魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十二話「懐かしき我が家」(中編2)
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「「「ウオオオォォォ――――!」」」

 グノーシス本部『月夜』ナノ・リアクター治療室前通路。
 そこを転がるもはや物言わぬ同士達(死んでない)を踏み越え、シオン、エリオ、クロノがトウヤに突っ込む。そんな三人にトウヤはフッと笑った。

「戦いとはいつも残酷なものだね……弟をこの手にかけねばならないとは」
「覗きの為だけに弟を倒そうとするのは全次元世界の中でトウヤ兄ぃ一人だけだけどね!?」

 大仰に手を掲げる一応異母兄に、シオンは吠える。手に持つイクスを構えながらエリオとクロノを追い越し、それぞれ高速移動を開始しようとし――だが、トウヤが掲げた手を懐に突っ込んだ瞬間、シオンの直感が最大級の警報を鳴らした。これは――!

「喰らいたまえ! 必殺! 『俺の吐息・焼肉翌朝!』あ〜〜んど『俺の靴下・三日間履きっぱな!』」
「さっせるかぁ! 四ノ太刀! 裂破ァ!!」

    −波!−

 噴射されるあからさまにヤバすぎる臭いの煙を、シオンがイクスを縦に構えて放った空間振動波が完全にシャットアウトする!
 ――その臭い、どれ程のモノなのか、シオン達とトウヤの間に居た戦死者達(しつこいようだが死んでない)が、滞留したその煙に転がったままゾンビのようにのたうちまわる。
 その光景を見て、三人の背筋にゾッと冷たい汗が流れた。
 このスプレー、絶っ対! 痴漢撃退用スプレーなんかでは収まるまい。きっぱりとBC兵器に区分すべき代物であった。

「……なんっちゅう、おっそろしいモンをあんたは……」
「ふっふっふ。ちなみに臭いが移れば一週間は取れない。その間、親しい者――特に娘さんあたりに『お父さん臭い!』とか言われるようになる心理攻撃も兼ねているのだよ!」

 それを聞いて、後ろのクロノの肩がビクっと跳ね上がる。クロノには、最愛の妻と双子の子供が居る訳だが……もし、あのスプレーを喰らった場合。リアルにそれを言われる事だろう。嫌過ぎる未来である。
 そして、シオン達もまた他人事では無い。
 仲間達に――アースラは女性が多いから特に気にするだろう――に、『臭い』とか言われた日には、再起不能なまでの精神ダメージを受ける事は必死であった。
 三人はトウヤがシャキーンと構えるスプレーを苦々しく睨む。

「くっそ……! 嫌らしい攻撃仕掛けて来やがる……!」
「とりあえず、あのスプレーを何とかするぞ! あれがある限り近付け無い!」
「はい!」

 クロノの指示にシオン、エリオは素直に従う。この距離で届く魔法を、己から引き出した。

「神覇、弐ノ太刀――」
「サンダ――」
「ふ……。無駄な事を」

 二人がイクスとストラーダを構える姿を見てもトウヤはスプレーから手を離さない。寧ろ何時でも吹き掛けられるように構える。

「――剣牙ァ!」
「――レイジ!」

    −閃!−

    −雷!−

 シオンとエリオはそんなトウヤに迷い無く魔力斬撃と範囲雷撃を浴びせ掛ける!
 魔力の刃と雷は迷う事無くトウヤへと突き進み。

「ト――ウ!」

 奇妙な声を放ったトウヤがいきなり消えた。当然、刃と雷はトウヤが居た空間を空しく通り過ぎるのみ。瞬動だ!

「どこに!?」
「――ここだよ」

 疑問に答える声は後ろから響いた。気付けばトウヤは自分達の真後ろでスプレーを構え、既に発射体勢に入っている! この距離、このタイミング、躱せない――!

「では、さらばだ。安らかに眠るがいい。シオン、エリオ君」
「く、くそ――せめて、俺の方が『焼肉翌朝』でありますように!」
「ちょっ!? シオン兄さん何て事を!?」

 やかましい! 『三日履きっぱな』なんて、最悪通り越して絶望だろうがよ!?

