魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十九話「約束は、儚く散って」(中編1)
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    −轟!−

 風が鳴る。音を引き裂き、空気をぶち抜いて、風が。

 −弾!弾!弾!弾!弾!−

 その風に撃ち込まれる幾千、幾万の光射。尾を引き、それは風に疾走。しかし風は一切構わず、むしろ光射に向かい駆け出した。直後、風が消えた。そして。

 −撃・撃・撃・撃・撃−

    −撃!−

 人が空に舞った。光射を放っていた者達が。まるで人形のように脱力したまま、冗談のようにくるりくるりと回転して、やがて地に落ちる。
 落ちた後も、彼らは身動き一つしなかった。一瞬にして意識を刈り取られたのだ。見れば、彼らは誰も彼も顎骨や頬骨といった箇所を陥没させられてしまっている。
 よく見れば彼らは、それぞれ似通ったバリアジャケットを展開していた。管理局、武装隊の基本仕様のそれを。
 やがて、風は――否、風では無い。”彼”は、全てを睥睨して、姿を現した。
 ナンバー・オブ・ザ・ビースト、伊織タカトは。
 武装隊の面々を叩きのめした彼は、悠々と戦場となった場所を見て。

「……どうして、魔法を使わなかったんです?」

 そんな声を背後から聞いた。振り向くと、そこには冷たい眼差しの女性が居る。元ナンバーズの一人、ウーノが。
 彼女は昏倒させられた武装隊の人間を、踏まないように気をつけながら歩いて来た。続きを問う。

「貴方なら魔法を使えば、一瞬で終わった筈。何故、そうしなかったんですか?」

 そう言う彼女の足元には、タカトにぶん殴られて沈黙している彼らが居る。それを見もせずに、タカトは肩を竦めた。

「何、つまらん理由だ。水迅が便利だからと、そちらばかり使っていては技も錆びるのでな。言わば修練だ。こいつらはそれに打ってつけだ」

 あっさりとそう答えると、タカトは再び前を向いて歩き出した。ウーノも慌てずに着いて行く。

「それで? 貴様にはここに居るナンバーズの居場所を探って貰っていた筈だが?」
「はい。既に見つけています。ここに居るのはセッテ……貴方とは初顔となりますね」
「と言うより他の連中は俺の事を知らんだろう? 貴様以外に話した奴はいない」

 タカトに言われ、そう言えばとウーノも気付く。最初のインパクトがインパクトだっただけに、あの時研究所に居た妹達もタカトの事を知ってると思い込んでしまっていたのだ。カメラも破壊されていた為に一切の記録も残せていないので、実質、タカトの顔を知っているのはトーレと自分、そしてジェイル・スカリエッティ当人しか居ない。

「すると、ほとんどの妹達は貴方の顔も知らないのですね」
「その妹とやらは銀髪に眼帯をしている、あの幼女も入るのか? あれならば見たぞ」
「……なんですって?」

 思わぬ言葉にウーノは目を見開いてタカトを見る。それに振り向きもせず、タカトは歩きながら続ける。

「あれならば、何度か顔を合わせたと言った。敵対者としてだがな……共闘した事も一度だけあるか」
「待って下さい。そう言えば聞いてませんでしたが、貴方、今は何をしているのですか?」

 銀髪眼帯幼女ことチンクは、確か現在、時空管理局に所属している筈である。彼女だけでなく、ナンバーズの大半は管理局所属となっていた。
 そもそも管理局の軌道拘置所を襲撃して自分達を脱獄させて回っている段階で気付けと言う話しではある。彼は、ひょっとして。

「……時空管理局と敵対しているのですか?」
「違うな」

 神妙にウーノは聞いて、しかしタカトはあっさりと否定した。あまりの即答ぶりに、言葉に詰まってしまった程である。なら何故かをウーノは聞こうとして。

「敵対しているのは時空管理局だけじゃない。……そうだな。現在、管理局本局を占拠し、管理局と敵対しているツァラ・トゥ・ストラ。そして、俺の元所属していた組織、グノーシス。それら全てと現在敵対中だ」
「…………」

 告げられた言葉に問いも忘れて、完全に絶句させられてしまった。
 敵対者は管理局だけではない?
 それだけでも驚きなのに、どれだけの組織と敵対していると言うのか。
 固まってしまったウーノに、タカトは振り向くと。

