魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十四話「それでも、知りたくて」(前編)
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《……と、まぁ。被害状況はこんな所だね》

 アースラ艦長、八神はやては伝えられたその言葉に頭を抱える。
 日本、海鳴市、月村家。そこで、彼女はその報告を受けたのだ。神庭シオンが叩き出した被害の有様を。隣にいる高町なのはや、フェイト・T・ハラオウンまでもが呆れたように苦笑していた。
 取り敢えず一息吐いて落ち着くと、ゆっくりと展開したウィンドウの中に居る叶トウヤと目を合わせた。
 彼は、相変わらずの微笑を浮かべてはやての言葉を待っている。
 一瞬、このまま黙ったままで居たら、彼がどんな表情をするか見たくなる衝動に駆られる。だがぐっと我慢し、漸くはやてはトウヤが話した報告の感想を告げた。

「……マジなんですか?」
《はっはっは……マジだよ》

 何故か『マジ』の部分だけ真顔でトウヤが疑問に答えてくれる。だからと言って報告の内容が変わる訳では無いのだが。トウヤは一つだけ苦笑すると、報告を繰り返した。

《昨日、夜だね。出雲市にある秋尊学園にて、シオンが単独で敵――例の、紫苑だね――と、無断で戦闘。その結果、秋尊学園は”完全に消滅”。結界は張られていたようだがね。それも完膚無きまでに破壊されていたので、意味が無い……つまりは》
「……修復は一切出来ないって訳やね」

 自分で末尾を告げて、自分の頭が痛くなる事をはやては自覚する。何を、どうやったらそんな被害が出せるのだ。
 ……いや、Sランク以上の集束砲撃辺りならば結界破壊も含めて不可能では無い。……それが、瓦礫の山を作ると言う意味ならば。
 はやて達が引っ掛かったのは”完全に消滅”と言う部分である。事件前と後の静止画を見せて貰ったが、とてもでは無いがそこに学園が建っていたとは想像も出来ない破壊っぷりであった。
 何せ、”本気で何も残っていない”。
 ただすり鉢状に抉られた地面と、基礎だけが覗いているだけと言った状態なのだ。瓦礫すらも消滅させたと言う事か。
 まだ消え去った学園跡地の静止画を見て考え込むはやて達に、トウヤは微笑する。

《今回は運が良かった方だね。正直な所、魔力量を検知した時は、完全にアウトだと思ったモノだよ》
「……? それは、どう言う事ですか……?」

 トウヤの台詞に何か感じるものがあったのかフェイトが怪訝そうな顔で尋ねる。はやてや、なのはも似たような顔をしていた。そんな一同の反応に、トウヤはまた苦笑する。

《百聞は一見に如かずだね。これが検知した魔力量から推定された、シオンが放った技のランクだよ》

 そう告げると、同時にウィンドウ横に更に小さいウィンドウが展開。当時発生した魔力量のデータと、推定される威力ランクがそこには載っており――三人は、それを見ると同時に硬直した。

 ……これは、なんだ?

 はやてがそれを見ながら顔を強張らせつつも、トウヤに向き直る。

「……えっと、やな。何かの冗談?」
《はっはっは……マジだよ》

 そんなはやてに、先程と寸分違わぬ台詞が放たれる。それを聞くなり、三人の顔は尚の事引き攣った。
 三人が注視した、ウィンドウにはこう書かれてあったから。
 推定威力ランク、SSS++++――と。
 硬直する三人に、トウヤは更に説明を続ける。

《どうやら、あの大馬鹿は最初から制御を諦めて集束させなかったようでね? 逆に言えばそれで助かったと言える。どうも、発生した破壊力が爆発と共に全て真上に向かったようだね。それが幸いしたよ。そうでなければ恐らくは”北半球が壊滅している”。……ちなみに、控え目な被害予測でだがね》
「「「…………」」」

 苦笑しながら告げるトウヤの説明に、三人は漸く硬直から脱出。三人一緒に一つだけ息を吐いた。
 そうして苦笑し続けるトウヤへと姿勢を正す。彼女達がショックから脱っしたのを見計らって、トウヤは説明を続けた。

《とにもかくにも学園側にはウチの方で説明、補償、再築する事で事態は解決したので安心してくれたまえ。元々魔法にも理解のある学園だったし、グノーシスの資本で建てられた学園なのでそこは問題無い。後、大馬鹿については当分ナノ・リアクターの空が無いので『月夜』に入院させておくよ。……こんな所かね》
「……じゃあ、私達もシオン君のお見舞いに――」
《そうだね。君達のデバイス、武装もメンテ完了したので。それの受け取りも兼ねて来るといい》

 なのはが頷きながら告げた言葉に、トウヤもまた頷く。そして、三人に向かい微笑した。

《それと、代艦の用意も整えてある。見に来るといい。ついでに例の件も解答をくれると助かるね》
「……そうですね。了解や、なら後でそちらに行きます」
《うむ……ではね》

 はやての返答に頷いて、トウヤは微笑を浮かべたまま通信を切った。ウィンドウが閉まるのと一緒に、三人は目を合わせて苦笑する。

「……トウヤさん、ちょっと怒ってたね?」
「そやなー。地球に来る前くらいに怒っとったかもしれんね」

 思わず強襲戦の時にシオンを殴りまくったトウヤを思い出す。あの時程では無いが、今話していただけでも分かる程にトウヤは怒っていた。
 ……終始朗らかだったが、目が全然笑っていなかったのだ。
 基本的には穏やかな性格故に、怒らせると非常に怖いのがあの異母兄弟達の数少ない共通した部分とも言える。
 三人は見合わせて、一つだけ息を吐くと座っていたソファーから立ち上がる。正面に立つ月村家メイドのノエル・K・エーアリヒカイトと、ファリン・K・エーアリヒカイトに一礼した。

「すみません。ノエルさん、ファリンさん、上がらせて貰ったのに、何も出来ないで……」
「いえ、こちらこそ。申し訳ありません。折角来て頂いたのですが――」

 なのはが目を伏せるようにして告げた言葉に、ノエルも頭を下げる。そして、視線を横に向けた。その方向には、主である月村すずかの部屋があった。
 ファリンも、なのはも、フェイトも、はやても、そちらを向くなり顔を曇らせる。
 そこに閉じ篭っている、部屋の主を想って。
 三人が月村家の屋敷に来たのは、彼女達の親友であるアリサ・バニングスが伊織タカトに意識不明にされて以来、塞ぎ込んでいるすずかに会いに来たのだ。……結局、すずかが部屋から出て来る事は無く、会う事は叶わなかったのだが。
 あれから一月程、すずかは殆ど引き篭りに近い状態であるらしい。なのは達が家に来ても、顔を出さない程だ。それがどれほどの事態なのか、分かろうと言うものだった。
 ノエルが三人に向き直るのに従って、一同も視線を戻す。そして、メイド二人は改めて頭を下げた。

「なのは様、フェイト様、はやて様、お越し下さったのに申し訳ありませんでした。今日はこれで……」
「……ごめんね。なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん」
「いえ、こっちこそ。役に立てないですみません……また、来ますね」

 三人もまた頭を下げると、名残惜しそうに退室した。
 ……部屋に居る筈の、すずかを想って。でも、どうしようもなくて。

 月村家を後にした。

 
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