魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十五話「墓前の再会」(中編2)
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「IS、インビジブル・キャンセラー」

 そんな聞き覚えのある単語が墓地に響く。なのはとフェイト、はやては警戒するように身を竦めた。だが、その三人の前に立つタカトは全く気にもしないかのように突っ立っている。
 あくまでも、自然体。それが、タカトの在り方だ。例え敵襲であろうとも、変わる事は当然無い。やがてそんな一同の前の景色が歪んで、唐突に三人の男達が現れた。跪き、頭を垂れて。

「「「……え?」」」

 そんな光景になのは達は思わず疑問符を踊らせた。それは、そうだろう。
 AMFは張られ、結界まで展開されている。それなのに何故、彼等は主に対する臣下のように膝を折って跪き、頭を下げているのか。
 三人居る男達。彼等を見ていたタカトがホゥと息を吐いた。
 向かって左端にいる男、かなりの大男に笑いかける。

「……見た顔があるな。ゲイル・ファントム」
「……俺の名を覚えてやがったのか……?」

 その大男、ゲイル・ファントムは呆然と顔を上げると、タカトは鷹揚に頷いた。

「これでも記憶力は良い方なんだ。一度見聞きしたものは、そうそう忘れ無い。……で? 何をしに来た?」

 ゲイルの問いにあっさりと答えながら、今度は単刀直入に問う。真ん中の男、長身痩躯の、ゲイルと違って全身タイツでは無く、逆立てた髪に額に巻いたバンダナ、口元を隠すマフラーが、特徴的か――が、頭を下げたままに頷いた。

「……申し遅れました。我等、ツァラ・トゥ・ストラ。第二世代型戦闘機人、特殊部隊『ドッペル・シュナイデ』が、末席にある者達でございます」
「ストラの……!?」
「いや、ちょい待ちぃ! ”第二世代戦闘機人!?” なんや、それ!?」

 フェイトが、そして、はやてが悲鳴じみた声を上げる。管理局、本局を占拠したテロ組織『ツアラ・トゥ・ストラ』の人間がここに居ると言うのも問題だが、彼等の語った『第二世代戦闘機人』と言うのも大問題であった。
 戦闘機人とは、かのジェイル・スカリエッティが作り上げた、言わばサイボーグの事である。ナンバーズに代表される彼女達ではあるが、JS事件の終了と共に、その研究は全て破棄された筈であった。
 少なくとも第二世代の戦闘機人など、はやて達は聞いた事も無い。そんな彼女達に、タカトは面倒臭そうな目を向けた。

「その様子だと、兄者からは何も聞いてないな」
「トウヤさんから?」
「ああ。兄者に情報は渡してあった筈なんだが」

 フゥと嘆息する。例の『第数えるもバカらしいからやめた。叶トウヤ暴走事件』の際に、トウヤに第二世代戦闘機人についての情報も”追加した”データチップを渡して置いたのだが。恐らくは彼女達に、まだ見せていなかったのだろう。
 ……当然とも言える。紫苑の件と後始末も含めていろいろとあり過ぎた。
 トウヤ自身、各部署との折衝やらで忙しい身であったろうし、どうにか出来たとも思えない。もう一度だけ嘆息する。

「詳しくは、後で兄者に聞け。今は説明出来る暇は無い」

 一方的にそう告げると男達に向き直る。彼等はそれを待っていたかのように話し出した。

「私の名は、ヘイルズ。以後、お見知り置きを」
「……ケケ。俺の名は、アルテム。よろしく頼みますよ」

 真ん中の長身痩躯の男が、まず名乗り、向かって右の男。やたらと背の小さな、男が名乗る。
 タカトは、告げられた名を反芻するかのように一人ごちて、やがて頷いた。

「……ゲイルにヘイルズ、アルテムか。いいだろう、覚えるとする。さて、俺に二度も同じ質問をさせる積もりではあるまいな?」

 二度同じ。つまり先の質問『何をしに来た』だろう。ヘイルズが頷く。

「では単刀直入に。伊織タカト様、貴方を向かえに来ました」
「断る」

 場が、凍り付いた。三人の男達だけでは無く、なのは達も思わず硬直する。まだ、彼等は何も言っていない。にも関わらず、タカトは容赦無く切り捨てたのだ。
 固まりもしよう。凍り付いた場で、面倒臭そうにタカトは更に告げた。

「用件はそれだけか? では、さっさと帰れ」
「い、いえお待ち下さい……! せめて話しだけでも――」
「聞く意味が無い。俺は特定の組織に所属する積もりは無い。失せろ」

 取り付く島も無いとはこの事か。全く聞く耳を持たずにタカトは冷たく告げる。あんまりなタカトの対応に、ヘイルズは二の句を告げ無くなった。

「……やっぱりな」

 そして野太い声と共に、ゲイルが立ち上がる。その顔に浮かぶは不敵な笑いであった。両手の重散弾機関銃をタカトに差し向ける。

「あんたなら、そう言うと思ったぜ。伊織タカト……!」
「待て、ゲイル……!」

 ヘイルズが慌てたようにゲイルを止めようとする。しかし、行動を起こそうとしているのは彼だけでは無かった。

「……IS、インビジブル・”セレクト”」
「アルテム!?」

 次の瞬間、タカトは背後に羽虫のような音を聞く。
 ……嫌な予感がした、それに――タカトは、そう思うなり、何の前ぶれも無くしゃがみ込むと、アンバを思わせる動きで足を広げて回転。

