魔法少女 リリカルなのは StS,EXV

□第四十二話「懐かしき我が家」(中編1)
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「――今後の君達の行動について、話し合おうか」

 『月夜』、ブリーフィング・ルーム。そこに集まるアースラの面々はトウヤの話しに頷く。それを確認して、トウヤはウィンドウを展開した。

「まずは現状の確認と行こうかね。君達の艦、アースラだが……おおざっぱな損壊状況について調べ終わった」

 言うなりウィンドウが切り替わり、3Dで損壊したアースラが表示された。

「左舷及び、艦壁半壊。魔導炉もかなりのダメージ。一部、転送システムも故障。何より、竜骨外殻にクラックがある……正直な感想を言おう。よく墜ちなかったものだと感心するよ」
「……アースラはただの艦とちゃいますから」

 はやてが一同を代表してトウヤへと頷く。彼はそれにふむと笑いを返した。

「そうかね。余程、信頼しているのだね。己の艦を」
「はい」

 はやては即答。迷い無く頷く。二ヶ月強の短い間とは言え一緒に戦って来た仲間である。信頼していない筈が無かった。トウヤは、はやての答えに苦笑する。

「そうかね。だが」
「分かってます。……アースラ、そう簡単には直らんのやろ?」

 トウヤの言葉を切るようにしてはやては問う。その場に居る一同は、視線を落とした。
 今、トウヤが告げた艦体診断だけでも並の被害では無い。その修理に一日や二日で効く筈も無かった。

「……月夜の設備を使って二ヶ月、と言った所かね」
「…………」

 告げられた日数に一同閉口する。二ヶ月。その間、アースラは修理に掛かり切りになるだろう。そして、その間にツァラ・トゥ・ストラの面々が黙っている筈も無い。
 着々と支配領域を広げるのは目に見えていた。下手をすると、その二ヶ月で管理内世界全てを手中に収めかねない。

「艦の修理を待てる状況では無い。そうだね?」
「……はい」

 はやては素直に答える。強がりを言っている場合では無いのだ。アースラの修理を待てる状況では無い。トウヤははやての返事に再度頷いた。

「艦に関してはこちらで代艦を用意しよう。そちらは後で詳しく話す。さて次だ……現状、君達は怪我人ばかりだが。その怪我が治ったらどうする積もりだね。よもや、本局に突撃とは言うまいね?」
「……それは」

 トウヤの言葉に、はやては二の句を告げない。何を言おうとしているかを察したからだ。
 本局決戦の時、シオンが抜けていたとは言え、自分達はほぼフル・メンバーかつ、ほぼ全快で戦いを挑んだのだ。
 ……その状態で、敗北した。
 つまり、現状の戦力ではストラと戦っても負ける公算が高いと言う事をそれは意味する。

「分かってくれたようだね? 今現在の戦力では、はっきり言ってどうにもならない。本局に向かっても玉砕がオチだよ」
「っ……! そんなの――!」
「ノーヴェ!」

 トウヤの台詞に、ノーヴェが椅子を蹴倒して立ち上がり反論しようとするが、チンクにすぐに諌められ沈黙した。この場ではトウヤの言葉が正しい。
 ノーヴェが着席するのを見計らって、はやてがトウヤに向き直る。

「……トウヤさんが一緒に来てくれるんやったら、何とかなるんですけど――」
「それは無理だね」

 キッパリと告げる。あまりの即答に、はやてが口ごもった程であった。トウヤは微笑しながら口を開く。

「確かに私が出ればすぐに終わる。今すぐにでもね。……だが私が此処を出た場合、タカトへのカウンターが誰も居なくなる事を意味するのだよ」
『『っ――』』

 一同はその台詞に一斉に息を詰まらせた。思い出したのである。そう、タカトは敵なのだ。
 そして、おそらくはトウヤ以外には戦いにすらならないレベルの。
 ストラに目が行き過ぎていた事を全員が自覚する。

「……分かってくれたようだね? 何よりだ。つまり、君達は私をアテにせず、ストラに勝てる方策で行かねばならない」
「……それは」

 そんな都合のいい選択肢があるのかと、はやては思う。他のメンバーもだ。
 だが、トウヤはそんな一同に笑って見せた。

「もちろんあるとも。何、簡単だよ? つまり、”君達の戦力を上げる”。これだけで済む」
『『…………ハイ?』』

 この人は一体何を言っているんだろうと、全員が疑問符を浮かべる。トウヤは微笑して、ウィンドウを更に操作。別の画面を表示する。そこには――。

「『アースラメンバー、各デバイス。ロスト・ウェポン化による強化計画。及び、ロスト・ウェポン製作設計図。並びに、第二世代型専用DA、第三世代型専用ロスト・ウェポン式DA開発設計図』……?」

