魔法少女 リリカルなのは StS,EXU
□第三十一話「グノーシス」(前編)
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−撃!−
「っ――!」
放たれた剣群。それ等にシオンは内心悲鳴を上げながら、空中に足場を展開。瞬動で縦横無尽に、駆け回りながら回避に努めた――否、回避に努めざるを得なかった。剣群の量が、あまりに多過ぎて!
「どうしたぁ! 坊主!!」
「おっちゃんっ!」
叫び、更に追加で放たれる剣群。今か今かと放たれる事を待つ剣群に、シオンは顔を青ざめさせた。しかし――。
「っ!」
――前進する。時に足場を踏み、時に放たれた剣を踏み、前へ、前へと進んで行く。
「はは。やるじゃあねぇかよ? なら……」
笑い、アルセイオが右手を掲げる。次の瞬間、辺りの微粒子を魔力が束ね、一本の剣を形成した。五十m超の極剣を!
「ぐ……っ!」
「これならどうよ!?」
吠え、極剣を振りかぶると同時に前に踏み出し。
−轟!−
アルセイオは極剣を投擲した。極剣は即座に音速超過。空気をぶち抜き、シオンへと迷い無く突き進む。
「こっの……!」
シオンは顔を歪め、呻いた。回避しようにも周りには大剣の軍勢。一撃一撃が剣魔に匹敵するという冗談のような攻撃だ。
そして向かい来る極剣である。一見無造作に思わせる投擲だったが、完全に計算し尽くされた攻撃だ。シオンの回避性能を鑑みて放たれている。今のままでは回避は不可能だ。直撃を貰う事になる――そう、今のままならば。
「セレクト、ブレイズっ!」
【トランスファー!】
シオンとイクスが同時に吠える。瞬間でブレイズへと戦技変換。近場の大剣を足場に身を捻り、瞬動開始。直後に極剣がシオンの眼前に迫った。
「っおら!」
眼前の極剣を前にシオンは踏み込み、大剣がそれだけで砕ける。それは同時に一つの事を意味していた。
則ち、シオンは極剣に対して踏み込んだのだ。既に、目の前にある極剣に踏み込みながら身体を背ける!
「お……」
アルセイオが感心の声をあげる。その時点でシオンは極剣を回避していた。
「っぅ!」
自らの脇を掠める極剣に、シオンが顔をしかめる。だが、何とか回避出来た。
槍に対して地を丸太橋と思え、と言われる。反復横飛びを連想して欲しい。いくら早く見えようとも必ず左右に避け続けようとするならば、溜めが必要になる。
一方向に回避し続けようとするならばさらに致命的だ。動きを見極められたら、その時点でアウトだ。
なら、どうすればよいか――それはシオンが証明している。
踏み込むのだ、前に。
だが、これが並大抵の事では無い。なにせ、向かって来る槍(この場合は極剣)に対して自分から踏み込むのだから。
ここに必要なのは技術でも何でもない。要るのは向かい来る攻撃に自分から踏み込む勇気であった。
アルセイオが感心の声を上げたのはこの為だ。
シオンが真上を、アルセイオを睨む。極剣をギリギリで躱した事はここでも一つの意味を得た。つまり、極剣が通り過ぎた後の空間はアルセイオまで剣群が無かったのだ。道が出来ていたのである。
シオンがぐっと、歯を噛み締め、アルセイオが薄く笑う。
−ソードメイカー・ラハブ−
−ブレイド・オン−
響くは二つのキースペル。そして、やはり二人は同時に動いた。
アルセイオは、その背に再び剣群を。シオンは瞬動で一気に踏み込みを。
−轟!−
直後、アルセイオは剣群を放ち、シオンは踏み込みと共に駆け出した。迫り来る剣群の第二斉射。それを眼に収めながらも、シオンは愚直に前進する。
「お……」
声をあげる。迫り来る剣群を前に、足場を踏む力を更に込め、前へと身体を倒す。
「おぉぉぉっ!」
吠える。同時に剣群が来た。だが、シオンは構わない。剣群の真っ只中に突っ込む!
−轟!−
前進する。
前進する。
剣群をくぐり抜け、逆に足場へと利用して――それでも向かい来る剣群達は止まらない。視界を埋め尽くす剣群を、シオンはくぐり抜けて行く。そして。
「っ――しゃあっ!」
抜けた。視界から剣群が消え、アルセイオの姿を捕らえた。その距離、僅か五m。シオンは歓声を上げ、そして止まらない。アルセイオへと突っ込む。
アルセイオもまた応えるかのように右手に赤の長剣を握る。魔剣、ダインスレイフを。
シオンはブレイズを維持し、双剣を構える。突っ込むシオンにアルセイオはダインスレイフを構え。
そして宙空で長剣と双剣がぶつかり合う!
−戟!−
クラナガンより離れた海で、魔剣と聖剣は再びの対峙を果たしたのだった。