魔法少女 リリカルなのは StS,EXU

□第三十話「反逆せしもの」(前編)
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 XV級次元航行艦レスタナーシア。その艦長である、グリム・アーチル提督は傲慢で知られている。
 自分が正しいと思えば、皆全て正しいと思う傾向にあるのだ。その思考を肯定できないものをグリムは認めない。
 これが、はやてやアースラ隊を認めない原因でもあるのだが。つまる所は傲顔不遜なのである……しかし。

「…………」
《面を上げよ》
「は、ハハっ!」

 レスタナーシアのブリッジに映るモニター。その中の男にグリムは膝をつき、頭を垂れていた。
 グリムが、である。
 彼は心底モニターに映る男に敬服していた。故に管理局すらも裏切ったのだ。いや、管理局内部にすらもこの男の影響は及んでいる。
 その一人がグリムでもある。それだけの話しだ。
 グリムは言われた通りに顔を上げ、モニターの男に向き直る。
 四十前半くらいの男だろうか。かなり大柄な男であった。おそらくは2mを越えている。
 そして分厚い筋肉の装甲で覆われたその体には黒と各部を銀の縁で彩った服装を着ている。間違いなくバリアジャケットだ。その男は、グリムに鋭い視線を送りながら口を開く。

《実験は順調か?》
「ハ。既に”因子兵”の実験は成功しております。こちらの制御も96%の状態を維持出来ております」
《100では無いのか?》
「い、いえ。何分、因子を使ったモノ達。少しばかりコントロールが……」

 一気に強まる男の圧力に、グリムは冷や汗を滝のように流しながら答える。
 機嫌を損ねれば何を起こすか分からないからだ。グリムの言葉を聞き、男は鷹揚に頷いた。

《……よい。後は新型の機械兵が補おう》
「ハ。では――」

 男の声にグリムは顔をあげる。再び男は頷いた。

《うむ。今日、この時をもって、我等は管理局に宣戦を告げる》
「お、おお。ついに……!」

 グリムは感激に顔を綻ばせながら答える。それは、グリムが待ちに待っていた言葉だからだ。

《うむ。その上でグリムよ、貴様に命を下す》
「ハ、なんなりとお申しつけを」
《因子兵一万。機械兵群二万を与える。ミッドチルダを攻め落としてみせよ》
「……ハ!」

 つまり一番槍が自分に与えられた訳だ。グリムの笑みはさらに深くなる。

《貴様が地上を攻めておる間に、我等は本局を落とす。例の部隊を地上に引き付ける事。それが貴様の役目だ》
「――落としても構わないので?」

 それが不遜であると理解していながらグリムはあえて問う。男はそれに笑った。

《構わん。好きにせよ》
「ハッ!」

 その答えにグリムは笑いをあげる事を必死に堪えた。これで漸く、自らの復讐を始められるのだ、と。男は更に続ける。

《こちらからは無尽刀を送る。好きに使え》
「奴を、ですか? しかし……」

 その言葉にグリムは少し迷う。
 無尽刀、つまりアルセイオは、先日任務を失敗したばかりである。
 いくらイレギュラーがあったとしても、二度の失敗は許しがたかったのだが――。

《奴と私はそれなりに付き合いが深い。心配する必要は無い》
「ハッ。承知しました」
《うむ。ではな。グリム・アーチル。戦果を期待している》

 その言葉と共に画面がブラックアウトする。通信が切れたのだ。
 それを確認するとグリムは立ち上がる。

「進路をミッドチルダに向けろ」
「了解です……いよいよですね、提督」
「ああ……漸く、だ」

 管制官の言葉にグリムは頷く。その目は場違いながら――ようやく成すべき事を成せると輝いていようにも見えた。懐から二枚の写真を取り出す。それを見遣りながら、ふっと笑った。

「裁きの時だ、愚か者達の、な」

 そしてレスタナーシアはミッドチルダに向かった。
 数多の災厄を満載して、反乱の狼煙を上げる為に。

 
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