魔法少女 リリカルなのは StS,EXU
□第三十一話「グノーシス」(後編)
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「リボルバ――――っ!」
「ゴルディアス〜〜!」
クラナガン市街地。そこで、スバルは高速で疾走していた。相対する敵はリズとリゼ。アルセイオ隊の二人である。
向かい来るスバルにリズもリゼの前に出て、その巨拳を振るう。
「キャノンっ!」
「インパクト〜〜!」
−撃!−
ぶつかり合う拳と拳。その威力により、衝撃波が巻き起こり、周囲を揺るがせる。
−破−
「っ!」
「わ〜〜」
そして互いに弾き飛ばされた。聖域での戦いと同じだ――否、違う。前はスバルの方が吹き飛んでいたが、今回その距離は離されていない。力負けしていないのだ。
フル・ドライブ、ギア・エクセリオンの効果故だ。しかし、スバルの敵は彼女だけでは無い。
「……レイ」
−発!−
静かな声と共に放たれた光球。リゼの射撃魔法だ。総計二十五の弾幕。それが、スバルに迷い無く突き進む。
「っのォ!」
【キャリバーシュート・ライト!】
スバルは弾き飛ばされた体勢から、左に身を捻ると、右蹴りを宙空に向かい放った。
−轟−
蹴りから衝撃波が飛ぶ。リゼから放たれた光球はそれに減衰させられた。スバルはそのままウィングロードを発動し、空へと駆けようとする――が。
−閃!−
「くぅっ!」
スバルは伸びてきた指槍にウィングロードの発動を中断。プロテクションで指槍を弾く。
そう、スバルの相手は獅童姉妹だけては無い。感染者によるヒトガタ、つまり因子兵もまたスバルの相対する存在であった。
スバルはプロテクションを発動したまま地面に着地。そして、プロテクションを維持したまま因子兵に突っ込む。直後。
−轟!−
「むぅ〜〜。避けられた〜〜」
スバルが居た場所に巨拳が突き刺さった。リズだ。
さらにリゼも新たな光球を放つ。光球はまたもスバルを追うが、これはスバルも予想していた。”だから”因子兵に突っ込んだのだ。
ちょっと前にやけに集団戦闘は苦手な癖に、多数の敵を一人で相手をするのにやたらと長けていた少年から聞いた事がある。
多対一の時に最も重要な事は何かを。少年はこう答えた。
『多対一での戦いだと、1番重要なのは、如何にして一対一×?数にするかだな』
それに疑問符を浮かべる自分に少年は苦笑した。
『いいか? 例を上げるとして、百人の敵が一斉にこちらに襲い掛かった場合。まともにぶつかりゃあ負けるだけだろ? 数の暴力ってのはある意味絶対だ。……たまにそう言った常識を笑って蹴散らす非常識人間達もいるけど』
先生’Sやウチの兄貴’Sとかな? と、少年はうそぶく。
『んで。そんな非常識人間じゃない場合、どうするか? 答えがさっき言った一対一×?数ってやつだ』
つまり、と少年は言う。
一対百が無理ならば。一対一の状況を作り出せばいいだけだと。
『そうすりゃあ、後はそれを百回繰り返せばいいだけだ。……あン? そんな状況に持っていくのがまず無理? なら負けるだけだな。いいか?』
少年はニッと笑う。そして、そのまま続きの言葉を紡いだ。
『そもそも百対一って状況がほとんど絶望的なんだ。こっちに勝てる要素なんて無いんだからな。だから、死にものぐるいで勝てる要素を”作り出せ”。どんだけ汚い手でもいい。使えるモノは猫の手だろうと犬の尻尾だろうと、”敵自身”だろうと構わない。使い倒せ。そうやって初めて絶望的な状況で勝機が見えて来るんだからな。以上』
スバルはその言葉をこの戦いの最中に思い出していた。それをあっさりと常識扱いしていた少年。シオンは絶対に非常識人間の側だとは思ったが。
――だから。まずはその状況作りから、である。
……使えるモノは何でも!
そう思い、スバルは突っ込む。因子兵の集団の中に!
