魔法少女 リリカルなのは StS,EXU

□第二十九話「一つの出会い、一つの別れ」(後編)
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【では、語ろうか。シオンについて、タカトについて、俺が知る、全てを】

 イクスの言葉に皆が少し息を飲む。それぞれ席に着いた。

【まずはおさらいからいこう。タカトの目的について、だ】
「……そやね。伊織タカトの目的は事象創造魔法である創誕の発動。それを持ってしての2年前への世界のやり直し、や……それで間違い無いん?」
「はい」

 イクスの言葉を引き継ぎ、はやてがシオンに確認する。シオンはそれに頷き、過去を一緒に見たスバル、ティアナもまた頷いた。はやてはそのままイクスに向き直る。

「そんで、彼が感染者を狩る理由もそこにあるんやな?」
【創誕に関しては俺も情報が全く無いので断言は出来ないが……タカトはそう言っていたのだろう?】
「あ、うん」

 イクスに問われ、なのはが頷く。
 確かに、タカトはそう言っていた。もし、世界をやり直す魔法があって、それに相応の意思が必要だとするならば、と。

「でも、それなら感染者にこだわる必要って無いんじゃないかな……?」

 フェイトから疑問が発っせられた。確かにその通りである。ただ意思が足りないならばそこらの一般人を襲えばいいだけだ。

「タカトの右手に融合した666の能力は”略奪”だったね?」
【確かな。ならそこら辺が関係しているとみるべきか?】
「そもそもさ」

 シオンが声をあげ、イクスに向き直る。それにイクスはシオンに視線を向けた。

「何で、俺は意識を保ってるんだよ。普通に考えたら俺も略奪されてるだろ?」

 シオンは自身の胸を親指で突きながら問う。
 そう、シオンは計三回も刻印が刻まれていた。普通なら略奪でその意思を奪うのが普通と言える。その言葉に、イクスが唸る。
 そしてトウヤに視線を巡らせた。トウヤはそれを見て暫く逡巡。しかし、イクスに頷いた。

「……何だよ?」
【それに関しては色々事情があるんだが――そうだな、先に言っておこう。お前自身の秘密について】
「俺の?」
【ああ。グノーシスでも封印指定、つまりトップシークレットの情報となる。ここにいる者は決して口外しないで欲しい】

 イクスが一同の顔をずらりと見回す。急に大きくなる話しに、一同は息を飲み、しかし、しっかりと頷いた。イクスはそれを確認して頷く。

【シオン。今現在、お前には真名支配で封印が施されている】
「……は?」

 いきなり告げられた言葉にシオンは目を丸くする。イクスはその反応に構わず続けた。

【これはお前が産まれてすぐに施されたものだ。そしてタカトがお前の意思を略奪出来ないのもそれが原因だろう……シオン、お前はな】

 少しだけ言葉を止める。そしてシオンの瞳を真っ直ぐに見据え、言葉を紡いだ。

【タカトと同類……生まれながらの滅鬼、なんだよ】

 そう、イクスはきっぱりと言い放った。
 それにシオンは頭を押さえ、こめかみを指でぐりぐりする。いきなり過ぎる話しで全然ついていけないのだ。
 そんなシオンに苦笑し、トウヤがイクスの言葉を引き継ぐ。