    −閃−

 ”なのは達”の足を、素早く刈り取った。

「「「え?」」」

 一瞬の浮遊感をなのは達は感じ、当然、重力に捕まって下に落ちる。石畳の上へと。

「ふえっ!?」
「あっつ!?」
「うぁっ!?」

 軽くとは言え、石畳に落とされて三人は悲鳴を上げる。意図的だったのか、衝撃もさほど無かった。すぐにタカトに文句を言おうとして。

    −閃!−

 頭上を、何かが通り過ぎた音がした。強いて言うならば、電動鋸(でんどうのこぎり)のような高周波音か。ぱちくりと、目を見開く彼女達を置いて、タカトは一人だけ立ち上がる。視線は、アルテムに固定された。

「……先程は”キャンセラー”で、今回は”セレクト”だったか? そしてインビジブルと言う名……成る程、貴様の能力は」
「ケケケケケケ! あの一度でそれを見切りやがりますか!? これは噂に違わねぇ!」
「アルテム! 貴様ぁ……!」
「良いじゃねぇか、ヘイルズ。どうせ交渉が失敗すればこうなってたんだしよぉ」

 激昂するヘイルズに、ゲイルが笑いながらアルテムを擁護する。二人を憎々し気に睨みながら、ヘイルズはマフラーの下で舌打ちした。そんな三人を見ながら、なのはは立ち上がりつつ前に居るタカトに聞く。

「えっと……つまりはどう言う事なのかな……?」
「交渉不成立で、これから戦闘だ」
「いや、一方的にアンタが話しを切ったように見えたんやけど……」
「気のせいだ」

 あっさりとそう告げるタカトになのは達も嘆息して、しかし立ち上がりながら三人を睨んだ。
 確かに――どちらにせよ戦闘は免れ無かったのは明白である。だからこそ、彼等もここまで周到な準備をして来たのだろうから。だが、問題は。

「もういい……なら好きにしろ。俺はもう知らない」
「ひょうっ! そうでなくっちゃあな! 折角の大物を”嬲(なぶ)り殺し”に出来る機会はそうねぇしよぅ!」
「「「っ……!」」」

 ヘイルズの吐き捨てるような台詞にアルテムが歓声を上げる。それを聞いて、なのは達は顔を歪めた。
 そう、今この結界には高レベルのAMFが張られている。AMFをある程度キャンセル出来るなのは達が全く魔力が結合出来ない程のだ。この結界に居る限りは魔法は使え無いのだ。それはタカトも例外では無い。
 彼もまた、”魔法使い”なのだから。いくら身体能力が化け物じみているとは言え、そこは変わらない。

「嬲り殺しとはまた穏やかでは無いが――つまり、魔法が使え無い事が問題なのか?」

 タカトがポケポケっと聞いて来る。それに、なのはは肩を若干コカした。
 果たして今、それは聞く事なのか。見れば、フェイトもはやても脱力したかのようにガックリとしている。とりあえず、頷こうとした所で哄笑が響いた。
 アルテムが、腹を押さえて高い笑いを上げていたのだ。タカトはふむと声を漏らす。

「何を笑っとるんだ、お前は?」
「ケケケケケケケケケケケケケケケケケケっ! これが笑わずにいられるかってんですよぉ! まさか、今の自分の立場も分かって無いとか言うんじゃ無いでしょうな!?」
「ああ。全く分かっとらんが?」

 平然と答えるタカトに、またアルテムの笑いが響く。ひとしきり笑いきり、アルテムがタカトを指差した。

「分かってないんですかぃ!? それは傑作だ! いいですかい? 今のアンタはAMFで魔法が使え無い! そして、俺達戦闘機人にAMFなんて関係ねぇ! つまり、フ・ル・ボ・ッ・コ。て、訳ですよ――――っ! ケケケケケケケケケケケケっ!」
「ああ、そう言う事か。ところでお前、その笑い方はおかしいから止めた方がいいぞ?」

 どうでもいい事をタカトは言ってやる。アルテムは聞こえているのかいないのか、まだ笑い続けて――。

「で?」

 ――タカトの、そんな一言で笑いが止まった。
 馬鹿にされたように感じたのだろう。彼を睨みつける。だが、当のタカトは全く構わず続けた。

「先のお前の攻撃だが。おそらくは三十cm程の円形の刃、チャクラムと言った所か……それを”見えなく”させた訳だな。つまり、お前のISとやらは、”透明化”だ」
「な、ん……!?」

 いきなりぺらぺらと自分の能力を語られて、アルテムの顔が驚愕に彩られる。タカトは、構わずに続けた。

「ただの透明化と言う訳でも無いな。おそらくは各種レーダにも反応出来なくなる仕様か。だが、飛来時における音まではどうにもならなかった、と言う所か――つまりは、そう言う事だ。アルテムとやら。魔法だろうが、ISだろうが、所詮は技術でしか無い。そして人の技術でしか無い以上、破れる手段なぞ無限にある。そんなもの、俺が恐れる理由は何処にも無い」
「ん、だと……!」
「そして、だ」

 丁寧に欠点までも教えながら、激昂するアルテムにタカトは掌を差し出した。指を三本だけ立てると、前の三人に向けて見せた。

「貴様達は三つ程誤解している」
「誤解だぁ……!?」

 こちらはゲイルだ。呻くような声に、タカトは頷く。

「ああ、まず一つ目」

 直後、左手を背中に差し込み、”何か”を即座に取り出す。それは黒い球のような物体であった。タカトはそれを迷い無く地面に叩き付ける!

    −爆!−

 爆発的に煙が広がり、タカトを中心にして場に居る皆を煙は一気に包み込んだ。

 
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