魔法少女 リリカルなのは StS,EXU
□第二十八話「少年の願い、青年の決意」(後編)
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割れた世界。そこにスバル、ティアナは落ちて、再び、そこに戻った。薄暗い水の中へと。
「……戻って来た、ね」
「そうね」
二人共頷く、そして。
−さぁ、この奥だ−
……奴もまた現れた。ぼこぼこと黒泡(バブル)が沸き立ち、ヒトガタになる。その口のみ赤い、ヒトガタ――アンラマンユが。
「…………」
−どうした? この底に兄弟はいるんだぜ?−
現れたアンラマンユに少しだけたじろぎ、だが二人はそのまま水の底へと向かう。暗い、暗い、光も届かない奥底へと。
「やっぱりここ、シオンの世界なのかな……?」
「さぁね、でも」
納得は出来る。ココロの世界が心象風景だと言うならば、この光景はシオンの今のココロ、そのものだろう。真実を知って、絶望して、後悔に押し潰されて、哀しみに沈んで、……そして、この世界となったのだろう。なら、この奥底にいるシオンは。
−着いたぜ−
「「……っ」」
アンラマンユの声に二人はハッと我に返った。気付けば、目の前には水底が広がっていた。海草だろうか、それが一面に広がっている。
「……嘘……ここ……!?」
「スバル?」
急にスバルから上がった声に、ティアナは振り向く。
スバルは教会の時と同じく目を見開いて驚いていた。だが、その顔は真っ青になっている。血の気が完全に引いていた。
「ちょっ、スバル、どうしたの?」
「ここ、は――」
−そうさ−
再び響くアンラマンユの声に、二人は目を向ける。
……彼は笑っていた。この上無く、嬉しそうにアンラマンユは笑っていた。
−ここはかつて青空を仰ぐ悠久の草原。何も知らない、無垢な乙女のようだった兄弟の世界さ−
だが、とアンラマンユは、にたりと口端を吊り上げた。その表情は愉悦に歪む。
−真実を知ってからはこんな感じさ。全て水の中。何もかんもを諦めと言う感情で兄弟はこの世界を閉ざしたのさ−
「シオン……」
「…………」
アンラマンユの言葉に二人は俯く。
諦め。
絶望と後悔で押し潰されたシオンが得た、ただ一つの感情。それが、そうだと言うのか。
−愉しかったなぁ。まるで汚される前の乙女の純潔をゆっくりと犯して奪うような感じだった−
「「……っ!」」
その言葉に二人はかぁっと顔を赤らめながら、同時にアンラマンユを睨む。
彼は二人の反応に輪郭のみの手でやれやれと肩を竦めた。
−解らないかなぁ、この快感−
「解らないよ」
「解りたくも無いわ」
即答する。そんな二人にアンラマンユはただ笑うだけだ。
嫌悪すらもコレにとっては糧となるのか。
−無駄話しが過ぎたな……こっちだ−
漸くアンラマンユは歩き出す。アレに案内されるのはひたすら癪だが、シオンがどこに居るのか、解るのもアレだけだ。二人は悔しそうに顔を歪め、それでもと首を振り、彼について歩いて行った。
……シオンに、会う為に。