 可愛い弟分がそんなモノを浴びてもいいんですか!?

 この間僅か0.2秒でシオンとエリオはアイコンタクトでやり取りを交わす。そんな暇があるなら逃げろよと思わなくも無いが、二人にそんな余裕は無かった。そして、トウヤの指がスプレーのボタンを押し込み、殺戮芳香を二人に撒き散らさんとして。

「甘いな――! 叶!」

    −閃!−

 突如として閃いた三条の光線がトウヤの手からスプレーを叩き落とす!
 それを成したのはトウヤの更に後ろの人物、クロノ・ハラオウンであった。
 右手に握られた真・デュランダルがきらりと光ると、宙を舞うスプレーが一瞬で凍り付いた。凍結型の封印である。
 一瞬の早業に目を丸くしたトウヤは、事態を把握するとくっと呻いた。

「く……っ! あまりの影の薄さに君の事を忘れていたよ……! 大事な事だからもう一度言うと、影の薄さのあまりに君の事を――」
「二度も言うな!」
【アイシクル・カノン】

    −撃−

 影の薄さを散々強調しまくるトウヤに、クロノは容赦無く真・デュランダルを突き出す。直後、先端から氷結砲撃が撃ち放たれた。だが、二度も遅れを取るトウヤでは無い。あっさりと身体を翻して砲撃を躱す。
 だが、トウヤの相手はクロノ一人だけでは無い。スプレーの驚異から逃れ得たシオンとエリオは即座に振り返り、動いていた。

「エリオ! さっきの事は置いとくとして突貫かますぞ!」
「了解です! ……さっきの事は後でゆっくりと話し合いましょう!」

 ちちぃ! 簡単には忘れんか……!

 絶っ対! 忘れませんからね……!

 やはり即座のアイコンタクトで、そこまで語り合うと二人はイクスとストラーダを真っ直ぐ構える。刺突の構えだ。
 シオンは魔力を纏い、エリオは雷光を纏う!

「伍ノ太刀、剣魔ァ!」
「サンダー・ストライクッ!」

    −裂!−

    −閃!−

    −雷!−

    −轟!−

 咆哮と共に、二人は同時に突貫を開始。同時に放たれた突貫攻撃は相乗効果を生み、激烈な破壊力となって道行く全てを蹂躙せんと突き進む!
 クロノの方を向いていたトウヤが漸く振り返るが、もう遅い。
 少しやり過ぎ感もあるが痛い目に合わせた方が今後の為である。故に、二人は迷い無く突き進み――。

「ふ……」

 トウヤが突き出した左手の人差し指と中指。そこに二つの刃先が当たり――あっさりと受け止められた。

「「……へ?」」
「どうしたね? これが君達の本気かね?」

 間抜けな声を上げるシオン、エリオにトウヤが歯をキラリと光らせながら問い掛ける。勿論、二人はそんなものに答えられる筈も無い。
 威力にしてSSに等しい合体突撃攻撃。それを指二本で止められてどんな反応を返せと言うのだ。
 唖然とする二人に、トウヤはフフと笑ったまま指をブンと頭上まで振り上げる。それだけで、シオンとエリオはあっさり投げ捨てられた。

「「嘘だあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!?」」

 投げられ、宙を軽々と舞う二人は叫ぶが、勿論現実である。しかも――。

「なっ!?」

 二人が投げられた方向には今まさにタイミングを合わせて挟撃を仕掛けようとしたクロノが立っていた。そこに容赦無く突っ込む二人に、クロノの反応は間に合わず、投げられた二人と衝突!