「この世界の意思を持つ存在。つまりは生命体だが、これには必ず”霊格”と言うものが存在するのだよ。一種の格付けみたいなものだね」

 そう言いながらトウヤは手元にコンソールを展開、データを打ち込む。直後にウィンドウがテーブルの中央に表示された。

「大体ではあるが、霊格に比例して意思はその大きさが上がるとされる。まぁ、例外は山ほどあるのだがね。それで霊格の順位はこんなものだ」

 表示されたウィンドウにデータが並ぶ。そこには上から。

     神
    精霊・龍
     竜
    幻想種
     人

 と、書かれていた。

「まぁ、これはおおざっぱな分け方だがね。大体はこんな格付けとなっている。さて、我々は当然人だ。故に当然霊格は人になる訳だが――時にこれに例外が発生する。人でありながら人以上の霊格を持って産まれてしまう場合が、ね。その例外がタカトであり、シオン、お前だ」
「……えっと」
【詰まる所、お前は人以上の霊格を持って産まれてしまった、と言うだけの話しだ。数が多い訳では無いが、人以上の霊格を持つ者はいない訳ではない。竜並の霊格の持ち主は当然居るしな。ただ、お前とタカトは例外の中の例外だった】

 イクスは宙に浮かび、ウィンドウの前まで移動する。そしてウィンドウのある部分を指差した。

【お前とタカトの霊格は此処だ】
「……は?」

 もう何度目となるか解らない疑問の声をシオンはあげる。イクスが指差した部分は、順位の最上段だったからだ。
 神の部分にイクスは指を差していた。

【お前やタカトは産まれながらに霊格が神と同レベルだったんだ。故に因子――いや、アンラマンユと言い直そう。神クラスの霊格二つをタカトは自身には取り込め無かった訳だな】

 一旦感染すると意思自体は因子と融合する。これと同じ現象がシオンの中で生じたのだろう、とイクスは告げる。
 つまりシオンは今、神二つ分の霊格となってしまっている事になる。

「でも、何で俺に封印なんて?」
【……封印を決断したのはお前の母。アサギだ】
「母さんが?」

 その答えにシオンは目を丸くする。そして、イクスは腕組みをして頷いた。

【ああ。霊格が巨大と言う事はそれに比例して、絶大な魔力量を所有する。だが、お前の身体はそれに耐えられなかったんだ。聞いた事は無いか? お前が赤子の頃、身体が弱かった事を】
「あ……」

 イクスの言葉にシオンは昔、母に聞いた事を思い出した。曰く、よく熱を出しては病院に行っていたらしい。

【そして、封印せねばならない理由はもう一つあった。下手に周りにお前の事が知られると厄介な事になりかねなかったのだ】
「……厄介?」

 イクスはああと頷く。そのままテーブルの上へと降り立った。

【お前の事が知られるとお前を生体兵器や実験動物扱いする輩が出ないとも限らなかった】
「いや、そんな大袈裟な――」
【前例がある。伊織タカトというな】

 その言葉に、今度こそシオンは完全に絶句した。
 タカトは幼少期、まだ感情すらも芽生えていない時期から命を狙われ、揚句の果てに地獄に送られている。シオンがタカトと同類と言うならば、それこそ同様の事が起きたことだろう。

【タカトの話しはアサギも聞いていたからな。だから危機感を覚えたのだろう。タカト自身を探しがてら、お前の霊格を封印し、ある程度霊格を落としたんだ】
「そっか……」

 イクスの言葉にシオンは黙り込む。あまりに実感が湧かない事だ。
 だが、合点がいく事もあった。各戦技変換を習得したとき、イクスが封印が解けたと言った意味を。つまりあれは自身にかけられた封印だった訳だ。

「ああ、こっちも質問ええか? イクス」
【ああ、構わない】

 はやてが挙手と共にイクスに声を掛ける。彼も頷き、彼女に向き直った。

「シオン君に封印をかけた意味は解ったんやけど……伊織タカトにはなんで封印をかけてないんや?」
【かけてるぞ?】

 即答する。は? と一同その答えに唖然とするが、イクスは構わない。続ける。

【これも後で話そうと思った事だが、タカトにも封印は施されている。奴の右手の手甲、まるで拘束具のようだろう? あれは真名を織り込んだ封印具でな。あれで普段の霊格を二つ程下げている。あれがなければタカトは霊格が神化してしまい、あたりに災害を撒き散らすからな】
「ええっと、具体的にはどんな?」

