魔法少女 リリカルなのは StS,EXV
□第四十六話「だから、さよなら」(中編)
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「……ひっく。シオン……。ううん、しおんちゃん動いたらダメだよ?」
あ―――――――っ!
響くは大音声の悲鳴。それが神庭家に断末魔の如く響く。その切ない悲鳴の主は神庭シオンであった……バインドで拘束された。
そんな切ない悲鳴に構わず、まずフェイトがシオンの顔に化粧を施し始めた。
「うーん……ひっく……もうちょっとナチュラルな方向のほう……ひっく……がシオン君――しおんちゃんには似合うんじゃないかな?」
次に動いたのはなのは。今度は薄くファンデーションを塗って行く。シオンの元々白い肌が、更に薄く、白くなっていった。
あ―――――――っ!
シオンは叫び続けているが、周りの女性陣は聞こえていないがごとく一切耳を貸さない。次は、はやてが動いた。
「しおんちゃんは肌キメ細かいなぁ……ひっく……なんや、腹立つなー。んじゃ、次は軽くアイシャドウを……」
あ―――――――っ!
シオンの悲鳴は途絶える事無く響く。それはまるで、純潔を散らされる乙女の声にも似て――。
「グロスも薄くがいいわね……ひっく……ほら、動くんじゃないわよ?」
あ―――――――っ!
次々と、シオンの顔に化粧を施していく。しかも本格的なものをだ。何が楽しいのか、皆一様に笑っていた……酔っ払っている証拠に。全員顔が赤い上、しゃっくりまで出ているが、気にしてはいけない。
ちなみに、シグナムとヴィータは化粧に参加せず後ろで見ていた。
「うーん。ここまで来たら髪にもこだわりたいですね……ひっく……ショート、セミロング、ロング。どれがいいですか?」
あ―――――――っ!
シャーリーが次々と取り出すかつらに、シオンの悲鳴が更に大きくなる。しかし、女性陣は全く構わず自分の意見を声高に叫んだ。
「ロング!」
「セミロング!」
「ロング!」
「ロング!」
「セミロング!」
「ショート!」
「セミロング!」
「ロング!」
「……うーん。取り敢えず、全部試してみましょう!」
にこにこ顔でそんな事を言う眼鏡っ娘に。周りから歓喜の声が上がる。その間にも、シオンの叫びは響いていた。もちろん、女性陣には届かない。届かない以上、聞き入られる筈もなかった。
あ―――――――っ!
かつらを次から次へと被せられる。あーでもない、こーでもないと、真剣に論議が重ねられた。
長さ。色。髪型。試行錯誤が繰り返される……本人の意思を全く無視して。
出た結論は、やはりロングのストレートと言うシンプル・イズ・ザ・ベストが1番似合うと言う事であった。髪の色は、元々のシオンに合わせて銀。これにも異論は多々あったが、やはり銀が似合うと言う事で採用される運びとなった。
「さて……ひっく……じゃあ次はお待ちかねの服だよ〜〜」
あ―――――――っ!
嬉しそうに、どこぞの学校の制服(女子)を手に持つスバルに、今度こそはまごう事なき絶叫があがる。それに構わず、うふふふと笑う悪魔達はにじり寄り――。
「待って! スバル!」
フェイトから制止が掛かる。シオンはそれに一瞬だけ希望を見出だして。
「ニーソックスか、ストッキングか、普通のソックスか決めないと」
あ―――――――っ!
即座に希望がぶち破られた事に絶叫を上げた。当然女性陣は無視して話しは続けられる。
「やっぱニーソやろ! 絶対領域は正義やで!?」
「ストッキングもいいと思います!」
「いや、ここはマニアックにルーズソックスとか……」
あ―――――――っ!
既に死語に近い名称まで上げられる。上げた人の歳を疑いたくなるが、あえて誰とは言わないのが華であろう。とにもかくにも次々と出される案に、何故か議長の座に納まっているシャーリーがうんうんと頷く。そして。
「じゃあ、全部試して見ましょう♪」
あ――――――――――――――――――っ!
先に倍する絶叫が出雲市内に響き渡った。
……余談だが、ソックスはニーソックスに決まったそうである。本っ当に余談であったが。
ともあれ、こうして《JKしおんちゃん》は完成したのだった。