魔法少女 リリカルなのは StS,EXU

□第三十五話「時空管理局本局決戦」(前編)
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 ――時間はクラナガンでの反乱まで遡る。
 時空管理局本局。そこで、十数隻からなる次元航行艦隊が出撃しようとしていた。
 向かう先はミッドチルダ。反乱者たるグリム・アーチルを捕らえる為に、本局の次元航行艦隊が出撃したのである。
 ミッドチルダ地上本部と何かと摩擦が多い、本局側からの次元航行艦隊の派遣は、それこそ両者の溝を深める事にも成り兼ね無いのだが、今回はそうも言ってはいられなかった。何故ならば、グリム・アーチルは本局の人間であり、そして。次元航行艦、レスタナーシアの提督なのだから。
 本局から出航し、ミッドチルダへ向かう艦隊を見ながら、リンディ・ハラオウン総務統括官は深くため息を吐いた。

「どうしたの? 貴女がため息なんて」

 背後から声がリンディへと掛かる。細い眼鏡を掛けた女性だ。レティ・ロウラン。アースラ副艦長である、グリフィス・ロウランの実母である。
 リンディは、背後のレティに微苦笑すると、またモニターに目を向ける。

「……今回のミッドでの反乱。既にアースラ・メンバーは戦ってるんですってね」
「ええ。それに、さっきの宣戦を告げた人が、ね」

 レティに頷きながらリンディは目を伏せる。

 ――グリム・アーチル。その名はリンディにとって特別な意味を持つ名であった。

「……グリム・アーチル。クライド君の元部下だった人よね?」
「レティ、知っていたの……!?」

 驚きに目を見張るリンディに、レティが苦笑する。彼女がそれを知っているとは、リンディも知らなかったのだ。

「当たり前でしょう? 彼の事は私も覚えてるわ。……クライド君の後ろにいつも着いて来てた子だもの」
「そう、よね……」

 そう、グリムはよくクライドに懐いていた。心酔していたと言っても過言では無い。……だが。

「彼が今回の反乱の一翼を担ってるだなんて、ね」
「ええ……。あの事件から姿をあまり見なくはなっていたのだけれど」

 あの事件―― つまり、闇の書と共に、クライドが逝ってしまった事件の事だ。
 あの後、本局の考え方に絶望した彼は本局を離れ、ミッドチルダ地上勤務になり、五年程前に、本局に再び戻って来たのだが。

「……少し、彼の経歴ついて調べたのだけど」
「? レティ……?」

 レティの表情が陰ったのを見て、リンディが疑問符を浮かべる。
 その彼女に、レティはポンっと軽く、何かを放って来た。それは、情報端末であった。

「これは?」
「いいから、見てみなさい」

 怪訝な顔になるリンディに、レティは情報端末を見るように促す。それに、訝しみながらもリンディは情報端末を開けて、表示される情報を読み――その顔から一気に血の気が引いた。

「これは、本当なの……?」
「ええ、本当よ」

 頷くレティに、リンディは顔を歪める。情報端末には、グリムの経歴の一つが記されていた。
 ミッドチルダ地上航空部隊、分隊長。”ティーダ・ランスターの直接の上司”。そう、書かれていた。

「……彼の宣言。管理局の人間や、ミッドチルダの住人全てを憎むような発言は」
「多分ね」

 頷くレティに、リンディは目を細める。
 ――繋がった。
 他の人間はともかく、グリムの反乱の動機が見えてしまった。つまりは――。



    −煌!−



 次の瞬間、外を映していたモニターが激しく輝いた。

「え……!?」
「なに!?」

 モニターから目を離していた二人も、突如として起きた事態にモニターへと目を向ける。

    −爆!−

 その直後、二人がモニターで見た先が”爆砕”した。
 激しい輝きと共に、空間が巨大な爆発に包まれる。それは一つの結果を齎した。
 即ち、出航した次元航行艦隊の消滅である。中に居た搭乗員と共に、全ての次元航行艦は消滅していた。

「うそ……!?」
「っ――! 管制室! 状況は!?」

 いきなりの事態に、本局に居る人間全てがざわつく中で、リンディは即座に管制へと通信を繋げる。状況把握の為にだ。返答はすぐに返って来た。

《は、はい……! 出航した次元航行艦隊は完全に消滅! 原因は不明です!》
「なんてこと……! 生存者は!?」
《絶望的、です……》

 くっ……! と、リンディは呻く。いきなりの次元航行艦隊の消滅。しかも、何が起きたのか原因は不明と来ている。ここまで馬鹿な話しも無い。

「取り敢えず、私とレティは管制室に――」
《は、はい……? え? て、転移反応!? 本局の目の前に転移反応が……!》

 続けられる言葉に、リンディは何も言わずに駆け出す。レティもだ。
 分かっていた事だ。次元航行艦隊が消滅したのは事故なんかでは無い。明らかに、何処からかの攻撃である。
 ミッドチルダへと向かう艦隊への不意打ちだ。いくら絶大な戦闘能力を持つ次元航行艦隊であろうと、咄嗟の不意打ちには対応仕切れない。それを狙った誰かが居る。

 ――そして、声が響いた。

《時空管理局本局の人員に告げる。我はツァラ・トゥ・ストラが指導者。ベナレス・龍なり》
「「っ――!?」」

 響く声に、リンディとレティは同時に絶句する。声は当然、そんな二人に構わない。話しを続ける。

《現時点を持って、汝等の次元航行艦隊は消滅した。我が消滅させた》
「何ですって……!?」

 次元航行艦隊を消滅。そんな事が個人に出来る筈が無い。しかし、個人ならずとしても、それが出来るのならばそれ程の驚異も無い。

《その上で、本局の者に告げる。……投降せよ。我等に従わぬ場合は、”本局そのものが、次元航行艦隊と同様の結末”を辿る事となる》
「何を馬鹿な……!」
「いえ、レティ。多分、彼等は本気よ……!」

 叫ぶレティに、リンディは首を横に振る。
 恐らく――いや、間違い無く彼等は本気だ。でなければ、本局へ攻撃なぞ仕掛けては来まい。

《なお、本局を中心として次元封鎖を行わせて貰った。次元転移で逃げようなどとは思わない事だ。残り、五分以内に我等は本局内に突入、占拠を開始する。それまでに結論を纏める事だ》
「五分……!?」
「交渉も何も受け付けないって事……!?」

 逃げ場も封じられ、対抗すべき戦力である次元航行艦隊は消滅。本局の魔導師も、そのほとんどが次元航行艦隊と運命を共にした。
 つまり今、本局に彼等と対抗する力はどこにも無い、と言う事である。

「リンディ、どうするの……?」
「……」

 その言葉に、リンディは何も答えられ無い。答えられる筈も無い。そして、約束の五分は過ぎ――。

 ――時空管理局本局は、ツァラ・トゥ・ストラへと降伏。占拠される事となった。

 
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