 冷や汗が一筋頬を流れていく事を自覚しつつ、なのはが問う。それにイクスはフムと頷いた。

【うっかり視線を合わすだけで相手を呪ったり、世界が軋みを上げたり。戦闘行動を取るとさらに被害は拡大するな。例えば次元震だとか】
「「「あ」」」

 その言葉を聞き、なのは、フェイト、はやてが声をあげる。そして、そのままトウヤへと目を向けた。視線を集めた彼は、フウと嘆息する。

「アースラにタカトが攻め込んで来て、私と戦った時に、あいつは封印を解いている。あの時の次元震は、それが原因だね」

 あっさりと答えられた。それに一同はハァと溜息を吐く。なんともスケールの大きい話しである。

【現状、出力だけならばタカトはその能力の一割も出ていない。これはシオンにも共通する事だがな】
「て、ちょっと待て! なら俺の封印、完全に解けたらタカ兄ぃに……!」
【死ぬぞ】

 シオンに皆まで言わせずに、イクスは断言する。あまりにきっぱりと言われ、シオンは呆然とした。

【何の為に封印を多重に施したと思っている。お前が死なない為にだぞ?】
「いや、でも――そうだ! ならなんでタカ兄ぃは大丈夫なんだよ?」

 一瞬だけ気圧され、しかしシオンは立ち直るとそのまま問い直した。イクスはそれに再び頷く。

【タカトにあってお前に足りないものがある。つまり、神化した霊格をほぼ完全に制御しうるだけの莫大な意思力だ】
「っ――」

 イクスの言葉にシオンは再び絶句する。しかし、やはりイクスは構わない。

【何故あいつが幼少期に自分の霊格に潰されなかったか解るか? あいつは自身の霊格を、力を、ほぼ完全に制御出来ていたからだ。封印は漏れ出す”余波”を押さえるために使っているに過ぎない】
「俺の意思力が弱いって事か……?」
【タカトに比べれば、な】

 イクスの答えにシオンは視線を下に落とし、うなだれた。唇を噛む。

「「……シオン」」
「大丈夫」

 スバル、ティアナから声がかかるが、それにシオンは少しだけ微笑む。顔をあげた。

「……もう一つ聞きたい事がある」
【何だ?】

 尋ねるイクスに、シオンは頷く。そして口を開いた。

「俺の真名についてだ。……イクスやトウヤ兄ぃは知ってんのか?」
【一応は、な】
「ああ、知っているとも」

 シオンの問いに二人は頷く。ならばとシオンは続ける。

「アンラマンユの真名については?」
【……何?】

 ここで初めてイクスが驚きの声をあげる。トウヤもまた目を軽く見開いていた。

「……知らないみたいだな」
【どう言う事だ? シオン】

 逆にシオンにイクスは問う。シオンはそれに頷いた。

「ココロの中で、アンラマンユと対峙して、あいつが消える時、あいつは自分の事をこう言ったんだ。カイン・アンラマンユって。そして俺の事を、アベル・スプタマンユって呼んだんだ」
【…………】

 今度はイクスが黙り込んだ。驚きに、目を見張って。
 トウヤはまだ若干冷静だったらしい。フムと頷く。

「……カインとアベル。旧約聖書に於ける、アダムとイヴの最初の子供だね?」
「……そうなん?」

 はやてが問い直し、トウヤは頷く。そのまま続ける。

「そしてアンラマンユとスプタマンユはゾロアスター神話、または拝火教とも呼ばれる神話に於ける二律神だ。前者は悪を、後者は善を表わしていた筈だね? イクス」
【あ、ああ……】

 頷く。しかし声には動揺が混ざったままだ。そのまま考え込む。

【……七ツの大罪、そして原罪。アヴェンジャーとの符合点があり過ぎる……?】
「イクス?」
【……っ。あ、ああ、済まない】

 シオンに声をかけられ、ハッとイクスは我を取り戻した。居住まいを正す。

 
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