魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十九話「約束は、儚く散って」(前編2)
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「よっ、と」

 剣魔でエレベーターから抜け出し、一気に虫達を突破したシオンは剣魔を解除。飛行魔法を発動して、空へと飛び上がった。
 その頭上ではやはりと言うべきか、視界いっぱいに虫達が飛んでいる。
 それらが、飛び上がって来たシオンへと顔(?)を巡らし、即座に飛んで来た。
 だが、それを見てシオンは短く舌打ちする。”こちらに来た数が少ない”。
 ティアナの作戦を完了する為には、虫達全てを引き付けなければならない。それなのに、自分の元に来た虫は約半数程。後の半分はシオンを無視して降下していたのだ。そこにいる先には――。

「させるかボケっ! 剣牙ァ!」

    −閃!−

 虫達の行く先を察知して、シオンが振り向きざまに放つは弐ノ太刀、剣牙。放射状に放たれた魔力斬撃は、虫達を複数体飲み込んで破壊する。
 虫達の総数から言えばほんの僅かな数。だが、こちらに注意を向けさせる事は出来た。
 案の定、降下していた虫達もこちらに向かって来る。シオンはほくそ笑もうとして――しかし、直ぐさま悪寒が襲って来た。また正面に振り向くが、それが間に合わない事を察っする。
 そう、元々シオンに向かって来ていた虫が居た筈だ。当然、その虫の到達速度は、後でこちらに来た虫より早い。
 シオンが剣牙を放っている間に接近を終わらせていたとしたら。

 後は、攻撃するだけか!

    −閃−

 そんなシオンの想像を肯定するように、彼へと放たれる毒針。回避は間に合わない。

「ちぃっ!」

    −壁!−

 鋭く舌打ちしながら、シオンは右手を開いて背中に突き出す。展開するのは、カラバの魔法陣、シールドだ。回避が不可能ならば防御するしかない。
 しかし、シオンはシールドを展開しながら顔を歪める。何故か? その理由はすぐに来た。
 シールドに撃ち放たれた毒針が接触する。本来なら楽に防げる筈の毒針。弾かれて、落ちるのが普通だろう。だが、それは違った。
 シールドへと毒針が接触するなり、それを”中和”していく。そのまま毒針はこちらに押し進んで来た。魔力結合を解いて、シールドを強制的に通り抜けようとしているのだ。
 AMF。それも針に、仕込まれていたのである。
 ある意味、シオンの単一固有技能『神空零無』に使用方法が似ている。あれもまた、敵の防御を無効とするスキルであったから。シオンは顔を歪めたまま、こちらに進んで来る毒針を見据え、突如、シールドを解除した。
 そんな真似をすれば、防ぐ物が無くなった毒針はシオンへと殺到する。当然、毒針も例外では無い。
 シオンへと再度進もうとして、その前に動いていた。シールドを解除した右手を刀の柄に添えて、ゆるりと円を描いて刀が振るわれる。そこから発生するのは、攻撃性の空間振動波、神覇四ノ太刀。

「裂波ァ!」

    −塵!−

 咆哮するシオンの叫びのように、破壊振動波は毒針に収束する。シオンに突き進んでいた無数の毒針は、波に晒されてあっさりと塵に還り、さらに振動波は突き進み、毒針を放った虫達の尽(ことごと)くを針と同じ末路へと辿らせた。
 それらを尻目に、シオンは振動波で開いた道を飛翔して駆け抜ける。向かい来る虫達、そのど真ん中。”最も危険な場所に”、シオンは自ら飛び込んで行った。




「シオン……」

 そんなシオンを地上を疾走しながら見上げて、スバルがぽつりと名前を呼んだ。
 ティアナの作戦の中で最も危険な役割、それを行っているシオンの名を。
 遮る物の無い戦闘空間たる空中戦では、彼しか万を超える虫達相手に空中で渡り合えないと言う判断から、ティアナがシオンにそれを任せたのである。シオン自身もあっさりと請け負ったのだが……。
 そんなシオンが、やはりスバルは心配だった。相変わらず、無茶を好む彼が。
 シオンがああ言った性格だとはよく知っているし、理解もしている。その無茶に助けられた事だって沢山あった。
 だけど、それでも、そんなシオンが、スバルは心配だった。無茶をして欲しく無かった。
 でも、状況はそれを許さなくて、彼の無茶に甘えるしかなくなってる。

 やだな……。

 強く、そう思う。シオンに無茶ばかりさせたく無い。けど、それをさせているのは自分達の力不足のせい。
 それが分かっているからこそ、なおさら嫌だった。

「スバル?」
「……っ、ギン姉? どうかした?」

 そんな風にシオンを見つめていると、隣で同じく走っているギンガから声を掛けられた。はっと我に返って、スバルが振り向く。そんなスバルに少しだけギンガは心配そうに眉を寄せた。

「あまり気にしない方がいいわ。シオン君はシオン君、スバルはスバルなんだから」
「え……?」
「シオン君、強くなっちゃったものね。けど、そのせいでまた無茶を押し付けてる……そう思ってたんでしょう?」

 ギンガの問い掛けに、スバルは目を大きく見開く。それは正しく今、スバルが考えていた事に他ならないから。ギンガは戸惑うスバルに微笑する。

「大丈夫。スバルは強くなれるわ……私達だって強くなる。その為にここまで来たんだから――それに、ちょっと悔しいし、ね?」
「あ……」

 そう言って、ウィンクしてくれたギンガにスバルは一瞬だけ呆然として、でもすぐにいつもの笑顔となった。

「うん! そうだね、そうだった。ここに強くなりに来たんだよね!」

 嬉しそうに笑うスバルにギンガは微笑み続けながら頷いてくれる。それを見て、スバルもまた頷いた。
 そう、強くなりに来たのだ、ここには。だったら。ううん、だからこそ。
 そう思い。スバルは再びシオンを見上げる。その先でシオンは、空を飛びながら虫を刀で両断していた。

 シオンの無茶に甘えない程に。
 シオンの無茶に頼らない程に。
 ”シオンに頼られる程に”!
 強く、なる!

 自分が強くなるべき理由を得て、スバルはぐっと拳を握った。
 今はまだ無理だけど。それでも、いつかそうなりたいと願って、だから!

「今は、ティアの作戦を成功させるよ……! 行こう! ギン姉!」
「ええ!」

 叫び、一気にマッハキャリバーの速度を加速させる。そんなスバルにギンガも頷いて、後ろに続いた。
 ティアナの作戦を完成させる為に、スバルとギンガは、自分が向かうべき場所へと駆け抜けて行った。
 決意を新たにした、スバル。しかし、彼女はすぐに知る事になる。
 その願いは軽々には決して叶わないと言う事を。それがとても難しい事を。
 彼女は知る事になるのだった。

 
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