魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十二話「懐かしき我が家」(後編)
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 グノーシス月本部『月夜』。転送ポートに続く通路を実家に帰る為に、神庭シオン”達”は、てくてく歩いていた――そう、”達”。つまりシオン一人では無い。
 スバルやティアナ、エリオ、キャロを始めとして、なのは、フェイト、はやての隊長三人娘。更にギンガ、チンク、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ達N2Rの面々。
 ようするにシグナム、ヴィータ、アギト、リイン、クロノ、ザフィーラを除いた全アースラ前線メンバーがシオンと一緒に歩いていたのだ。
 それだけでは済まず、異母兄であるトウヤとその恋人兼秘書のユウオ、幼なじみのみもりまで一緒である。
 総数十六名がぞろぞろと歩ける『月夜』、通路の広さは本当に大したものである。それは、シオンも認める。だが、しかし!

「……あ、あの〜〜」
『『ん?』』

 わいわいと雑談しながら歩く一同にシオンは意を決して振り返る。そしてやや引き攣った笑いを浮かべた。

「見送り来てくれたのは嬉しいんだけど、ここまででいいかな〜〜と」
「ああ、ちゃうよ。見送りやないから」

 ……見送りでは無いなら果たして何故に着いて来ているのか?
 にっこりと笑って答えてくれたはやてに、シオンは更に引き攣った笑いのまま続ける。

「えっと、ならなんで?」
「もー、そんなん決まってるやん」

 ややなーもぅ、と。はやては朗らかに笑う。……シオンはそんなはやての笑いに――正解には、シオン以外全員が浮かべている笑みであった――に、嫌な予感を覚えて後ずさる。
 だが、すでに後ろはスバルとティアナが自然な動作で逃げ出せぬように移動していた。
 それに気付き、シオンは戦慄する。自分に気付かれずに、いかような手段を用いて移動したと言うのか。
 そんなシオンの動揺に気付いていないのか、はたまた気付いていないフリなだけか、はやての笑いは変わら無い。そしてきっぱりとシオンに告げた。

「シオン君のお母さんに会いに行く為に決まってるやん♪」
「さらばっ!」

 即座にシオンは横っ跳びに瞬動! 壁を蹴り、更に瞬動を発動して三角跳びの要領でスバルとティアナの頭上を越える。
 後は転送ポートに逃げ込んですぐに転移すれば――!

「甘いよ! シオンっ!」
「なぬっ!?」

    −閃!−

 着地し、一気に駆け出そうとしたシオンだが、いきなり足ばらいを喰らって転倒した。慌てて顔を上げると、そこにはにっこりと笑うスバルの顔があった。どうやら、着地点を狙って足を払われたらしい。

「もー、なんで逃げ出そうとするの?」
「なんでもかんででもだっ! てか、なんで皆着いて来る気だよ!?」

 叫び、諦めの悪いシオンは立ち上がろうとして、いきなり背中に誰かから乗っかかれた上に肘を捩り上げられて、阻止させられる。背に目を向けると、そこに居るのはやはりティアナであった。

「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない? ほら、アンタいろいろあったし。昨日はまた感染者なんかになったから一人だけにするのは心配だしね。――それに、アンタのお母さんって気になるし」
「だぁぁぁぁっ! 前半、お前建前だろ!? 後半が目的だな!?」

 そんな事無いよ――と、一同笑うが、はっきりと説得力が無い。
 そもそも彼女達からしてみれば気にならない筈が無いのだ。あのトウヤ、タカト、シオンの三兄弟の母親とも呼べる人。どんな人物か知りたいと思うのも当然であった。それに――。

「私が許可したのだよ。家に行っていいとね」
「くっ……! トウヤ兄ぃ……!」

 一番後ろに居たトウヤの台詞にシオンは顔のみを上げて睨む。だがトウヤはそんな視線すらも楽しそうに受けて笑う。

「多少人数が多めの家庭訪問だと思いたまえよ」
「違う! こんな大人数の家庭訪問なんて存在しねぇ!」
「ううん、シオン君。存在するよ? 今ここに」
「そう言った意味で言ったんじゃない――――――!」

 叫ぶシオンだが、もはや拒んでも意味が無い。トウヤが許可した以上、シオンがどれだけ嫌がろうと皆が来るのは確定事項であった。

「うぅ……何故に家帰るのに、皆まで連れて行かなきゃならんのさ」
「いいでは無いかね、こう言うのも。では、アサギさんに宜しく頼むよ?」
「……は?」

 嘆くシオンにあっさり言って来るトウヤだが、その台詞に引っ掛かるモノがあり、顔を上げる。そんなシオンにトウヤは肩を竦めた。

「私は今日は帰れないからね。アサギさんによろしく頼む」
「ちょっ!? 人には帰れと言っておきながら……!」

 てっきりトウヤも帰るものだと思っていたシオンは、スバルとティアナに捕まったままジタバタと暴れる。そんなシオンに構わず、トウヤはユウオを伴い、一同に背を向けて歩き出した。

「多数の美しい女性に囲まれて羨ましいかぎりだね」
「なら替わってくれよ!」
「だが断る……久しぶりの実家だ。ゆっくりして来たまえよ。ではね」

 にべも無い。容赦無く置き去りにされて、シオンはしくしくと泣きすさぶ。そんなシオンとは打って変わり、アースラ一同は元気溌剌に転送ポートに入った。

「よっしゃ。じゃあ、神秘に包まれた神庭家に突撃や〜〜♪」
「いつからうちは秘境になったんですか?」
『『オオ――――♪』』
「皆のってるし!」

 ツッコミまくるシオンを一同は完璧に無視する。やがて転送ポートが起動し、アースラ一同は神庭家がある日本出雲市へと転移したのだった。

 
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