    −撃!−

「げふっ!?」
「あだっ!」
「あうぅ!」

 三者三様の悲鳴を上げて、情け無くも床に転がる羽目になった。それを見て、トウヤが勝利とばかりに腕を掲げる。

「ふ……。今日の私は阿修羅を――否、EXを凌駕した存在と知りたまえ!」
「ぐっ……くぬ! ち、ちくしょう! しかもその台詞は何か危険な気がする……!」
「ば、バケモノめ……!」
「い、今のは有り得ないでしょ……!」

 勝利宣言をかますトウヤに三人は床に転がったままでそれぞれ吠えるが、今回は文字通り負け犬の遠吠えである。
 三人をあっさりと撃破したトウヤの超常的な能力。それが煩悩で引き起こされていると言うのだからタチが悪い。

「てか。そこまでして覗きをする事に意味があるのかよ……?」

 部下を全員昏倒させて、自分達を倒してまで。何故、そこまで覗きをするのか。今、初めてトウヤにシオンは聞く。
 シオンの問いにトウヤはニッコリと笑い。

「オッ○イ」
「「「……はい?」」」
 
 その口から想像もして無かった一言が飛び出た。呆然とする三人にトウヤは構わず神を崇めるかの如く両腕を天に突き出す。そして、更に吠えた。

「〇〇〇〇▲▲▲▲■■■■■□□△△▲〇〇××××〇〇〇〇〇!!!!」
「ぎゃあ――――!」
「エリオ! 聞いちゃダメだ! フェイトが泣く!」
「え? え?」

 あかさらまに全部を伏せ字にせねばならない事をトウヤは全力で叫ぶ!
 シオンはそれに悲鳴を上げ、クロノは慌ててエリオの耳を塞いだ。
 やがて叫び終わると、満足したのかフゥと汗を拭う仕種をして。

「つまりだね。私は女性の身体に並々ならぬ興味があり、そこに見知らぬ女体の柔肌があるのならば、覗きたいと言う欲求を押さえられんのだよ!」
「「なら最初っからそう言え!!」」

 シオンとクロノは羞恥で顔を真っ赤に染めて怒鳴る。だが、トウヤはふっふっふと笑うのみであった。

「ふふふのふ。まぁどちらにせよ私の勝ちだ。さぁ、行くとしようかヴァルハラへ!」
「く、くそ……!」

 さっきの投げ。いかな威力で投げられたのか、まともに身体が動かなかった。エリオ、クロノも同様なのか立ち上がれずに居る。
 このままでは、なのはがトウヤに裸を見られてしまう。それを成した瞬間、トウヤは涅槃へと旅立つだろうが、それは寧ろ彼に取っては望む所だろう。……多分、すぐに蘇るだろうし。
 つまり、その時点で自分達の負けである。
 スキップしながらナノ・リアクター治療室へと向かうトウヤを憎々し気に睨みながらシオンは己に問い掛ける。何か、逆転の目は無いかと。
 あの変態王に負けるのだけは嫌だった。それはクロノもエリオも同様だろう。何とか立ち上がらんと、もがく。だが、身体は未だ痺れ続けている。立ち上がる事すら覚束ない。

 ここまでか――!

 そう諦めた。瞬間。

「ああ兄者。向こうで姉者が裸エプロンの格好をして手招きしているぞ?」
「はっはっは! そんな見え見えの嘘に騙される私では無い! ――だがしかしっ! そこに0.000000001%でも可能性があるならば己が煩悩の赴くままに幻想でしか有り得ぬような映像を我が目に焼き付けようという欲望に従うのが”漢”の生き様と言うモノだよ!」

 ……何やら、凄まじく聞き覚えのある声から発っせられた台詞に活き活きとしながらトウヤはこちら側に勢いよく振り返る。それと同時に、トウヤの身体の向こう側に居る存在が迅雷の速度で踏み込み。

    −撃!−

 ――凄まじい音と共に隙だらけの股間に容赦無く膝蹴りが叩き込まれた。気のせいか、魔力まで纏っている。

「……っ……!? ……タ……っ……とぉ……っ……!?」
「許せ、兄者。同じ男として、何より弟として。この攻撃だけはしたくなかったんだが――」
 
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