 はやてがウィンドウに表記された文字を代表して読み上げる。ゆっくりとその意味を理解し、顔が次第に強張っていった。他の者も同様である。トウヤはそんな一同に笑いながら続ける。

「君達全員のレベルアップを短期間で行うのは、はっきり言うと無理がある。なら、武装を強化するのが妥当とは思えないかね?」
「いや、でも、これは――」

 各員の前に出されたウィンドウには、それぞれのデバイスの強化案や、DAの設計図が表示される。それを見て、はやては言葉に詰まった。
 何せ、ロスト・ウェポンとは文字通り”ロストロギアをデバイスに組み込む”仕様なのである。いくら何でも管理局である彼女達がそれを使うのは迷いが生まれる。
 ただ一人、現状でロストウェポンを所有するクロノ・ハラオウンは苦笑していたが。

「……叶。これは、僕のデュランダルと同じ仕様だと思っていいのか?」
「大体はね。まぁ、君達が迷うのは当然と言える……使うかどうかは君達に任せるさ」
「はぁ……」

 流石にこれは、はやても即答出来ない。戦力アップは確かに必須だが、使うモノがモノである。クロノやフェイト、そろそろ復帰する筈のなのはとも話し合わなければならない。この場で判断出来る事でも無かった。

「ねぇねぇ」
「あン? どした?」

 横からちょいちょいと肩を叩かれて、シオンが横に視線を移す。横に居るスバルである。彼女は、自分の所に表示されたウィンドウをシオンに見せた。

「これ、何て読むの? 漢字の読みがわかんなくて……」
「ふむ、なになに」

 まぁ難しい漢字がミッドに出回ってるとも思えんし、と一人ごちて、シオンはスバルの前に表示されたウィンドウを覗く。そこにはこう書かれてあった。

「『第三世代型、ロストウェポン式DA、”斉天大聖(せいてんたいせい)”――て、なぬっ!?」
「わ!?」

 ウィンドウに記されたそれを読み上げたと同時にシオンが叫ぶ。いきなり間近で叫ばれて、スバルがびっくりして目を見開いた。だがシオンは構わない。トウヤを盛大に睨みつける。

「……トウヤ兄ぃ」
「ふむ? どうしたね、シオン?」

 自分を半眼で睨むシオンにトウヤは微笑する。だが、シオンは睨みつけたままスバルのウィンドウを指差した。

「一応聞くな? これ、マジもん? てか、正気か?」
「当然だとも。ちなみにスバル君の物は”世界最初の第三世代型DA”になる予定だ。……ついでに言うと、ティアナ君の物は二つ目、ギンガ君の物は三つ目となる」
「……うわお……」

 告げられた言葉にシオンはくらりと眩暈を覚え、頭を抱える。そんなシオンの反応に、ティアナが訝しんで眉を潜めた。

「なんか、気になる反応ねアンタ……何? この第三世代って言うの。そんなに危険物なの?」
「いや……確かに危険物は危険物だと思うんだけどな」

 危険物なのかよ! と、一斉に内心ツッコミを入れるが、シオンはそれも分からないかのようにため息を吐く。トウヤに視線を向け直し、確認の為に問い掛けた。

「それ以前の問題だよ。世界初って言ったよな。トウヤ兄ぃ」
「ああ。その通りだよ、シオン」

 微笑しながら答えるトウヤにシオンは狸めとジト目で睨む。それもそよ風のようにトウヤは受け流した。シオンは続ける。

「つまり、そのDAは前例が無いものなんだよ。ぶっちゃけると試作1号機、またの名を実験機」
「ええっ!?」
「……なる程ね」
「そう言う事、ね」

 シオンの台詞に、当事者3名。つまりは上からスバル、ティアナ、ギンガの順で、それぞれの反応を示す。それらを見て、はやてはトウヤに視線を向けた。

「……トウヤさん、どう言う事なんやろ?」
「何、こちらもただで戦力供給する訳にも行かないのだよ。相応にこちらにリターンが無いと長老部が五月蝿いのでね?」

 いけしゃあしゃあと答えるトウヤに、はやて達はシオンに倣いジト目で睨み――すぐにため息を吐いて視線を戻した。
 言っている事は正論である。確かにただで別の組織である自分達に装備を譲る、または作る事など。本来有り得ない事だろう。
 ようは装備はやるから各種データは寄越せと言う事か。

