魔法少女 リリカルなのは StS,EXU
□第二十八話「少年の願い、青年の決意」(中編)
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「ん……?」
「ここは……?」
ダイブでシオンの精神世界、つまりココロの中に入った二人は周りの光景を見る。
水の中。その表現が1番正しいだろう。底の見えない水の中に、二人は居た。
ぷくぷくと底にゆっくりと堕ちていく。そこでふと気付いた。水の中なのに、自分達が息をしている事に。
「ティア、これ……?」
「うん、分かってる。ココロの中だからなのかしら……?」
とりあえず、現状を確認してみる。バリアジャケットはちゃんと着ているし、デバイスもそのままだ。
どうやらダイブ直前と自身達の状況は変わっていないらしい。だが。
「……これ、どこまで沈むのかしら」
「だね……」
沈み続ける状況に嘆息する。試しに上に浮き上がろうと水を掻いたが、まったく水は掻けなかった。どうやら沈む事しか出来ないらしい。
「これがシオンの世界なの?」
「でも……」
ティアナの疑問に、スバルは少し戸惑う。スバルが見たシオンのココロの世界は、青空を仰ぐ悠久の草原だった筈だ。
優しく、綺麗な世界。
だが、この世界は違う。まるで暗闇に誘われるかのように、底に行けば行く程に暗くなる水の中だ。
まるで光が届かなくなるように、段々と周りも暗くなる。だが、同時に底から浮かんで来たものがあった。
「? ティア、アレ何だろ?」
「ん? 泡?」
スバルの視線の先をティアナも見る。そこにはゆっくりと浮き上がって来る泡があった。
大小様々な泡である。まるで二人に合わせるかのように、ゆっくりと浮き上がって来ていた。
「ん〜〜?」
「ちょっとスバル、下手に触っちゃ駄目よ?」
「あ、うん――」
思わず泡に触ろうとしたスバルに飛ぶティアナの注意。それに頷き、スバルが振り返る、と。
――パン。
肩が泡に触れ、あっさりと割れた。
「――あ」
「『あ』じゃ無いでしょ! 『あ』じゃ! あんたって娘は〜〜!」
ジト目で睨むティアナにスバルはあははと笑って事無きを得ようとして――。
−嫌だ−
――声が聞こえた。
「え?」
「……? どうしたの、スバ――」
いきなり疑問の声を上げるスバルに、ティアナも訝し気に首を傾げる。直後、彼女の足にも泡に触れた。
――パン。
軽い音と共に泡が割れる、同時に。
−もう止めてくれ−
再び声が響いた。
「……え?」
「ティアも?」
自身と同じ反応に、スバルは問い掛けると、ティアナも首肯した。
「えっと」
「とりあえず」
二人は頷き合い、同時に指で目の前の泡を突いてみた。直後。
−こんなの、違う−
−俺は、俺は−
声が二度響いた。自分達の予想が当たっていた事に、二人は頷く。
どうやらこの泡に触れると声が聞こえるらしい。それに、この声は――。
「シオンの声、だね……」
「うん……」
それは二人にとっても聞き覚えのある声、シオンの声だった。
さらに浮き上がる泡が、二人の身体に触れ、割れていく。
−なんで、なんで−
−見たくない。見たく、ない−
−ごめん、なさい。ごめんなさい−
−俺が奪った。俺が−
−タカ兄ぃの、全てを−
−ルシアを−
−俺が、全ての−
−元凶−
「「…………」」
響く声に、二人は沈黙する。
悲しみに。
哀しみに。
何より後悔に塗れた声、それを聞いてだ。二人の顔が強張る。
何をこんなに後悔していると言うのか。聞いているだけで辛くなる程の、悲しくなる程の、声。
「……シオン」
「何で、こんな……」
二人は俯きながら疑問を口にする。
ダイブする前、確かにタカトは言った。
真実を見ると。
イクスも言っていた筈だ。
真実を見たと。
なら、このシオンの後悔は、その真実が関係しているのか。
−おやぁ?−
直後、シオンとは全く違う声が響いた。同時に泡が全て消失する。
「「誰!?」」
即座に二人はデバイスを構えた。この沈むばかりの世界で役に立つかは疑問ではあったが、無いより有る方がやはり心強い。
−何だ、お客さんか−
そんな声と共に二人の眼前が沸き立つ――ボコボコと。
それは二人にとって見覚えのあるものだった。
――因子、それが沸き立っていたのである。。
「スバル!」
「うんっ!」
叫び、デバイスを沸き立つ因子に向ける。程無くして、因子は一つの姿をとった。ヒトガタの形を。
−歓迎するぜ?−
ニタリと笑う影。それに二人は構わなかった。デバイスを握る力が強くなる。
「あんた、何?」
−ん? 俺か? お前達に分かり易く言うとカミサマだよ−
「カミ……?」
スバルがその声に繰り返し問う。それにヒトガタは笑った。
−そう、アンラマンユって言うんだけどな−
「アン……?」
「何、それ?」
二人して漏らす疑問の声。それにカカカと笑い声が響いた。
−拝火教なんぞは知らねぇわな? なら、そうだな−
ニヤリと影が笑う、そして口を開いた。
−全ての因子の元になった存在と言ったら分かるか?−
「「な……」」
そのあまりの答えに、二人は目を見開いて驚いた。
かつてイクスはこう言った――因子は精霊のようなものだと。
そして精霊とは神、つまり世界そのもの、概念からなる端末だ。その元と言うのならば、こいつは――!
「神様、て訳?」
−さっきもそう言ったぜ?−
「「…………」」
即答するアンラマンユに二人共黙り込む。こいつが全ての元凶、だが。
「なんで、シオンの中に居るの……?」
スバルがぽつりと呟く。それが聞こえたのか、アンラマンユは再びニタリと笑った。
−何も知らないんだな、お前達?−
「「…………」」
−いいぜ、なら−
図星に沈黙する二人にアンラマンユが両手を広げる。ぱっくりと広がる口が、鮮烈な赤を彩った。
−お前達にも、見せてやるよ。兄弟の真実を−
「「――っ!」」
次の瞬間、水の中の世界は割れ、二人は世界の割れ目に飲み込まれたのであった――。