「俺は今、世界全部に喧嘩を売っている。世界全てが敵と言う訳だな。どうだ? やり甲斐があるだろう?」

 そう言って、にやりと笑って見せたのだった。




「ここか?」
「はい、間違いありません」

 あれから数分後、タカトとウーノは一つの牢獄の前に居た。相変わらずの特殊合金製の扉が堅く閉ざされている。それを見てタカトはふむと頷き。

「さて、では蹴破るか」
「そんな真似はいりません。私が今からロックを解除します」
「……そうか」

 自分がやられたような真似を流石に妹にされるのは嫌と感じたか、きっぱりとウーノが言うなり前に出る。タカトは若干いじけながらも場所を譲った。
 そんな彼には目もくれず、ウーノは自分が拘留されていた軌道拘置所の所長からくすねて来た(正確には、タカトがくすねた)端末機を操作し始めた。僅か数秒で、この軌道拘置所内のシステムにハッキング完了。続けて、ロックの解除に取り掛かる。
 IS:不可触の秘書(フローレス・セクレタリー)。
 自分や自分のいる施設をレーダー等の探知から隠す『ステルス能力』と、知能の加速による『情報処理・統括力の向上』。この二つの能力を総称したものが、彼女のISであった。
 特に情報処理を専門とするこのISからしてみれば、施設のハッキングなど容易い事でしかない。
 僅か数秒で牢獄のシステムを完全に掌握。あれ程堅く閉ざされていた牢獄の扉が、あっさりと開いていく。

「便利なものだ」
「そんな事はありません。私の能力(ちから)は戦闘能力がありませんから……セッテ!」

 感心したようなタカトに、ウーノは謙遜しながら牢獄内に入り目当ての人物に呼びかける。

「ウーノ……? どうしてここに? それに後ろの方は誰でしょうか?」
「それも説明します。彼は――」
「伊織タカト。ジェイル・スカリエッティの友人だ。あれには俺の目的に付き合って貰っている。で、ジェイルが貴様達を必要としているので俺が呼びに来た訳だ。理解したか? ならば、共に来い」
「了解しました」
「伊織タカ――て、え?」

 セッテが問いに答える間も無く、なんとタカトとセッテは既に同行の決を取っていた。唖然とするウーノを余所に、セッテは立ち上がるとタカトは彼女の手首に目をやり。

    −撃!−

 目に止まらぬ速度で貫手を放ち、拘束具のみを破壊してのけた。セッテは自由になった手を確かめるようにぐるりと回して、すぐに直立不動となる。

「では、これからどうするのでしょうか? 伊織タカト様」
「タカトで構わん。ウーノ、貴様もそれで頼む。セッテとか言ったな? お前を解放した通り、他のナンバーズも解放中だ。後二人と言った所だが――ウーノ?」
「……貴方達、テンポが早過ぎです」
「「……?」」

 まだ二人が顔を合わせてから何と一分も経っていないのに、既に次の軌道拘置所に行く事になってしまっている。
 ため息を吐くウーノを、タカトとセッテは不思議そうに見た。彼女は諦めたように頭(かぶり)を振り、端末機を操作する。

「次の軌道拘置所はここです。次元座標は――」

 そう言って端末機に映した次の軌道拘所がある無人世界の次元座標をウーノはタカトに示す。タカトは頷くと、その足元に八角形を模した魔法陣が展開した。
 次元転移魔法である。魔法陣はそのまま広がり、セッテとウーノの足元にまで広がった。

「では、跳躍(と)ぶぞ。さて、次はどう戦うか」
「いえ、次からは戦う必要もありません」
「何……?」

 最後の部分をウーノに否定され、思わずタカトは彼女に振り向く。すると彼女は――恐ろしく珍しい事にだが、なんと、悪戯めいた微笑を浮かべていた。気になり、タカトは問う。

「どう言う事だ?」
「百聞は一見にしかず。実際見た方が早いでしょう」

 ……どうやら話す気は一切無いらしい。セッテの方をちらりと見ると、彼女は彼女で無表情にこちらをじーと見ているだけだった。タカトはため息を吐き。

「……了解した。では、行くとしよう」

 そう言うと次元転移魔法を発動。彼等の姿はゆっくりと光の粒子に包まれるようにして消えていった。

 
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