「……シオン、長老部って何?」
「ん? ああ……そういや、お前達には説明してなかったっけ。長くなるから一言で説明すると、グノーシスの幹部みたいなもんだよ。詳しい説明は後な」

 スバルがまた聞いてくるが、シオンはそちらの説明は簡潔に終わらせた。
 ……グノーシス自体、結構複雑な組織なのだ。この場で説明すると長くなる。はやて達には説明もしてあるので、この場で説明する必要も無い。スバルもそれを理解したのだろう。あっさりと頷いた。シオンは再びトウヤに視線を向ける。

「……で? こんな試作機がまともに動くの? ロストロギア内蔵式のDAなんて、まだタカ兄ぃが理論上だけで考えてただけのやつだろ?」
「うむ、問題はあるまい。なにせ、”その理論を出した当人が『問題無い』と言い張ったモノ”だしね」
「ふぅん。タカ兄ぃがね――て、待てぃ!」

 あやうく自然に聞き流しそうだった自分に戦慄しながらシオンは大声で叫ぶ。すぐさま、ウィンドウを再び指差した。

「これ、タカ兄ぃが考えたの!? しかも全部!?」
「うむ。流石に最初に渡された時はびっくりしたよ?」
「そう言った問題じゃねぇだろォォ――!?」

 あまりに脳天気な答えを返すトウヤにシオンは全力で叫ぶ。先ほど、この兄はタカトを敵だと言ったのに、その設計図を何故にあっさりと採用するのか。
 シオンの叫びに、トウヤは眉を潜める。

「騒がしい男だね、お前は」
「誰のせいだよ!? いや、そんな事はどうでももういいや。なんで、これを採用したのさ?」
「――トウヤさん? ゴメンやけど私達も知りたいわ。やないと、これは本格的に使えんよ?」

 シオンに続いて、はやても問い掛ける。一同も、トウヤに疑問の視線をぶつけた。肝心のトウヤはあっさりと肩を竦める。

「当然こちらでもチェックは入れたさ。なんなら、その検査結果の資料もある。後で渡そう。その上で、問題無しと判断したのだよ。これは信頼出来るモノだとね。……それに、だ」

 そこまで言い切ると、トウヤはニヤリとシオン達に笑みを浮かべる。まるで、悪戯を仕掛ける子供のような笑みを。そのまま続ける。

「あの基本天然かつ生き方が不器用窮まる男が、そんな小細工をすると思うかね?」
「う……!」

 シオンはトウヤの台詞に盛大に呻く。はやてを始めとした一同も顔を引き攣らせた。
 天然かどうかははやて達が知る所では無いが、あの男の生き方が不器用窮まるのは間違い無い。小細工など考えつく事もしなさそうだった。そうで無ければもうちょっと上手く人生を立ち回っていた事だろう。
 一同の反応を見て、トウヤは微笑する。

「それの設計図自体は、スバル君が感染者化した時に渡された物だよ。その為か、八神君、ザフィーラ君、シャマル君については何も用意して無いようだね」
「あ、ほんまや……」

 言われ、はやてがウィンドウ内の各設計図をチェックする。確かに自分のものと、ザフィーラ、シャマルの分が無い。
 タカトは恐らく、自らが戦った者のデータからこれを作ったのだろう――と、言ってもあの時点でタカトと戦った者はシオン以外では一度しか無いのだが。

「そんな訳で、それについてはさほど問題は無いだろう。先にも言った通り、使うかどうかの選定は君達に任せる。ただ、早めにどちらかを決めてくれると助かるね。何せ、組み上げすらしていないのだから」
「……うん。分かったわ。後で話し合って決めます」

 トウヤの台詞に、はやてが頷く。それに満足そうにトウヤが頷き返した。

「さて、私からはこれ以上、話す事は無いね。具体的にこれからどうするかは君達に任せよう。月夜には好きなだけ滞在しても構わない」
「はい、ありがとうございます」
「いや、私もアースラには世話になった。本局にもね? お互い様と言う奴だよ」

 頭を下げるはやてにトウヤは苦笑して手で制す。そして、壁に掛かっている時計に視線を向けた。

「ふむ。そろそろなのは君の治療も終わる頃合いだが……」
 
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