攻撃はしない。因子兵の攻撃を防御するだけだ。何せ因子兵には――。
「むぅ〜〜!」
「……邪魔」
直後、因子兵がぶっ飛ばされ始めた。獅童姉妹の仕業である。それにスバルはホッとする。
正直、上手くいくか分からなかったのだ。この作戦が。
そう、因子兵には盾になって貰っているのだ。これならばリゼの射撃魔法は、因子兵が盾になって意味がなくなるし、リズも自慢の巨拳を振るう事が出来なくなる。容赦無く因子兵をぶっ飛ばすとは、スバルも予想してはいなかったが。
これで!
スバルは未だ指槍や因子兵自体を弾いてるプロテクションを維持したままUターン。マッハ・キャリバーが唸り、疾走開始! 向かう先は――。
「……っ!」
「リゼちゃんっ!」
――気付かれた。しかし、遅い!
【ショットガン・キャリバーシュート!】
高らかにマッハキャリバーが吠える。同時にスバルは因子兵の群れから飛び出し、身体を横回転させた。
−撃!−
右の蹴りがリゼに叩き込まれる。しかし、リゼはプロテクションでそれを止めた――スバルは構わない。回転を続行する。
−撃−
−撃、撃、撃、撃、撃−
−撃!−
回転と共に連続で放たれていく蹴りがリゼのプロテクションを削っていく。リズがそれを見てリゼを助けんと駆け出し、因子兵もスバルに突っ込んで来る。
しかし、スバルはそれら”全て”を意識から外した。今、やらねばならない事は。
「リボルバ――――!」
カートリッジロード。リボルバーナックルから空薬莢が飛び出す。
そう、今やらねばならない事はリゼの打倒。他は全て後回し!
そしてスバルはショットガンの回転エネルギー全てを乗せた拳をリゼに叩き込む!
「マグナムっ!」
−轟!−
本来のキャノンより遥かに激烈な威力を持って放たれる一撃に、リゼのプロテクションが悲鳴をあげた。そして――。
−壊!−
――砕けた。硝子が割れるかのような音と共にプロテクションが。リゼが驚きに目を見開き、スバルは止まらない。
プロテクションを砕いた右のナックルをそのままリゼに叩きつける!
−撃!−
一撃をもろに受けたリゼが吹き飛ぶ。地面と平行に飛び、瓦礫の中へと突っ込んだ。
「リゼちゃん!?」
リズが悲鳴を上げ――。
「あぁぁぁっ!」
――スバルは止まらない!
マグナムを放った姿勢から地面に着地と同時に一気にリズに突っ込む。リズもそれに気付き、巨拳を構えた。
スバルはそれを見て、しかし構わない。左の掌を掲げる。その中央に生まれる光球――スバルは止まらず、リズに真っ直ぐ突っ込む。
「ディバインっ!」
カートリッジロード。そしてナックルを左の光球に叩き込み、膜のように広がった光が、スバルの全身を覆う!
「え〜〜……っ!」
「ブレイカ――――!」
−轟!−
魔法の術式から砲撃と判断していたリズが驚きの声と共にシールドを張る。スバルはその中央に光を纏い、突き出した拳を迷い無く叩きつけた。
−撃!−
シールドに突き立つ光拳! マッハキャリバーが唸りを上げる。
「うぅりゃああぁぁぁ……っ!」
「んぅううぅぅ〜〜……!」
拮抗する両者。辺りに光が弾け、紫雷が踊る――そして。
−砕!−
決着は訪れた。砕けたのだ、シールドが。リズも妹と同じく目を見開き、スバルは先程と同じく止まらない。リズに突っ込む!
−撃!−
光を纏うスバルはリズを文字通り轢き飛ばした。轢かれたリズは上空に回転しながら弾き飛び、地面に叩きつけられる。
−激!−
およそ人が地面にぶつかったとは、到底思えない音が響いた。スバルは思わず、うわっちゃあ……! と、呻く。一応、非殺傷設定ではある――が。
やり過ぎたかも……。
内心そう思う。かも、では無く完全にやり過ぎではあるが、スバルも止まる訳には行かない。
何せまだ因子兵がゴマンと居て、スバルに向かって来ているのだ。折角、獅童姉妹をKOしたのにここでやられては元も子も無くなる。
【ウィングロード!】
故にスバルは即座に撤退を選んだ。光の道が空に走り、スバルはその上を駆ける。一旦空に逃げられたら、姉妹が気付いても大丈夫な筈であった。
スバルはあの二人が空を飛んでいた事を見た事が無い。故に飛べ無いと判断したのだ。今なら距離も稼げる。
因子兵も空は飛べないのだろう。地上にはわらわら居るくせに空には一匹もいない。
これならいける!
