魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十八話「旧友よ」(後編)
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 グノーシス、イギリスEU支部『学院』。その施設は首都ロンドンの郊外にひっそりとある。さほどロンドンから離れている訳でも無いのに、この辺りは比較的のどかであった。
 首都と言えど少し離れるだけでこのような風景が見られる。東京でも郊外に行けばわりと田舎があるものだ。
 おおざっぱにシオンはそんな風に思いながら『学院』内を歩く。先頭に立つ鉄納戸良子の膨れっ面に苦笑しながらではあったが。
 そんな彼女に、後ろでスバル達がおろおろしているのが手に取るように分かった。それにもシオンは苦笑を強める。
 先程、初対面の時に驚きの声を上げた事を良子が拗ねているのだ。スバル達はそれを気に病んでいるのだろう。
 しょうがねぇなぁと、シオンは胸中呟くと良子に追い付き、声を掛けた。

「……なぁ、ちび姉。ちっさい扱いされんのは前からだろ? スバル達は初対面だったんだし、いい加減許してやれよ」
「き、貴様……! 誰に一番怒ってると思ってるんだ!」

 執り成すように言った言葉に、良子はすぐに反応。こちらをキッと睨んだ。シオンは、おや? と首を傾げて。

「……ひょっとして、俺?」
「貴様以外の誰が居る!? ちび姉と呼ぶな!」
「だって、ちび姉はちび姉だし、前からそう呼んでただろ?」
「その度に訂正しろと言っただろう! 全くお前は――!」

 足を止めて、そのまま説教モードに移行。良子は、腕組みしてシオンに怒声を浴びせ掛ける。シオンは苦笑して、床に正座して聞く事にした――怒られている時に自分より視線が高いと良子が更に怒るからだ。
 そんな、懐かしい気持ちになりながら久しぶりに良子の説教を聞いているシオンを見て、スバル達はちょっと呆気に取られながら、やはり微苦笑しているみもりに尋ねる。

「ねぇねぇ、みもり。シオンってさ。何で良子ちゃ――……さんの事をあんな風に呼ぶの?」
「えっと、それはですね」

 危うくちゃん付けにしそうだったのを何とか堪え――以前、姉であるチンクにしてしまい、えらい怒られたからだ――堪えながら聞いたスバルの問いに、みもりは顎に手を当てて少し思案。しかし、すぐに頷くと説明を始めた。

「良子さんは、私達が小学生くらいの頃にお世話になった人なんです。……私と、シン君。ウィル君とカスミちゃんは皆、良子さんに遊んで貰ったんですよ」

 みもり達が小学生低学年くらいの頃、グノーシスが二分に分かれる争いが起きた。世に言う『グノーシス事件』である。
 これにより神庭家は殆どの人間が出て行き、みもりの父も表の混乱を押さえる為に家に帰れない日々が続いた。そんな彼等、彼女達の面倒を見たのが神庭アサギと個人的に友人であった鉄納戸家であり、その家の長女、良子であったのだ。
 ああ見えてシオンは良子には一切頭が上がらない。あるいは義理の姉、ルシア・ラージネスと同じくらいに、であった。
 そんな説明を聞きながら、ギンガがみもりの説明にちょっと頷く。

「成る程……シオン君って年上の女性に弱そうな気はしてたけど、やっぱりそうなのね」
『『……う……』』

 何となしに呟いた彼女の台詞に、一斉に唸る声が三人分上がる。今更とは言え、やっぱり口に出して言われるときっついものがあった。
 スバルは一つ年下、ティアナとみもりは同い年であったから。そんな一同に、漸く説教が終わったのか、シオンが立ち上がってこちらに近付いて来る。

「悪い悪い、足止まらせちまって……て、どした? スバルも、ティアナも、みもりも?」

 場の空気が微妙におかしな事に気付いたのか、シオンは首を傾げる。だが、それに三人は答えなかった。それぞれそっぽを向いたり微苦笑するだけ。シオンは眉を潜めた。

「……何だよ……?」
「別に何でも無いよ」
「別に何でも無いわ」
「別に何でも無いです」

 問うシオンに、それぞれ語尾だけ変えて、全く同じ事を言う。それにこそ何かあったろと、シオンは思うが、三人はやはり答えない。やがてギンガが苦笑しながら、シオンの肩を叩いた。

「シオン君……世の中気にしちゃ駄目な事があるの」
「はい?」
「今回は私が無用心な事言っちゃったのもあるけどね」
「いや、何の事言ってるんですかギンガさん……?」
「こら――! 何やってるんだ、早く来い!」

 ギンガの台詞も、やはり訳が分からずにシオンは頭に疑問符を浮かべまくり、そんな一同に良子が大きな声を上げた。シオン達は、慌てて彼女に続く。
 これより向かうは『学院』地下施設、その一つ一つが核弾頭並の危険物扱いとされる物が並ぶ場所。
 遺失物――つまり、ロストロギア封印施設であった。

 
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