魔法少女 リリカルなのは StS,EXV
□第四十三話「刀刃の後継」(中編2)
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シオンが紫苑と戦闘を開始した頃。神庭家、母屋ではうろうろとさまよう影があった。
スバル・ナカジマである。シオンが向かった後、じっとしてもいられず、こうやってうろうろしていたのだ。
……シオンの言う事は、分かるよ。
スバルは考え込みながら歩く。みもりが人質に取られているのだ。下手に手出しは出来ない。
しかも今、自分達にはデバイスも無いのである。同行をシオンが許さないのは当然と言えた。
理屈では納得している。でも、感情はまた別であった。
みもりは友達だ。短い付き合いだが、少なくともスバルはそう思っている。その友達が人質に取られているのに、じっとなんかしていられない。
ましてやシオンは自分より強いと断言した相手と一人で戦いに行ったのだ。
シオンの事は、スバルも信じている。必ず帰って来ると、そう思ってる。
でも、だからと言ってここでじっと動かず、待っているのは違う気がした。
動きたいけど、動けない。そんなもどかしい気持ちのまま歩いていると、曲がり角から突然、親友でありパートナーである、ティアナ・ランスターが現れた。何やらぶつぶつと呟きながら歩いている。
……ひょっとして、ティアも?
その様子に自分と同じ感じをスバルは受ける。取り敢えず、声を掛ける事にした。
「ティア〜〜?」
「……ん? あ、スバルか」
スバルの呼び掛けに、ティアナは俯いていた顔を上げる。スバルは頷くとティアナへと駆け寄った。
「どうしたの? 考え込んでたみたいだけど」
「うん。ちょっと、ね。あんたこそ、ここ。部屋じゃ無いでしょ?」
「……うん。私も、ちょっと」
考えている事は一緒。二人は長年のパートナーだった事もあり、即座にそれを悟る。
互いに罰の悪そうな顔となりながら、肩を並べて歩き出した。
「シオン、大丈夫かな……?」
「さぁね……」
スバルがぽつりと呟いた疑問に、ティアナも気の無い返事を返す。そのまま、黙り込んでしまい、歩いて行くと。
「「あ……」」
二人は思わず声をあげた。行き着いた先は、玄関だったから。
……まるで二人の心を表すように、そこに辿り着いてしまったのだ。勿論、意識しての事では無い。暫く二人は玄関を迷うように見る。
今すぐ、行きたい。だが、来るなと言ったシオンの言葉が二人を止めていた。
恐らくみもりが人質に取られて無くても、シオンは一人で戦いに向かっただろう。
そう言った相手なのだ。シオンにとって、あの紫苑は。シオンが一人で向き合い、戦わなければならない存在。
だからこそ、シオンはスバル達に来るなと言ったのではないか。
そう思いながら、しかし引き返す事も出来ずに、二人はじっと玄関を見つめ続ける。すると。
「……スバルさん? ティアさん?」
「二人共、どうしたんですか?」
突如、そんな声が背中から掛けられた。二人は思わず振り向く。そこには、エリオとキャロが居た。
「エリオ、キャロ……」
「あんた達こそ、どうしたの?」
いきなり現れた二人に驚きつつも、スバルとティアナは聞き返す。
それに、エリオもキャロも先の二人と同じく、罰が悪そうな顔となった。
「その……シオン兄さんの事が気になって」
「部屋にじっと出来なくて、エリオ君と歩いてたら、ここに……」
視線を外すようにして答える二人に、スバルも、ティアナも思わずため息を吐いた。
考えている事は、皆一緒だと言う事である。助けに行きたい。けど、行けない。
そんな気持ち。
ただ待つと言うのが、ここまで辛いものだと、四人は初めて知った。
暫く、向き合ったまま黙り込む四人。やがて、ふっとスバルが不意に微笑した。ティアナを、エリオを、キャロを見て、そしてもう一度玄関を見る。ぽつりと呟いた。
「……行こう」
「「「え……?」」」
その呟きに、三人は思わず目を見張る。スバルは、そんな三人に微笑んで告げる。
「行こう、みんな。シオンの所に」
「……スバル。あんた、自分が何言ってるか分かってる?」
その言葉に、ティアナが問い返す。それが何を意味するか分かっているのかと。
彼女達が行くと言う事は、取りも直さずシオンの意思を無視すると言う事であった。
エリオやキャロも不安気な表情でスバルを見つめる。ティアナの問いに、しかしスバルはすぐに頷いた。
「……うん、分かってる。私達が行くと、シオンが嫌がるって事も」
「じゃあ、なんで――」
「でもね、ティア。我が儘かも知れないけど、私、行きたいんだ」
ティアナに最後まで言わせず、スバルは告げる。玄関へと視線を移した。
「……シオンが今、一人で戦ってる。その結果が、ひょっとしたらって考えると……怖いんだよ。嫌なの」
「スバル……」
まるで、自分に言い聞かせるように呟くスバルの言葉。それに、ティアナは呆然となる。エリオや、キャロもだ。スバルは構わず続ける。
「シオンの戦いの邪魔なんて、多分出来ない……でも、待ってるだけなのも絶対出来ない」
だから。最後だけ言葉にはせずに、スバルはティアナを、エリオを、キャロを振り返る。
スバルが告げた言葉は違う事が無い四人全員の気持ちであった。
しばしスバルと三人は見つめ合い。そして。
「……みもりを私達で助ければ、あいつも気兼ね無く戦えるかもね」
「ティア!」
ぽつりとティアナが告げた言葉に、スバルが歓声を上げる。彼女は苦笑した。
「……どうせ、最後にはあんたの我が儘を聞く事になるんだから。言っても聞かないだろうし。なら、出来る事を考えた方が無難よね?」
「ですね。これなら、シオン兄さんの戦いの邪魔にもなりません!」
「みもりさんが怪我してたら、ちょっとだけでも私が治せます!」
ティアナの言葉に、エリオやキャロも乗って来る。スバルは三人に頷きながら、満面の笑みを浮かべた。よしっ、とティアナが大きく頷く。
「そうと決まったら、みもりを助け出す作戦練るわよ! まずは――」
「その前に、一人は戦える人もいるよね」
意気込む四人に、やけに陽気な声が掛けられた。その声に飛び上がりそうな程驚き、四人はそろりそろりと後ろを振り向く。
そこには、実年齢を思わず確かめたくなる少女のような外見の女性が居た。にっこりと笑う、彼女が。
四人はその人を見て、呆然と名を呼ぶ。
『『アサギ、さん……?』』
「うん」
シオンの母、アサギが、そこに居た。
似合わない刀をその手に持って、変わらない微笑みを浮かべて、四人の前に居たのだった。