魔法少女 リリカルなのは StS,EXU

□第二十九話「一つの出会い、一つの別れ」(前編)
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 聖域での戦い、シオンが感染者化した戦いから一日経つ。アースラは時空管理局本局に戻っていた。そして、シオンはある場所に居た。
 本局の一室、医療部の検査室だ。
 まるでカプセルを思わせる寝台に上半身裸で横たわり、目を閉じている。そのシオンがいる部屋を二階の窓から見ている女性達が居た。
 八神はやて。フェイト・T・ハラオウン。高町なのは。そして、技術部のマリーことマリエル・アテンザである。
 マリーがコンソールを操作し、ウィンドウと睨めっこする。そして、ウィンドウを閉じ、眼鏡を外してフゥと息をついた。

「マリーさん、お疲れ様です」
「あー、うん。なのはちゃんありがとう〜〜」

 なのはが差し出すカップに入ったコーヒーを受け取り、ちびりちびりと飲む。半分程飲むとカップを机の上に置いた。

「それでマリーさん、シオンの検査結果は……」

 機を見計らってフェイトが尋ねる。それにマリーは少しだけうん〜〜と、唸った。

「……検査結果、芳しく無かったんですか?」
「あ、いや、そうじゃないの。検査結果は問題なし」
「そうなんですか?」
「うん。ただ……」

 マリーが言い淀む。眼鏡を再びかけた。

「この子、本当に人間?」
「え? に、人間かって……?」

 マリーから告げられた疑問に戸惑うなのは。フェイトもはやても同様に目を白黒させている。
 三人の反応にマリーは頷き、コンソールを操作。ウィンドウを展開する。
 そこにはシオンの身体データがこと細かに記されていた。

「彼を精密検査する為に身体データを細かく取って見たんだけど……もう、メチャクチャなの」
「それって、シオン君が感染者だったのと?」
「ううん、それとはまた別」

 なのはの言葉にマリーは首を振る。さらにコンソールを叩き、ウィンドウにデータが表示された。

「呼吸数、心拍数、すべてのバイタルがメチャクチャなの。低いの、異様に。結論から先に言っちゃうと、こんな数値を出すくせに動けたり――まして戦闘なんて出来る人は、人類とは言えないの。……少なくとも私が学んだ医学じゃあ」
「は、はぁ……?」

 一気にまくし立てられる。しかし、なのはとしてもマリーが言わんとしている事が今いち分からなかった。
 だが、彼女は知らない。自分の家族である、父、高町士郎や、兄、高町恭也がシオンと同じような身体データをしている事を。マリーはそのまま続ける。

「この子、いつもどんな事やってるの?」
「と、言うと?」
「特殊な訓練とか、何かおかしな武術とか」
「あ……そう言えばシオン君、とんでもない修練やっとったな」
「修練? はやてちゃん、よかったら詳しく教えて?」

 はやては頷くと、いつか見たシオンの異様過ぎる修練を説明する。
 今の今までシオンの修練を知らなかったなのはやフェイトも説明を聞いて顔を引き攣らせた。
 ”あの”修練である。聞いた方は絶句して然りと言えた。
 しかし、マリーは至ってフムフムと頷くだけである。
 はやての説明を聞き終えると、マリーは少しだけ考え込み、再びウィンドウに目を向けた。

「う〜〜ん、だとしたらやっぱり」
「あの、マリーさん?」
「あ、ごめんごめん。つまりね? 呼吸法なんだと思う」
「「「……?」」」

 マリーの指摘になのは達は首を傾げる。彼女はチャッと眼鏡の位置を直した。
 だが、それにより部屋の光りを眼鏡が反射して、やけにマッドぽく見えてしまう――が、あえて三人はそれを指摘する事をやめた。

「人間の体なんて、所詮は蛋白質分子機械の集合体なの。新陳代謝と言う一種の化学反応と、ホルモンて言う名前のドラッグで動いてる。だから呼吸数や心拍数がメチャクチャでもエネルギー総量が同じなら死ぬことなんて無いの。極論だけどね」
「「「……は、はぁ……?」」」

 マリーが再びまくし立てるが、先程と同じくなのは達は疑問符を頭上に躍らせるだけだ。ぶっちゃけ分からない。
 だがマリーは構わずウィンドウに、そしてシオンに視線を向け、フフフと笑う。

「興味深いな〜〜。ある意味、用い方が近代的だし。詳しく調べれば――」
「あの〜〜」

 なのはが声をかけるが既に遠い世界にイってしまったマリーには声が届かない。
 三人は顔を見合わせると盛大に溜息を吐いた。

「……とりあえずシオン君は心配いらんって事やな」
「うん、多分」
「にゃははは……」

 笑い声にまで力が無い。再び深い溜息を吐くと、そのままマリーの脇を抜け、コンソールを操作する。

「シオン君、お疲れ様。もういいよ」
《やっとですか……》

 パチリと下でシオンが目を見開く。そのまま寝台を下りた。

「うん、お疲れ様。また後で呼ぶ事になるけど」
《はい、大丈夫です》

 頷くとテキパキと上着を着ていく。
 ちなみにシオンは嘱託魔導師である為、基本管理局の制服を持たない。だが私服で艦内や本局をうろちょろとさせていられないので、武装隊の上着をはやてが貸与していた。
 黒の武装隊上着である。それを着終わると、そのまま部屋を出ていった。

「……さて、この後はカリムん所で、やな」
「イクスから話しがあるんだよね?」
「うん。……シオン君について色々聞かなきゃいけない、ね」

 三人は互いの顔を見遣り頷く――ちなみにイクスも現在検査の真っ最中であったりもする。何せ、イレギュラーなユニゾンであったのだ。念には念を押すのに越した事は無い――閑話休題。
 ともあれ昨日、各員からの報告を受けた後で、いきなりイクスから話したい事があると提案されたのである。なのは達としても聞きたい事、聞かねばならない事が山積みだったので、渡りに舟であった。

「うん。それじゃあ、準備しよかー」
「そうだね」
「うん」

 はやての言葉に頷くなのはとフェイト。そして、ちらりと三人はマリーに目を向ける。だが、マリーは未だにブツブツと何かを呟いていた。
 そんな彼女に三人は声をかける事の無意味さを悟り、そのまま部屋から出る。
 一応礼儀として扉から出る直前に頭は下げた。しかし……。

「……むしろ身体的能力のピークラインは常人より……」

 それをマリーが視認出来たかどうかは謎であった。

 
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