スバルはそのままウィングロードの上を駆けた。これなら逃げられると。そして。
「……リゼちゃん。起きてる〜〜?」
「……起きてる」
「あの娘、行っちゃったね〜〜?」
「……うん」
「怒られるかな?」
「……多分」
「怒られるの嫌だね〜〜?」
「……嫌」
「なら〜〜」
「……うん」
「「”本気”を出そうよ」」
――次の瞬間、スバルの脇を、背後から何かが駆け抜けた。
……え?
スバルはそれに疑問符を抱き、それを見た。
――人、二人の人間だ。
獅童リズと、獅童リゼの二人。しかし、二人は先程とは全然違っていた。
鎧。そう、鎧だ。傍から見るとそれは明らかな鎧だった。
リズが朱。
リゼが蒼。
その鎧は二人の胸や腰、肩等にバリア・ジャケット越しに装備されていた。そして何より、その背中からは”翼”が生まれていた。
鎧から出ている翼だ。当然金属で出来ている。だが、二人は今、明らかに空を飛んでいた。
「飛ぶよ、朱嬢(ツイノーバ・フローレン)〜〜」
「……飛びなさい、蒼嬢(ブラウ・フローレン)」
朱嬢と蒼嬢。それがその鎧の名前なのか。驚いたまま固まっていたスバルは、ハッと我を取り戻し、慌てて下にウィングロードを向ける。
理由は簡単。空を飛べる者に、空に道を作って走る者では絶対に勝てないのだ。
機動性と動きの自由度、その全てで劣っているのだから。
そんなスバルに二人は、くるりと上空を旋回。直後に猛烈な速度を持ってスバルに襲い掛かる。
「逃がさな〜〜い」
「……今度こそ、終わり」
「くっ……!」
一気に追い付かれた。しかも挟み討ちだ。スバルは呻く。いっそ飛び降りる事も考え――それを実行する前に二人は動いた。
リゼから螺旋を描く杖、カドケゥスが向けられる。
「……インパルス」
「っ……!」
響く声。そして差し向けられた杖の先端に集う光にスバルは左手を突き出した。
トライ・シールドだ。しかし、リゼはそんな防御に構わなかった。
「ブラスト」
−轟!−
直後に光砲がシールドに叩きつけられた。光の奔流にスバルは呻く。そして。
「じゃじゃ〜〜ん。行っくよ〜〜!」
「くっ……!」
反対から響くリズの声に振り向く。彼女は、右の拳をスバルに向けていた。だが、スバルは砲撃を受けている真っ最中である。下手に近付けばリズも巻き込まれるだけだ。ならば果たしてどうすると言うのか。
そう思った瞬間、答えが来た。
「ロケット、パ〜〜ンチ。なんちて!」
−破!−
――飛んで来た。”拳だけ”が! スバルはそれに驚きの声すらも上げられず。ただ目を見開き、直後。
「そりゃ、ロケット○ンチやのうて、ブロウクン・○グナムやろ――――!」
「へぶっ!?」
ハリセンがリズの頭を盛大にはたきのめした。
「……へ?」
「……嘘」
スバルがあんまりな出来事にポカンとなり。リゼは何故かうろたえている。ハリセンを右手に持つのは少女だった。栗色の髪をセミロングにしている、活発そうな少女である。スバルと同い年か、ちょっと年上か。少女はニンマリと笑うとハリセンを掲げた。
「全く。三年も経ってこの程度のボケしかでけへんなんて、お姉ちゃんは悲しいで!」
「お笑いの修業に出てたんじゃないもん〜〜!」
「……同意」
獅童姉妹が、ブーブーと文句を言うが、少女は「やっかましぃわ!」と一喝。それだけで姉妹の文句は止まった。
「取り敢えず、はたきのめして二人共連れ帰るで? 全く、一から修業し直さんと」
「「だから〜〜」」
「文句があるなら聞くで? 勿論、これでな」
そう告げ少女は姉妹にハリセンを突き付ける。姉妹の表情が険しくなった。少女はそんな姉妹にくすりと笑う――。
「さぁ、行くで?」
直後、少女は姉妹へと真っ直ぐに突っ込んだのだった。