魔法少女 リリカルなのは StS,EXU
□第三十二話「背を預けし、悪友(とも)よ」(後編)
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「ほらほら〜〜。どないしたんや? 二人揃ってこの程度かいな?」
「むぅ〜〜」
「……ムカ」
クラナガンの空を交差する三条の光。スバルはその光を街中から見上げていた。
朱は獅童リズ。
蒼は獅童リゼ。
そして、二人に対峙するは銀。
なのはと同じ、栗色の髪をセミロングにした少女が、レイピア片手に獅童姉妹を手玉に取っていた。
「まったく……。リズもリゼも戦い方全然変わってへんやん? 天丼が許されるんわ、二回までやで?」
やれやれと少女が肩を竦める。ちなみに天丼とはお笑い用語で同じネタを二回繰り返す事を言う。
「……楓(かえで)お姉ちゃんみたいにお笑いばっかりよりマシだよ〜〜」
「……同意」
二人はそんな少女、楓の言葉に半眼になりながら反論する。確かにさっきからお笑いのネタがやけに多いような気は、スバルもしていた。そんな二人に楓は嘆息。再度、肩を竦めた。
「ふ……。誰がお笑いばっかりや。どこかのアホヘタレあ〜んど色ボケと一緒にするんやない。……お姉ちゃんは他にも考えてる事はちゃんとあるんや……!」
「「……っ!」」
まさかの返答に姉妹は息を飲む。それってまさか自分達を心配して……?
二人はそんな風に思った。
ちなみに余談だが、アホヘタレあ〜んど色ボケとは、現在無尽刀と掛け合いを行いながら戦う二人組の事である。本気で余談だが。
楓がぐっと拳を握りしめた。
姉妹が。スバルまでもが、その答えに息を飲む。
そして、楓が口を開く――!
「日々! 新作のお好み焼きと。……そしてタコ焼きの事も考えとるんやで!?」
『『知るか――――――――!!!』』
あまりにアホな回答にそれぞれ敵味方の枠を越え、口調すらも関係無く、スバルすらも含んで、ツッコミが楓に入った。
まさかの三方向からのツッコミに楓が思わず「ぬぉっ」と、呻くがそんな事は本気でどうでもいい。
「期待させといて〜〜」
「……激しく失望」
「それは無いですよ〜〜!」
姉妹はともかく普段はボケ(?)のスバルからのツッコミも珍しい。
あまりの三人の反応に、思わず楓はいたたまれずに頬を一つかく。
「……もしかしてウチ、スベった?」
三人共即座に首肯。スバルなぞ、二回も頷いていた。それにマジか……! と楓は戦く。そして重い、重い溜息を吐いた。
「……ウチの芸人としてのプライドが」
いや、あんた魔導師でしょ? と言うツッコミは三人が三人共避けた。なんか、怖い答えが返って来そうだったのが、その理由である。
楓はハァっ……と、再度の嘆息。そのままの姿勢で、右手をちゃきりと立てる。つまりはデバイスたるレイピアを。
「まぁ、ええか。十分経ったし」
「「……あ!」」
楓の台詞に姉妹な声をあげる。そんな二人に楓はニンマリと笑った。
「二人共、油断し過ぎや♪」
「ひ、卑怯! 卑怯だよ〜〜!」
「……同意!」
楓のニンマリ笑顔にリズも、珍しくリゼも声をあげる。しかし楓は得意気な顔のままだ。
一体、あの二人は何をあんなに動揺してるんだろう?
スバルはそう思うと、直後に答えは示された。
「な〜〜にが、卑怯や。二人共騙されるんが悪いんや」
「う〜〜! させない!」
−轟!−
次の瞬間、リズが朱嬢の翼を広げ、一気に飛び出す! 瞬間で楓の元まで駆け、右の巨拳を構える。そんなリズに楓はただ笑う。
「無駄やって。……シャドウ? 2nd、いって見よっか!」
【トランスファー!】
−戟!−
――音が鳴る。拳が叩き付け”合う”音が。そしてスバルは”それ”を見た。リズと楓を、二人が放つ。
――全く同じ形の”巨拳”を!
巨拳と巨拳は互いに、その拳を打ち付け合った体勢で停止。その結果にリズは呻き、楓はウィンクを投げる。
「アームドデバイス、ヘカトンケイル。70%までパクリ完了、や」
「う〜〜!」
リズが悔し気に楓を睨む。だが、楓はそれに構わない、ぐっと巨拳に力を込めた。
−撃!−
「わぁ〜〜!」
「ととっ! 危ないな〜〜」
楓のその動作で、二人共同時に吹き飛ぶ。数mの距離を持って、互いに停止。だが、楓の相対者はリズだけでは無い。
「……ホーリズ」
リゼの声が高らかに響く。その身に纏うかのように二十の光球が現れた。
しかし、楓はそれに初めて苦笑を見せる。
「やから無駄やって」
【トランスファー!】
シャドウの声が再び響く。同時にその姿が変わった――リゼの持つ”カドケィスと全く同じ姿に!” 更にその足元に展開するのは。
「嘘……」
スバルも思わず呻いてしまった。それはそうだろう。何せ今、楓が展開しているのは”ミッドチルダ式”の魔法陣である。
”先程までは、確かにカラバ式の魔法だったのに!”
よくよく考えてみれば先程のリズの一撃。あれはベルカ式では無かったか?
それと全く同じ一撃と言う事は、取りも直さず楓もベルカ式を使ったと言う事である。カラバ式、ミッド式、ベルカ式。楓はその三種を駆使してのけていた。
「ホーリーズ」
「……っ! レイ!」
楓が呟くその一言に、リゼはくっと奥歯を噛み締め、先んじて光球を撃ち放つ。楓に向かい来る光球。しかし、彼女はそれに、寧ろ笑顔を浮かべながらカドケィスとなったシャドウを差し向ける。
「レイ、と」
−弾、弾、弾、弾、弾−
−弾!−
光の花が咲く、楓の近くで。それは二十の光球が、同じ二十の光球とぶつかる事によって作られた花であった。
その結果に、リゼも姉と同じく歯を噛み締める。
光の花が消えた後には、楓が悠然と立っていた。
「――ん♪ 二人のパクリすんのも久しぶりやけど、上々やな」
ニパッと笑う楓に二人共、歯を噛み締める。そんな二人に楓はさぁと告げる。シャドウを更に変化させた。
”スバルのリボルバーナックルに”。
「へ!?」
いきなり楓の右手に顕れたリボルバーナックルに、スバルはつい自分のナックルを確認。そこにある母の形見の感触に思わずホッと息を吐く。
「いや〜〜。これ使い易そうやから、ついパクらせて貰ったわ。まぁ、パクリはお笑いの基本やし、許してな♪」
「え? あ、はい」
スバルの様子に苦笑して告げる楓の一言に、告げられるままにガクガク頷く。楓はそんなスバルにクスリと笑い、ついっと視線を正した。リズとリゼに。
二人は、楓の視線に少し身じろぐ。彼女の視線にはそれほどの力があった。
「……リズ、リゼ。そろそろ、おイタの時間は終わりや。きっつい説教、行くで?」
「「……楓お姉ちゃん」」
二人は楓の言葉に声を出し。しかし、ぐっと構えた、己がデバイスを。二人のそんな姿に楓は寧ろ、微笑んだ。
もう、言葉は無い。楓は動き。リズ、リゼも同じく動く。そして。
−撃!−
スバルが見る先で、互いに衝撃波を撒き散らし、衝突した。