魔法少女 リリカルなのは StS,EXV
□第四十六話「だから、さよなら」(後編)
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−轟!−
世界が割れる。アルトスが振り落としたカリバーンの一撃が、カムランの丘を粉砕したのだ。ただの一撃で!
粉砕された丘の一部たる岩盤や砂くれが、爆発したが如く空へと舞上がった。その岩盤と共に空へと飛ぶ人影がある。
神庭シオンだ。彼は顔を歪め、跳ね飛ばされながら戦慄していた。
今の一撃。辛うじてすんでで回避出来たものの、そうでなければ確実に斬られていた。
寸止めでも、非殺傷設定でも当然無い。確実に殺す為の一撃であった。そして、それを放ったのは。
【考え込む暇があるのか、余裕だな】
「っ――!?」
−斬−
声が聞こえたと思ったと同時に目の前の岩盤が静謐に断たれる。真ん中から両断された岩盤から、彼が飛び出て来た。
イクスカリバー……否、騎神アルトス・ペンドラゴンが。
膨大な魔力を噴出しながら、それを加速に用いて飛び掛かって来る。その速度は、即座に音速を超過。ソニック・ブームを撒き散らして、シオンに突っ込む!
「く……!」
シオンに出来たのは、横へと飛んで岩盤を乗り移り、その突撃を躱す事だけだった。
−撃!−
直後、シオンが先まで乗っていた十m超の岩盤が砕け散る! アルトスの突撃を受けてだ。それを見て、やはりシオンは一つだけ呻き、叫ぶ!
「イクス……! いい加減にしろ! 何考えてやがる!?」
【何を、か。今はただ一つ、いかに貴様を斬るかを考えている】
返事は即座に返って来た――後ろから!
いつ回り込んだのか、アルトスはシオンの真後ろに居た。そちらを振り向く事すら出来ずに、シオンは絶句する。だが、当然アルトスは構わなかった。
【付け加えると、もう一つ。今はどう貴様に刀を抜かせるかを考えている】
−斬!−
言葉が終わると同時に、カリバーンが振り放たれる。シオンは直感と悪寒に突き動かされて、前へと飛んでそれを躱した。
別の岩盤に乗り移りがてら、体勢を整え、アルトスに向き直る。彼はシオンの視線もどこ吹く風とばかりにカリバーンを振った。それだけで剣風が唸り、別の岩盤が両断される。
「……本気、なんだな……」
消え入るような、シオンの声。それは今の現実を否定して欲しいが為の声だった。だが、現実はどこまでも変わらない。彼の宣言も、また変わる事は無かった。
【先程からそう言っている……シオン、刀を抜け、三度目は無い】
「っ――――!」
ぎりっと歯が軋む音が鳴る。
なんで?
その問いは既に放った。でも、彼は答えてくれない。
なんで?
その問いはどこまでもシオンを苛む。でも、彼は応えてくれない。
なんで、なんだ……!
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――。
なんで!
いくつもの、なんで。でも、その全てを彼は口に出さなかった。
答えてくれない。それだけは分かったから。だから。
−ブレイド−
「……一つだけ約束しろ」
響くは鍵となす言葉。シオンが刀を抜く為の言葉である。同時に、シオンはアルトスへと告げる。
アルトスは変わらず冷たい目だけを向けて来た。
「俺が勝ったら、全部……全部だ! なんもかんもを、話せ!」
−オン−
キースペルが最後まで唱えられ、右手から刀の柄が生えた。それをアルトスは見て、一つだけ頷く。
【いいだろう。もし、勝てたら全てを話してやる】
それを聞きながらシオンは刀を掴むなり、一気に抜き放った。緩やかな孤を描いて、刀は剣先を彼に向ける。アルトスへと。彼もそれに合わせるように、カリバーンをシオンに向けた。
「……神庭、シオン」
【アルトス・ペンドラゴン】
名乗りを上げる。シオンは、彼の名前に顔を一瞬だけ歪めた。頭を一振り落として余計な思考を追い出す。
真っ直ぐに二人は視線を交錯させた。告げる――!
「推して……参る!」
【まかり通る】
宣戦を!
同時に二人は真っ向から突撃する。直後に彼等は正面に互いを捕らえた。
下段から放たれた刀と、上段から放たれた剣が激しく衝突!
−戟!−
確かな軋みを咆哮として、カムランの丘が悲鳴を上げた。師匠であった剣と、弟子であった主の戦いが始まる――。