向けた。

「ほぅ? プチッと潰されてしまうのか。それは気をつけねばな?」
「でしょう? だから――」
「なら、お前は俺に再び頚椎をプチッと潰されんように気をつけるのだな」

 へ? と、その言葉にクアットロの顔から笑いが消える。タカトの言葉に何かを思い出したか。固まってしまった彼女に、つつっとウーノが近付いた。耳元に口を寄せる。

「ほら、貴女、覚えてるでしょう? 五年前に研究所を襲撃して来た――」
「あ、ああ、ああ!?」
「はじめまして、では無いのだな。伊織タカトだ」

 ウーノの言葉に、クアットロの目が大きく見開かれ、口から悲鳴が零れる。それに気付いてか、気付いていないのか――気付いているに決まってはいるのだが、何にしろタカトは彼女の間近まで顔を寄せて。

「よろしく」

 そう、静かに告げた。直後!

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいい――――――――!!!!」
「ぬおっ!?」

 いきなりクアットロからとんでも無い奇声が上がる! その声量、タカトが驚きの声を上げたほどだ。どれほどの奇声だと言うのか。
 クアットロは構わず奇声を上げながらベッドに頭から突っ込むと、そこで頭に枕を乗っけてガタガタ震え出した。当然、奇声は上げ続けながら。
 タカトは汗ジトになりながらも、声を掛けてみる。

「……おい?」
「うひぃいいいいぃいいいいい――――――――!」
「……ちょっと?」
「きょえぇえええええええええええええ――――――――!」
「……あの、だな」
「ぎぃいぃいいいいいいいいいいいいい――――――――!」

 声を一つ掛ける度に、奇声がパワーアップして返って来た。……さすがにタカトは珍しくも途方に暮れた、凄まじく困った顔となり、ウーノとトーレの方を向く。彼女達は、そんなタカトにため息を吐いて見せた。

「……つまりは、こう言う事なんだ、伊織」
「いや、全く訳分からんぞ……?」
「ようはトラウマです」

 簡潔にウーノが答えを告げる。再びクアットロへと三人は目を向けた。

「どうも、あんな風に殺されたのははじめてだったので、変にトラウマを抱えてしまったらしくて。蘇生した後、暫くはこんな感じで」
「…………」
「やはり、伊織と認識するとこうなるのだな」

 ウーノの説明に、口端をひくりと引き攣らせたタカトへ、トーレが締めを告げる。暫く監獄内に奇声が響き、そのままと言う訳にも行かず、タカトはクアットロへと近付いた。

「まぁ落ち着け、クアットロとやら。あの時は問答無用に殺してすまなんだ」
「ぎ、ぎぃいい……?」
「そう。俺達は人間だ。分かり合えるはずだ」

 むしろ人間外に使う言葉じゃないか? と言うような言葉を吐き、タカトがクアットロに手を差し出す。それに光明を見出だしたようにクアットロは震える手を伸ばして――ぐわしっと、その手をタカトが掴んだ。

「と言う訳だから、いい加減、その悲鳴を止めんと今度は首を捩切るぞ?」
「うぎょろもぽぇえええええええええぇええええええ――――――――!」
「「ちょ――!?」」

 いきなりとんでも無い事をのたもうたタカトに、クアットロが最大級の奇声を上げる。それを見て、流石にウーノとトーレが驚きの声を上げた……セッテだけは無表情であったが。
 む? と首を傾げたタカトに二人が詰め寄る。

「何をしているんだお前は!?」
「いや、何と言われてもだな。こう、先のやり取りから見ても嘗められんように締める所は締めておこうと」
「だからと言って、あの台詞は無いでしょう!?」
「むぅ……」

 二人がかりで怒涛の勢いで責められて、タカトも流石にやり過ぎたと感じたか。二人の怒鳴り声に呻き声だけをもらす。その間にも、クアットロが人外の奇声を上げ続けてはいたが。
 何しろこのままではまずい。タカトは再び、クアットロの元へ向かうと、声を掛け――。

「……おい」
「きょえぇふもぐにゅくるげゃぁあぁああああああ――――――!」
「…………」

 ――奇声を上げ続けるクアットロの首に無言で腕を回し、こきゅっと捻った。奇声が止まる、と同時にクアットロがベッドに沈んだ。一同、唖然とする中でタカトは額の汗を拭う仕種をして。

「よし。これで静かになったな」
「「こらこらこらこら!」」

 いい仕事をしたとばかりに爽やかな笑みを浮かべやがるタカトに、またもや揃ってウーノとトーレがツッコミを入れる。いきなり何をしだすのか。
 そんな二人のツッコミに、しかしタカトは構わずにあさっての方を向いた。

「静かになった……それでいいじゃないか。俺は何も悪くない。そう、悪いのは世間だ」
「貴方、どこの厨二病患者ですか!? 世間関係ありませんし!」
「どこからどう考えても悪いのはお前だろう!?」
「と言うかウーノ、お前の口からその単語が出た事が俺は驚きなんだが……」
「「話しを誤魔化すな!」」

 ついには命令口調で言われてしまう。タカトは視線を外したままで。そこから数分程、再び責められて、漸く観念したように両手を上げた。

「分かった分かった。次からは、もう少し大人し目の対応を心掛ける」
「……殴ったり、窒息させたりもダメですからね?」
「顎を踏み砕くのは?」
「「論外です!/だ!」」

 どこまでもひど過ぎるタカトに、ウーノとトーレはツッコミを斉唱させ、再びため息を吐いた。
 なお、つい数時間前に元六課――つまりは現アースラ隊長陣が彼に全く似た感じでツッコミを入れていたのだが。そんな事は流石に知る由も無かった。
 ちなみに、ぴくぴくと痙攣しているクアットロをセッテが無表情で介抱していたりする。なんにしろ、彼女達は息を吐き切るとタカトを冷たく見据えた。

「ほんとに……何でこんなにクアットロだけ対応が酷いのですか?」
「む?」
「確かに。そもそも研究所襲撃の段階でクアットロのみ殺されているしな」

 ウーノの問いに首を傾げる。そんなタカトに、トーレも思い出したように呟いた。……確かに、どうもクアットロのみ酷い目に合わせているような気がする。これは、果してどう言う事なのか。
 首を傾げていたタカト自身も、不思議そうな顔となった。

「ふーむ。何故か気付いたら、ああ言った真似をしているのだがな……こう、顔を見ているだけでイライラすると言うか」
「どう言う理屈だ。どう言う……」

 完璧に虐めっ子の理屈である。呆れたような顔となる彼女達に、自分でも分かっていないのか、タカトは首を捻り続けた。
 ……なお、この疑問が解消された時、またもやクアットロに災難が降り懸かる事となるのだが――それはまた、別の話しである。
 とりあえずそのままと言う訳にもいかず、まずはクアットロを起こそうとして。

    −爆!−

 唐突な爆音が監獄に響き渡る! ウーノもトーレも、セッテすらもがぎょっと身構える中で、唯一タカトは構わず、クアットロに気付けを施していた。

「……まさか、向こうに察知されたか?」
「違うだろう。これは戦闘音だ」

 タカトが口を挟み、一同、は? とタカトを見る。だが、彼は構わずクアットロの中指を一つ手に取った。ゆっくりと反対側に反らしていき。

「襲撃だ。俺達とは別口のな」

 直後、一気に反対側に中指を折り畳んで、本日何度目かのクアットロの悲鳴が響き渡った。

 
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